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絵画のような人魚ー61ー
しおりを挟む連休の図書館は家族連れや普段来ない人々で忙しかった。次から次へ来る人の対応に、僕は忙しく働いていた。
それでも【静寂すぎる図書館】は静かな空間を漂わせている。どれだけ世間が騒がしくても、ここの静かな空間だけは崩れない。ようやくひと段落した時、中川さんから休憩に入るように言われたので少し遅めの昼食を取ることにした。
「あっ、お疲れ様です」
「お疲れ様。今から休憩?」と事務所前の廊下で三葉さんとすれ違ったので挨拶を交わした。
ある夜以来、三葉さんとの約束で仕事場は普通に接するよう言われていたのだ。僕たちの関係はよくわからない。彼女は何も言わないし、何も聞こうとしない。僕に付き合って女性がいることは知っているのに……
僕の中で長い人生の線路がある。その人生の中で二人……いや、三人の女性が現れた。僕は列車に乗って、目の前の駅を乗り降りしている。そして自らレールを切り替えては、同じレールに乗りながら駅を降りては繰り返しているのだ。僕は何色の列車なんだろう。きっと今は若いからわかっていないのか?それとも僕の知らないレールが存在しているかもしれない。
夕方になると辺りは薄暗く景気を変えて公園の電灯に明かりが灯り始めた。仕事を終えて、僕は彼女からの電話で駅前のファミレスで待っていた。
「ごめん待たせたね」とサラサラの髪の毛を揺らして、彼女が僕の正面に座った。そして可愛らしいえくぼを見せて笑う。
それから少し話しをした後、ファミレスを出て、僕たちは渋谷駅へと向かった。帰りに小さな商店街へ寄ると、彼女は今晩の食材を買うのだった。ほとんど自炊をしていると言って、料理に関しては得意だと言っていた。
彼女のマンションに着くと、一瞬だけ部屋に入ることに抵抗があった。きっと後ろめたい気持ちがあるからだ。
「少しだけね」と買ってきたワインを開けてグラスに注ぐ。
「今日は一杯だけよ。四季くん弱いからね」
髪を束ねてキッチンへ入ると、彼女は手際良く料理を始める。一時間後にはカレーのいい匂いが漂って、僕のお腹が鳴るのだった。まるで同棲しているカップルみたいだ。僕たちはいろんな話しをして、二人だけの時間を過ごした。
腹が満たされて、僕はテレビを鑑賞していた。彼女はキッチンで洗い物をしている。そのあと、食後のコーヒーを飲んで時間がゆっくりと流れては過ぎていく。不思議な感覚だった。まだ2回目なのに、彼女の部屋は居心地が良くてリラックスができる。まるで何年も一緒に過ごしていたような、そんな錯覚さえ感じていたのだ。
その夜、僕はそのまま泊まって、彼女とセックスをした。
気持ちが揺れているんじゃない。みゆきも大事で、三葉さんも大事なんだ。僕の中で流れる色は、ただただ単純に複雑な色彩が塗られている。
だけどその色は、空は青、雪は白と言った単純な色じゃない。そんな事を思ってはベッドの中で深く深く沈むのだった。
つづく……
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