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絵画のような人魚ー67ー
しおりを挟む「そう……それは辛い経験だったわね。だから君は自分の色を知りたいのか」
「怖いんです。自分にも父と同じような感情があるんじゃないかって。でも今付き合ってる彼女は、僕に対して無色な色を感じると言ってました」
「それを聞いて、四季くんはどう思ったの?」とヒロセが訊く。
「正直言って、よくわかりませんでした。無色に感じたのは彼女の方であって、実際に僕の心はぐちゃぐちゃな色が重なり合っています」
「そうかしら?四季くんの彼女さんは感性が鋭いって言うか、君の魅力を感じたから言ったと思うわ」
「僕の魅力!?」
「そうよ。私が母の美しさを受け継いだように、きっとあなたも母親の魅力を受け継いだのよ。まあ、この場合、四季くんは父親の方に似ていると言われたくないから、お母様の方と言っただけよ。実際はわからないから」
「無色のどこが魅力なんだ……」と僕は呟くように言った。
「自分の魅力なんて、普通はわからないものよ。私はわかっているわ。母から受け継いだ絶対的な美しさがあるからね」そう言って、ヒロセさんは自分の指先を見つめた。
本当に美しい指だった。照明に照らされた指は細長く、指先一本一本に確立された美しが合った。うぶ毛さえもない指先に、僕の頭の中は性的なイメージが膨らんでいた。
「四季くんの魅力、それは無色透明な色彩よ。だから数日で、三葉さんが綺麗になったのね」
思わぬ名前に驚いて、僕は手に持っていたナイフとフォークの動きを止めてしまった。
「中川さんが言っていたのよ。三葉さんが綺麗になってると。あなたに恋をしているからね。相当、四季くんにお熱だわ。女を長く生きているとわかっちゃうのよね。中川さんの女の勘ってやつ」
図書館では普通に接していたつもりだったけど、実際はバレていたんだ。ヒロセさんから聞いて、僕は彼女がいることを話した事に後悔した。
「まあ、特にプライベートに関してはとやかく言わないから心配しないで、但し、四季くんを好きになった女性は君の魅力に気付いている女よ」
「僕みたいな無色透明に!?」憂鬱な気分になって、真っ白いテーブルクロスへ色を移し変えるみたいに見つめた。
「だから良いのよ。四季くんは無色透明だから、女性は色を染めることができる。女性わね、自分の考えとか好きな事が一緒だと嬉しいのよ」
「なんか影響されてるだけで、僕の色はその人の色になってるだけじゃないですか」
「そうかしら?それが四季くんの色であって、他人の色じゃないのよ。君の魅力的な色なの。あなたは無色透明な色彩を持っているのよ」
今まで考えた事がなかった。僕の色は染められた色であって、僕自身の色彩なんだ。
「四季くん、あなたは十分魅力的な男性よ。だって二人の女性から好かれてるんだから」とヒロセさんは嬉しそうに言う。
だけど、頭の中でもう一人の女性が思い浮かんでは複雑な気持ちだった。僕の魅力は無色透明で、色彩は後から滲んでいく。不思議と心に爽やかな色彩が溢れた。そしてヒロセさんは微笑みながら、美しい指先でワイングラスを傾けた。
今宵の食事はまだ続くのだった。
つづく……
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