異世界転生したら女に生まれ変わってて王太子に激愛されてる件

高見桂羅

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86.羞恥心などくれてやる

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図書室の窓から暖かな陽射しが降り注ぎ、外から小鳥の囀りが聴こえてくる。

なんて清々しい朝なんだろう!

前世の学校とは違い運動部の朝練があるわけでもないから、本当に静かだ。

こんなに早くに学院が空いてるのは、教師や学院内の植物達の世話をする庭師や生徒が来る前に清掃する下働きの人たちが既に仕事をしているからだ。

図書室も今日の俺たちみたいに早くに来て本を読む生徒も少なからず居るらしく、先に清掃を終わらせて鍵を空けてくれているのだ。

さっき図書室に入った時に丁度清掃を終わらせた下働きの人が頭を下げて出ていった。
そして今日はありがたくも、まだ誰も来ていない。

つまり今、図書室には二人しか居ない。


そう、二人である。

俺の目の前には婚約者様とよく似た顔立ちの美少年が座っている。

いつ誰がきても良いようにと、本を一冊づつフェイクに持ってきているが開くこともなくそれぞれ目の前の机に置いたままだ。

早朝の爽やかさなど皆無で、寧ろ無言で空気が重く感じる。


沈黙を通したい俺は何も言わないので、レオナルド殿下は頬に掛かった髪を耳にかけながら思案顔をしている。
その仕草は14歳とは思えぬ色気があって、少しドキっとしてしまった。
サラサラの輝く髪のイケメンなんて少し羨ましい。

でも中身は女の子だと思うと苦労も絶えなかったんだろうなとも思う。

そんな今は関係の無い事を考えているとバレたのかジトリと見られた。

「アンジェリカ嬢、黙秘を続けて時間を稼ぐおつもりですか?」
「な、何の事でしょう?」
「昨日ミズキと……」
「ああ!ハナミズキのお話でしたわね。途中で切り上げて申し訳ありませんでした。非礼をお許しください」

話をそらすために少し早口で捲し立てながら軽く頭を下げた。
俺の勢いに少し驚いて動きが止まったレオナルド殿下だったが、直ぐに正気に戻り「あの場は僕だけでしたから問題はありません」と許してくれた。

でも話をそらすのには失敗したようだ。
直ぐに話し出そうとした俺に「僕の話を聞いてください」と言われてしまった。
やっぱり誤魔化されてくれないかー。そうだよなー。


「アンジェリカ嬢、僕と同じ転生者である貴女が僕の前世の名を知っていた理由をお聞かせくださいますか?」

今度は直球で聞いてきた。
時間は限られている。何時、人が来るかも分からないので遠回しはやめたようだ。

やっぱり、レオナルド殿下は水城だったのか。

でも、男の俺が女になってぶりっ子してるなんて恥ずかしすぎて言いたくない。

言い淀んでいたら、レオナルド殿下──水城はふぅとため息をついた。

「女性に酷い事はしたくはないんですが……僕……いえ、わたし・・・と深く関わりのある女性は……あんまり思い出したくない事も多いので」

水城は高圧的な態度で睨むような表情をしていた。
水城の、こんな顔は初めてだった。

大人しくて、花の話をするときは、瞳を輝かせて控えめだけど微笑みをする素朴で優しい子だった。
誰かを見下したり貶めたりするような奴じゃなかったと思う。

前世でなにがあったんだろう?
こんな顔をするぐらい警戒してるなんてよっぽどじゃないか?

誤魔化したら変な方向へ勘違いされて取り返しがつかなくなるかもしれない。
俺の羞恥心などくれてやるから、そんな顔なんてするなよ。

「水城……まってくれ。恥ずかしくて黙ってたけどの前世はお前と同じで……その……反対の性別で、男だったんだ!」
「……え?」


水城は目を見開き呆けた顔をしている。
そんな水城を見る自分の顔が羞恥心で火照っているのが分かる。

「その……覚えてるかわかんないけど……俺はその高1の1学期の時に隣の席だった、谷口彰だ」
「……た、にぐ……ち……くん?事故で……亡くなった?」
「そう。鉄骨の下敷きになって死んだ谷口」

ピタリと動きを止めてじっと俺を見る水城の視線に目線を合わせることが出来ず、うつ向いた。
焦点が合わず、ぼんやりとした視界の端に開くこともなく机に置いた本が映る。

水城がいつ転生したかはわからないけど、豊の時も俺より数年後だったのに同い年とかになってるから、水城もいつ亡くなったかは分からないので俺から聞くのは少し憚られるので聞かない。

と言うか水城が固まって動かない。
やっぱ気持ち悪かったか!?
そうだよな!男があんなぶりっ子してたら気持ち悪いよな!元の俺を知ってるんだから水城の中では彰がぶりっ子してるような感じになるかもだし……

「やっぱり気持ち悪いよな」

落ち込んで言うと慌てた様子で「見すぎてごめんなさい」と謝られた。

「気持ち悪くないよ……その……僕も同じだし……」



男勝りの女の子はよくいるし、気持ち悪くは思われないが、男が女みたいな話し方すると気持ち悪いとか思う人は多いと思う。

女が男っぽい格好は良いのに、なんで男が女みたいな格好は受け入れにくいのか……


なんて考えが脱線しだした俺をソワソワと落ち着かない感じになった水城が「ホントに谷口くんなんだよね?」と確認してきたので肯定すると水城は嬉しそうに微笑んだ。




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