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85.お粗末な策
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思わず呟いた言葉に慌てて俺は口許を掌で覆った。
目を見開いたレオナルド殿下と視線が合い数歩後退り距離を取った。
「なんで……」
「レ、レオナルド殿下!私、用事を思い出しましたので、申し訳御座いませんが失礼します!」
相手の言葉を遮るように言葉を被せ、淑女の礼ではなく日本のお辞儀をして駆け出す。
後ろから「アンジェリカ嬢!」とレオナルド殿下が呼び止めるように名を呼ばれたが、振り替えることなく走った。
王族に対して失礼極まりなく咎められる態度だが、パニックに陥っていた俺は無我夢中で走った。
途中、他の生徒とすれ違わなかったのは不幸中の幸いだろう。
緊急事態でもないのに全速力で走るご令嬢なんてはしたないと思われるからだ。
でも俺からすれば緊急事態です!と自分に言い訳しながら待たせていた家の馬車に駆け寄る。
馬車に乗り込み、出してと頼む。
御者さんが驚いた顔をして少し呆けていたが、再度言うと、慌てて頭を下げてからドアを閉めて出してくれた。
馬車に揺られながら、何時もは眺める車窓にカーテンを引いて外から見えないようにしてから、誰にも見られていない事を良いことにダラリと深く凭れ、乱れた息を整える。
息が落ち着いてきて、頭も少し冷静になってきたようなので、先程の事を考える。
レオナルド殿下は前世でクラスメイトだった水城花の可能性が高い。
水城は女子だったけど、俺も反対の性別に転生してるのだから、水城も男に転生してても可笑しくはない。
そして、おそらく向こうは俺の正体には気付いてないはず。
なら、流石に男の俺がぶりっ子女をやってるなんてキモい事実は、出来ればバレたくないから黙っている方向で行きたい。
……とは言え、レオナルド殿下を《水城》と呼んでしまった。
ハナミズキの話をしていたから勘違いしてくれていれば問題はないんだが、あの顔は多分自分の名前を呼ばれた事に気付いてた顔だった。
………………これ詰んでね?
次会ったら絶対問いただされるやつじゃん!
頭を抱えて唸るが、ふと1つの案が浮かぶ。
二人きりにならなければ大丈夫ではないだろうか!
前世の話なんて誰かに聞かれたらヤバいし人前では出来ない。
学年も違うから気を付けておけば会うことも無いだろうし……兄の婚約者の俺と二人きりになるなんて誤解を招きかねないから、呼び出しされてもジョセフ以外の男性と二人きりなんてなれない~とか言って誰かに着いてきてもらえば……
これなら完璧だ!
グッと拳を握り天に向かって突き上げた時、家に着いたと御者がドアを開けて、俺と目があった瞬間にドアを閉められた。
その後、なにも見ていないと遠目をした御者に誰にも言わないでと念押しする羽目になった。
翌朝、何時もより大分早く家を出る。
勿論レオナルド殿下と遭遇しない為だ。
何故こんな早くに?とリーチェが訝しんだが、早く目覚めてしまったから学院で本でも読むつもりと濁して出てきた。
校舎は同じだが2年は上の階だし、用事がない限りは他学年も他クラスの人もそうそう来ない。だから大丈夫。
少なくとも人さえ居れば逃げ道はあるはずだ。
せっかく同じ転生者だったのにな……でも俺だとバレたら俺は恥ずかしいし、水城にキモがられるのはやだし。
これが最善と自分に言い聞かせた所で、御者から着いたと声が掛かる。
返事をして暫く間が空いてからドアが開いた。
昨日の今日だから気を使ってくれたんだろう。馬車を降りてからお礼を言って校舎に向かう。
桜に似た花が舞い散る中、辺りを警戒しつつ並木道を進み玄関にたどり着いた。
玄関を潜ると早めにきたからか昨日とは打って変わって人は居なかった。
ホールを進み、階段に向かう。
階段に差し掛かりここまで来れば安心だと胸を撫で下ろしてた直後、後ろから声をかけられた。
ビクリと体を震わせてから恐る恐る振り返ると、笑顔のレオナルド殿下か立っていた。
「お早う御座います。随分と早いですね」
「ご機嫌麗しゅう……殿下……その……えーと……早くに目が覚めて……せっかくなので……そのぉ……図書室で本を借りて……そう、図書室で読もうかと思いまして……」
「奇遇ですね。僕もそのつもりでして、ご一緒しても?」
「……ハイ……ヨロコンデー……」
俺は涙ながらに頷くしかなかった。
目を見開いたレオナルド殿下と視線が合い数歩後退り距離を取った。
「なんで……」
「レ、レオナルド殿下!私、用事を思い出しましたので、申し訳御座いませんが失礼します!」
相手の言葉を遮るように言葉を被せ、淑女の礼ではなく日本のお辞儀をして駆け出す。
後ろから「アンジェリカ嬢!」とレオナルド殿下が呼び止めるように名を呼ばれたが、振り替えることなく走った。
王族に対して失礼極まりなく咎められる態度だが、パニックに陥っていた俺は無我夢中で走った。
途中、他の生徒とすれ違わなかったのは不幸中の幸いだろう。
緊急事態でもないのに全速力で走るご令嬢なんてはしたないと思われるからだ。
でも俺からすれば緊急事態です!と自分に言い訳しながら待たせていた家の馬車に駆け寄る。
馬車に乗り込み、出してと頼む。
御者さんが驚いた顔をして少し呆けていたが、再度言うと、慌てて頭を下げてからドアを閉めて出してくれた。
馬車に揺られながら、何時もは眺める車窓にカーテンを引いて外から見えないようにしてから、誰にも見られていない事を良いことにダラリと深く凭れ、乱れた息を整える。
息が落ち着いてきて、頭も少し冷静になってきたようなので、先程の事を考える。
レオナルド殿下は前世でクラスメイトだった水城花の可能性が高い。
水城は女子だったけど、俺も反対の性別に転生してるのだから、水城も男に転生してても可笑しくはない。
そして、おそらく向こうは俺の正体には気付いてないはず。
なら、流石に男の俺がぶりっ子女をやってるなんてキモい事実は、出来ればバレたくないから黙っている方向で行きたい。
……とは言え、レオナルド殿下を《水城》と呼んでしまった。
ハナミズキの話をしていたから勘違いしてくれていれば問題はないんだが、あの顔は多分自分の名前を呼ばれた事に気付いてた顔だった。
………………これ詰んでね?
次会ったら絶対問いただされるやつじゃん!
頭を抱えて唸るが、ふと1つの案が浮かぶ。
二人きりにならなければ大丈夫ではないだろうか!
前世の話なんて誰かに聞かれたらヤバいし人前では出来ない。
学年も違うから気を付けておけば会うことも無いだろうし……兄の婚約者の俺と二人きりになるなんて誤解を招きかねないから、呼び出しされてもジョセフ以外の男性と二人きりなんてなれない~とか言って誰かに着いてきてもらえば……
これなら完璧だ!
グッと拳を握り天に向かって突き上げた時、家に着いたと御者がドアを開けて、俺と目があった瞬間にドアを閉められた。
その後、なにも見ていないと遠目をした御者に誰にも言わないでと念押しする羽目になった。
翌朝、何時もより大分早く家を出る。
勿論レオナルド殿下と遭遇しない為だ。
何故こんな早くに?とリーチェが訝しんだが、早く目覚めてしまったから学院で本でも読むつもりと濁して出てきた。
校舎は同じだが2年は上の階だし、用事がない限りは他学年も他クラスの人もそうそう来ない。だから大丈夫。
少なくとも人さえ居れば逃げ道はあるはずだ。
せっかく同じ転生者だったのにな……でも俺だとバレたら俺は恥ずかしいし、水城にキモがられるのはやだし。
これが最善と自分に言い聞かせた所で、御者から着いたと声が掛かる。
返事をして暫く間が空いてからドアが開いた。
昨日の今日だから気を使ってくれたんだろう。馬車を降りてからお礼を言って校舎に向かう。
桜に似た花が舞い散る中、辺りを警戒しつつ並木道を進み玄関にたどり着いた。
玄関を潜ると早めにきたからか昨日とは打って変わって人は居なかった。
ホールを進み、階段に向かう。
階段に差し掛かりここまで来れば安心だと胸を撫で下ろしてた直後、後ろから声をかけられた。
ビクリと体を震わせてから恐る恐る振り返ると、笑顔のレオナルド殿下か立っていた。
「お早う御座います。随分と早いですね」
「ご機嫌麗しゅう……殿下……その……えーと……早くに目が覚めて……せっかくなので……そのぉ……図書室で本を借りて……そう、図書室で読もうかと思いまして……」
「奇遇ですね。僕もそのつもりでして、ご一緒しても?」
「……ハイ……ヨロコンデー……」
俺は涙ながらに頷くしかなかった。
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