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40.キャパオーバー

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ジョセフにエスコートされ教室まで送ってもらい、お礼を言って手の甲にキスをされてジョセフが見えなくなるまで見送るのが何時ものワンセットだ。

何時も通りお礼を言って慣れた手付きで手を差し出した。ぶっちゃけ恥ずかしいんですよこれも。でも毎朝やるもんだから無駄な抵抗はやめた訳です。だって抵抗したってやられるし、むしろ長引くし……だからさっさと終わらせてご退場願うのが良いと途中で気付いてからはサクッと終わらせて何もなかったかのように振る舞うのが良いんです!

だが今日は違った。

俺の差し出した手をとって引き寄せられ、すっぽりとジョセフの腕の中に収まっていた。

あれ?何で俺は抱き締められてるんだ?

何時もと違うジョセフの行動に俺は混乱した。
ジョセフを見上げると愛しそうに微笑んでいて、毎度の眩しい笑顔に動揺した。
くっそ!これだからイケメンは!ズルい!
頬に熱が集まるのを感じて俯いて恥ずかしいから離せと身動ぎしたが、やっぱり力では勝てなくて、怒鳴り付けようと顔を上げて口を開いた瞬間に頬にキスをされた。
ポカンと固まった俺にクスッと笑ったジョセフは触れるだけのキスを唇に落として「お昼も迎えに来るから」と言い残して呆然と立ち尽くす俺を残して立ち去った。

どれぐらい固まってたかは覚えていない。
周りの視線が痛いぐらい受けているのに微動だ出来なくて、見えなくなってもジョセフが立ち去った方向を見ていた。
周りの騒ぎに何事かと不思議そうに人の波を掻き分けて(いや、皆公爵令嬢だから道を開けてた。さながら救急車が通るときの車のようにざっと避けてたわ)きたシアが俺を回収して教室の自分達の机の所まで連れてってくれた。

その一部始終を豊が見ていたことに俺は気づきもしなかった。



「アンジェ?しっかりしてくださいませ!一体何がありましたの?」

シアに揺さぶられて漸く正気を取り戻した俺は、一部始終を思いだし、一気に真っ赤になって顔を手で覆い隠してその場にしゃがみこんだ。

「~~~~~っあああああああ!!!!!」
「アンジェ!?」

令嬢らしくないなんて知るか!!!
なんて事してくれたんだアイツは!!
人前で!人前でえええ!!!きききき……っキスするなんて!
先週からジョセフが可笑しい!前はあんなんじゃ無かったのに……何で、あんなに愛情表現が激しくなってんですか!?

「アンジェ!大丈夫ですの!?落ち着いてくださいな!」
「し……シア……も……無理……うう…っ…」

全力疾走で逃げ出したい。でも出来なくて涙が溢れていた。恋愛初心者の俺のキャパはとうに越えていて、どうして良いのか分からなくて……
なんて女々しいんだろう。
男なら受け止めて包容力を見せつける場面じゃないか?なのに泣いてるなんて女じゃあるまし……いや、今女だったわ。
それでも中身は男のつもりだった。でも転生して中身まで女らしくなってしまったようだ。
余計に辛くて涙が止まらなかった。

仲の良いクラスメイトたちは俺を心配して寄ってきたが、半分は軽蔑の眼差しを向けるものもいた。

「あんなに人がいる前ではしたない」
「婚約者だからと見せつけるのはやめていただきたいわ」
「嫌だわ、何故ジョセフィード殿下はあんな方を……」

何時もなら軽くあしらうのに、今日はそんな余裕もなくて俯いていた。
俺とジョセフがお似合いじゃないのは俺が一番分かっていた。
 見た目はともかく……領地から出ても来なかった俺は田舎者令嬢なのだと馬鹿にされていることは知っていた。
クラスには俺がジョセフの婚約者だと敵意をみせる者も少なくはなかった。
従妹のシアが傍にいるからか嫌がらせをされたことはないが、それでも周りの視線は痛かった。
見せびらかしたつもりは無い。むしろ平穏無事に過ごしたいのだ。な
のに先週末からジョセフが可笑しいぐらいに、スキンシップが過剰になった。
最近ようやく相手の好意が嬉しいと感じ始めていて、もしかして俺もそうなのかも……?なんて思えるようになったばかりだ。まだ朧気な気持ちに、ここ最近のジョセフの怒涛の攻撃が耐えられるわけがなかった。


気分が悪くなってきて頭痛もしてきた。
シアが何かを言っているのに意識が朦朧としてそのまま意識が途絶えた。





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