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41.大切な友人(グレイシアside)

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教室の前に人だかりが出来ていた。
グレイシアは首をかしげながら手前にいる生徒に声をかけると、順番にさっと道を開けてくれたのでそのまま進むと、アンジェリカが教室の前で固まって立ち尽くしていた。
どうやら周りがアンジェリカを見てることに気づいたグレイシアは慌ててアンジェリカの手を引いて教室に入った。

「アンジェ?しっかりしてくださいませ!一体何がありましたの?」

アンジェリカを揺さぶり声をかけると、ハッとした表情になり、ようやく意識が戻ってきたことが分かって安心したのも束の間、アンジェリカは顔が真っ赤になったかと思ったら急に絶叫を上げてしゃがみこんでしまった。
グレイシアは慌ててその場に膝を着いてアンジェリカをなだめようとした。

「アンジェ!大丈夫ですの!?落ち着いてくださいな!」
「し……シア……も……無理……うう…っ…」

アンジェリカは途切れ途切れに掠れた声をだし最後は涙声になっていた。
覗き込んだ顔は真っ赤になって涙が溢れていた。
後から来たエミリーも既に来ていたレティーツィアも心配そうに駆け寄ってきたがアンジェリカは震え嗚咽が止まらなかった。
グレイシアはアンジェリカの背を撫でながらどうすれば良いのか困り果てていた。
何かあったことは明白で、でもこの状態のアンジェリカに聞くことは無理だと分かっていた。レティーツィアに聞けば事情が分かるかもしれないと顔を上げた時に、周りの何時もアンジェリカを目の敵にしている令嬢達が囁きあって、嗤ってるのが見えた。

――――ああ……何となく理解いたしました。

玄関ホールで偶然見かけたジョセフィードは機嫌が良く、何か良いことがあったのかと不思議に思っていたけど、きっと今日は皆の前で見せ付けるように過剰にベタベタなさったのだろうとグレイシアは結論付けた。
アンジェリカはとっても純真無垢で手の甲にキスをされるだけで真っ赤になる。
そこがとても可愛らしいと思っていが、そんなアンジェリカを困らせるようにジョセフィードは人前でも平気でくっついていたのだ。あまり困らせるなと常日頃言っていたからまだマシではあったが……。
そんなジョセフィードの行動によってアンジェリカはジョセフィードの正妃の座を狙う令嬢達に冷たくされていた。
筆頭はソールにいる侯爵令嬢で、その取り巻きがルナにも何人かいて、彼女達は事あるごとにアンジェリカを貶めるような事を言うのだ。
普段のアンジェリカはそんな彼女達を簡単にあしらっていたが、やはり気にしていたのだろう。強がっていたことに気付いてあげれなかった事が情けないとグレイシアは自分を責め、従兄様は過度な事はしないだろうと高を括っていた自分の不甲斐なさを悔やんだ。

ジョセフィードが何故人前でああするのかは理解はしている。アンジェリカはモテるからだ。本人は気づいていないが、高飛車な令嬢が多い中、アンジェリカは控え目で親しみやすい。厚化粧が基本な他の令嬢と比べ化粧も薄化粧で、香水は苦手だと微かに香る香油しか付けてはいなかった。そんなアンジェリカに想いを寄せる男子生徒も多い。
あと名前の通りまるで天使のように可愛いのだから、他の男達に王太子の婚約者だから手を出すなと牽制していたのだ。それが悪い方向に転がっていることも気づかずに……
だからこそグレイシアは自分がフォローしようと思っていた。兄のように慕うジョセフィードも、こんな自分と損得なしに仲良くしてくた大事な友人のアンジェリカも守りたかった。

ぐらりと揺れて気を失ってアンジェリカが倒れ込んでしまった。

「アンジェ!」

倒れたアンジェリカにグレイシアはオロオロするしかなかった。
保健室へ運ばねばと思ったがグレイシアが持ち上げられるはずもなく、周りを見渡した。

面倒事を避けたいとばかりに目を反らす男達やクスクスと嗤う令嬢達に怒りが込み上げてくる。
一喝しようと口を開いたとき、すっと一人の男子生徒がアンジェリカを抱えあげた。

「イーノス……」

何時もアンジェリカに嫌味を良い続けていたアンジェリカの隣の席の男。眉間にシワを寄せ周りを見渡した後、グレイシアを見た。

「緊急事態ですから、保健室までは僕が運びましょう」

そう言ってさっさと歩いていったイーノスにグレイシアは一瞬面食らったが、ハッとなり慌てて追いかけた。

「イーノス、すみません。助かりますわ」
「これぐらいしか僕にはできないので……それに僕はあそこまで落ちぶれたくはないですね」

何時もの皮肉めいた顔ではなく、怒りを滲ませた顔は普段の彼とはかけ離れていた。グレイシアはひょろりと細長いのに意外と力があるのだなと思ったのだった。


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