2 / 6
第一話 理想のエンディング
しおりを挟む
「…さん、山井さん!」
青年は頬を叩かれながら自分の名前を呼ばれ、ゆっくりと意識が戻ってきた。
雨はやんでいるようだ。
「よかった、まだ死んでいませんでしたね。」
どうやら、足を滑らせたものの、落ちたのは橋の内側だったらしい。死に損ねたのだ。
「財布の中身を見せていただきましてね、名前がわからなかったもので、保険証で確認しました。あ、わたくしこういうものです。」
そういって女はポケットから名刺を取り出した。
「…エンディングプランナー?」
「はい!わたくし、エンディングプランナーの井口、と申します。出席番号で1番をとったことあるんですよ!『い』ぐちなのに!すごくないですか?」
「いや、どうでもいいです…、で、なんなんですエンディングプランナーって?」
「はい!ご説明させていただきますね!」
そうしてその女――井口は、「エンディングプランナー」なる職業の説明を始めた。
曰く、依頼者の理想の死に方の演出を実現する仕事だという。
「ほら、暇なときに話したことありません?もし死ぬならこうやって死にたい~とか、この死に方はいやだな~とか。」
「まぁ、ありますけど、死に方なんて決められないでしょう?」
「いえ、そんなことありません。現にあなたは今自殺という死に方をしようとしていたじゃありませんか!」
山井は思わず、口ごもる。
「年齢は22歳、大学を卒業したばかりですかね?ブラック企業に勤め、彼女もおらず、頼りにある友人もおらず、何もいいことがない人生に嫌気がさし、帰り道に橋から飛び降り自殺…なんと嘆かわしいんでしょう!?」
「…一体何なんです?俺を馬鹿にしたいんですか?あなたに何がわかるんです?
確かに自殺はしようとしていましたが、理由まではわからないでしょう!?」
「わかりますよ~、仕事ですからね、鞄の中身を見たらその人の人生とか性格とか大体わかるんですよ。あ、鞄を見たのは不可抗力ですよ不可抗力!あなたの名前がわからないと、気絶したあなたを呼びかけられませんから。」
中身を荒らした鞄を整理しながら、飄々と語り続ける。
「…まあいいです。で、その『エンディングプランナー』とやらなら、僕にもっと良い死に方を提供できると?」
「そうです!その話をしたかったんです!」
ぱぁっと明るい笑顔を見せた後、井口は自分のビジネスバッグからファイルを取り出した。
「いくつかプランがあるんですがね、山井さんにおすすめなのはこの『トクトク選択エンディングプラン』です!複数のエンディングプランから…あ、死に方のことですね、そのプランから、一つ選んで実現させてもらうものになります!完全オーダーメイドタイプのプランもあるんですが、ちょっと値が張りまして…山井さんの収入からするに、こちらの方が財布にやさしい!心にやさしい!理想のエンディングプランをお楽しみいただけるかと!」
「収入まで分かるんですか?気味が悪い…。
…いや、それに私にはこのプランだって高いですよ。払えないです。」
「ご安心ください!わが社のサービスで、希望するプランの料金が今すぐ支払えない場合、サポートさせていただきます。具体的には、保険会社との契約や、エンディングを迎えるまでの収入確保のお手伝いなどです!。そのサポート込みの山井さんの支払い能力なら、このプランもご利用いただけます!」
「保険会社の契約って…死ぬやつと結ぶところなんてないでしょう…いや、それも言わなければ良いのか…?でも自殺の場合って保険金もらえないでしょう。」
「あ、いえ、私たちが行う演出はあくまで『あなたが希望する死に方』です。自殺とは限りません。保険会社からはあなたは外部的な要因で死んだように見えるのです。」
そういって井口はプランに含まれる選択可能な死に方の一覧資料を見せた。
『きれいな花に囲まれるエンディング』『因縁の相手と刺し違えるエンディング』『たらふくおいしいものを食べたあと眠りにつくエンディング』…利用者の年齢や性別データなどとともに、多様な死に方のプランが書かれていた。
「いかがです?先ほども言った通り、お金の心配はありません。わたくしどもの方で全力でサポートいたします。問題はあなた自身の決定です。何も良いことがなかった人生、最後くらい素晴らしい演出をされたいと思いませんか?どうせ今日失うはずだった命です。わたくしに預けてみてください。きっと素敵なエンディングにしてみせますよ。」
「そうか…まあ、そうですね、では、このプランにします。」
自分のペースでしゃべり続ける井口に調子を狂わされ、半ば諦めるように山井は一つのプランを指さした。
『ヒーローのようなエンディング』
「…ご利用ありがとうございます♪」
青年は頬を叩かれながら自分の名前を呼ばれ、ゆっくりと意識が戻ってきた。
雨はやんでいるようだ。
「よかった、まだ死んでいませんでしたね。」
どうやら、足を滑らせたものの、落ちたのは橋の内側だったらしい。死に損ねたのだ。
「財布の中身を見せていただきましてね、名前がわからなかったもので、保険証で確認しました。あ、わたくしこういうものです。」
そういって女はポケットから名刺を取り出した。
「…エンディングプランナー?」
「はい!わたくし、エンディングプランナーの井口、と申します。出席番号で1番をとったことあるんですよ!『い』ぐちなのに!すごくないですか?」
「いや、どうでもいいです…、で、なんなんですエンディングプランナーって?」
「はい!ご説明させていただきますね!」
そうしてその女――井口は、「エンディングプランナー」なる職業の説明を始めた。
曰く、依頼者の理想の死に方の演出を実現する仕事だという。
「ほら、暇なときに話したことありません?もし死ぬならこうやって死にたい~とか、この死に方はいやだな~とか。」
「まぁ、ありますけど、死に方なんて決められないでしょう?」
「いえ、そんなことありません。現にあなたは今自殺という死に方をしようとしていたじゃありませんか!」
山井は思わず、口ごもる。
「年齢は22歳、大学を卒業したばかりですかね?ブラック企業に勤め、彼女もおらず、頼りにある友人もおらず、何もいいことがない人生に嫌気がさし、帰り道に橋から飛び降り自殺…なんと嘆かわしいんでしょう!?」
「…一体何なんです?俺を馬鹿にしたいんですか?あなたに何がわかるんです?
確かに自殺はしようとしていましたが、理由まではわからないでしょう!?」
「わかりますよ~、仕事ですからね、鞄の中身を見たらその人の人生とか性格とか大体わかるんですよ。あ、鞄を見たのは不可抗力ですよ不可抗力!あなたの名前がわからないと、気絶したあなたを呼びかけられませんから。」
中身を荒らした鞄を整理しながら、飄々と語り続ける。
「…まあいいです。で、その『エンディングプランナー』とやらなら、僕にもっと良い死に方を提供できると?」
「そうです!その話をしたかったんです!」
ぱぁっと明るい笑顔を見せた後、井口は自分のビジネスバッグからファイルを取り出した。
「いくつかプランがあるんですがね、山井さんにおすすめなのはこの『トクトク選択エンディングプラン』です!複数のエンディングプランから…あ、死に方のことですね、そのプランから、一つ選んで実現させてもらうものになります!完全オーダーメイドタイプのプランもあるんですが、ちょっと値が張りまして…山井さんの収入からするに、こちらの方が財布にやさしい!心にやさしい!理想のエンディングプランをお楽しみいただけるかと!」
「収入まで分かるんですか?気味が悪い…。
…いや、それに私にはこのプランだって高いですよ。払えないです。」
「ご安心ください!わが社のサービスで、希望するプランの料金が今すぐ支払えない場合、サポートさせていただきます。具体的には、保険会社との契約や、エンディングを迎えるまでの収入確保のお手伝いなどです!。そのサポート込みの山井さんの支払い能力なら、このプランもご利用いただけます!」
「保険会社の契約って…死ぬやつと結ぶところなんてないでしょう…いや、それも言わなければ良いのか…?でも自殺の場合って保険金もらえないでしょう。」
「あ、いえ、私たちが行う演出はあくまで『あなたが希望する死に方』です。自殺とは限りません。保険会社からはあなたは外部的な要因で死んだように見えるのです。」
そういって井口はプランに含まれる選択可能な死に方の一覧資料を見せた。
『きれいな花に囲まれるエンディング』『因縁の相手と刺し違えるエンディング』『たらふくおいしいものを食べたあと眠りにつくエンディング』…利用者の年齢や性別データなどとともに、多様な死に方のプランが書かれていた。
「いかがです?先ほども言った通り、お金の心配はありません。わたくしどもの方で全力でサポートいたします。問題はあなた自身の決定です。何も良いことがなかった人生、最後くらい素晴らしい演出をされたいと思いませんか?どうせ今日失うはずだった命です。わたくしに預けてみてください。きっと素敵なエンディングにしてみせますよ。」
「そうか…まあ、そうですね、では、このプランにします。」
自分のペースでしゃべり続ける井口に調子を狂わされ、半ば諦めるように山井は一つのプランを指さした。
『ヒーローのようなエンディング』
「…ご利用ありがとうございます♪」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる