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第2幕 白蛇様×シュークリーム
第4話 丘の上の白蛇様
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土地を返す?
まさに寝耳に水。というかこの諺を、まさか使う日が来ようとは──
「……って、この店がなくなるってことッスか!?」
「平たく言えば、そうだ。元々ここは霊脈の流れが活発だったので、丘の上にある場所からここへ移す予定だったのだが……」
男の話を要約するとこうだ。
来客──この土地に祀られた白蛇神と言う。昔、爺ちゃんがこの店を建てる前、この場所を新たな住処に移し変えるつもりだったらしい。
もともとは丘の上全てが社だったのだが、区画整備や霊脈の流れが変わったことが移す理由だったそうだ。そういったことは数千年単位で起こるとか。運悪く、その時期とやらが、被ったということなのだろう。
「当時は《アヤカシ》など見える者が稀だったのでな。店を建てようとする者たちを追い払っていたのだが……」
「それ、《アヤカシ》が見えない時代だったら、祟りとか言われるレベルじゃ……」
「まあ、実際そう言われて、工事も中断していたな」
「ひい、神様こわい」とオレは素直にそう思った。
「ここの商店街ごと取り壊すという話が持ち上がった頃、リョウヘイがこの町に帰ってきた。あの男はアヤカシと会話ができる稀人だった」
「昔から《アヤカシ》と《稀人》との間には、交渉や勝負といったやり取りを、設けるという《約束》なのです。それで貴方の祖父と白蛇様は賭けをした」
途中で一つ目入道が話を引き継いで、オレに説明をしてくれた。
白蛇様と、この土地を賭けて勝負をした。その内容は白蛇が納得するシュークリームを作ると事だと言う。
「ん? その話の通りだと《爺ちゃんのシュークリーム》じゃなくて、《美味しいシュークリーム》ならいってこと……ですか?」
オレの言葉に、白蛇様は小さく頷いた。
「そうだ」
「それならラーサさんや、一つ目入道さんが作ってもいいんじゃ?」
一つ目入道さんは、目を瞑ると首を振った。
「それは無理だよ。《アヤカシ》はもちろん、その先祖返りである者も、白蛇様の求めるものは作れない。技術の問題とかではなく、気持ちの問題だね」
オレは話が見えずに小首を傾げる。
「気持ち?」
「《アヤカシ》は人の心や想いというものが、好きなのです。だから惹かれる。職人の想いのこもった料理はもちろん、洋菓子、食べ物でなくても物であっても《アヤカシ》を満たすことが、出来るのは人間だけ」
話がどうにも小難しいように見えるが、オレには大した問題には思えない。だいたい《アヤカシ》が見えなかった昔と、今とじゃ違うと思った。
でも、今大事なのはそういう事じゃない、とオレは頭を切り替える。
「つまり白蛇様が満足するシュークリームを、用意すればいいってこと……ですよね?」
途中で敬語を忘れたが、オレはジッと白蛇様を見つめた。
「くくっ……、ああ、そうだ。できるのか小僧?」
緋色の舌をチロリと見せた白蛇様に、オレは膝が震えた。まるで蛇に睨まれたカエルのごとく、脂汗が背中にじんわりと浮かんだ。
「……っつ」
「もちろん」と啖呵を切ろうとしたが、口がカチカチと音を立てて返事が出来ない。
「どうやら賭けは不成立のようだ。では──」
踵を返し去ろうとする白蛇様に、オレは引き留める事も出来ない。
「ま、ま……て」
慌てて手を伸ばす努力をするが、するりと背中が消えかけてオレはそのまま床に転げ落ちる。
その反動のせいか、制服のポケットに入れていた《銀の鍵》とお守りが床に転がった。
「あ」
爺ちゃんの言葉を思い返す。
──店を任せた──
オレは歯を食いしばり──腹をくくった。
「パティシエは、奇跡を二度おこす!」
その言葉に白蛇様の歩みが止まった。オレは《銀の鍵》とお守りを掴むと、ゆっくりと立ち上がる。
「オレが白蛇様の満足するシュークリームを作る! 期限は二週間後まで。それまでに納得できなかったら、土地を明け渡す」
啖呵を切ったオレの言葉に、一つ目入道さんは目を見開き、ラーサさんは無反応。
白蛇様はゆるりと振り返る──その仕草は優雅で美しかった。
「くくっ……我に賭けを挑むか、小僧」
酸漿色の双眸に、オレは僅かに怯むが言葉を返す。
「そ、そうだ! あとオレの名前は旭孝太郎だ……です」
「そうか。では楽しみにしているぞ、小僧」
こうしてオレのパティシエ見習いの話から、一気に大変な事になったのだった。
まさに寝耳に水。というかこの諺を、まさか使う日が来ようとは──
「……って、この店がなくなるってことッスか!?」
「平たく言えば、そうだ。元々ここは霊脈の流れが活発だったので、丘の上にある場所からここへ移す予定だったのだが……」
男の話を要約するとこうだ。
来客──この土地に祀られた白蛇神と言う。昔、爺ちゃんがこの店を建てる前、この場所を新たな住処に移し変えるつもりだったらしい。
もともとは丘の上全てが社だったのだが、区画整備や霊脈の流れが変わったことが移す理由だったそうだ。そういったことは数千年単位で起こるとか。運悪く、その時期とやらが、被ったということなのだろう。
「当時は《アヤカシ》など見える者が稀だったのでな。店を建てようとする者たちを追い払っていたのだが……」
「それ、《アヤカシ》が見えない時代だったら、祟りとか言われるレベルじゃ……」
「まあ、実際そう言われて、工事も中断していたな」
「ひい、神様こわい」とオレは素直にそう思った。
「ここの商店街ごと取り壊すという話が持ち上がった頃、リョウヘイがこの町に帰ってきた。あの男はアヤカシと会話ができる稀人だった」
「昔から《アヤカシ》と《稀人》との間には、交渉や勝負といったやり取りを、設けるという《約束》なのです。それで貴方の祖父と白蛇様は賭けをした」
途中で一つ目入道が話を引き継いで、オレに説明をしてくれた。
白蛇様と、この土地を賭けて勝負をした。その内容は白蛇が納得するシュークリームを作ると事だと言う。
「ん? その話の通りだと《爺ちゃんのシュークリーム》じゃなくて、《美味しいシュークリーム》ならいってこと……ですか?」
オレの言葉に、白蛇様は小さく頷いた。
「そうだ」
「それならラーサさんや、一つ目入道さんが作ってもいいんじゃ?」
一つ目入道さんは、目を瞑ると首を振った。
「それは無理だよ。《アヤカシ》はもちろん、その先祖返りである者も、白蛇様の求めるものは作れない。技術の問題とかではなく、気持ちの問題だね」
オレは話が見えずに小首を傾げる。
「気持ち?」
「《アヤカシ》は人の心や想いというものが、好きなのです。だから惹かれる。職人の想いのこもった料理はもちろん、洋菓子、食べ物でなくても物であっても《アヤカシ》を満たすことが、出来るのは人間だけ」
話がどうにも小難しいように見えるが、オレには大した問題には思えない。だいたい《アヤカシ》が見えなかった昔と、今とじゃ違うと思った。
でも、今大事なのはそういう事じゃない、とオレは頭を切り替える。
「つまり白蛇様が満足するシュークリームを、用意すればいいってこと……ですよね?」
途中で敬語を忘れたが、オレはジッと白蛇様を見つめた。
「くくっ……、ああ、そうだ。できるのか小僧?」
緋色の舌をチロリと見せた白蛇様に、オレは膝が震えた。まるで蛇に睨まれたカエルのごとく、脂汗が背中にじんわりと浮かんだ。
「……っつ」
「もちろん」と啖呵を切ろうとしたが、口がカチカチと音を立てて返事が出来ない。
「どうやら賭けは不成立のようだ。では──」
踵を返し去ろうとする白蛇様に、オレは引き留める事も出来ない。
「ま、ま……て」
慌てて手を伸ばす努力をするが、するりと背中が消えかけてオレはそのまま床に転げ落ちる。
その反動のせいか、制服のポケットに入れていた《銀の鍵》とお守りが床に転がった。
「あ」
爺ちゃんの言葉を思い返す。
──店を任せた──
オレは歯を食いしばり──腹をくくった。
「パティシエは、奇跡を二度おこす!」
その言葉に白蛇様の歩みが止まった。オレは《銀の鍵》とお守りを掴むと、ゆっくりと立ち上がる。
「オレが白蛇様の満足するシュークリームを作る! 期限は二週間後まで。それまでに納得できなかったら、土地を明け渡す」
啖呵を切ったオレの言葉に、一つ目入道さんは目を見開き、ラーサさんは無反応。
白蛇様はゆるりと振り返る──その仕草は優雅で美しかった。
「くくっ……我に賭けを挑むか、小僧」
酸漿色の双眸に、オレは僅かに怯むが言葉を返す。
「そ、そうだ! あとオレの名前は旭孝太郎だ……です」
「そうか。では楽しみにしているぞ、小僧」
こうしてオレのパティシエ見習いの話から、一気に大変な事になったのだった。
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