真夜中のアヤカシ洋菓子店にようこそ

あさぎかな@コミカライズ決定

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第2幕 白蛇様×シュークリーム

第6話 思い出のシュークリーム

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 シュークリームのコツは「調理中の生地温度を下げない」ことだ。

「材料は牛乳、無塩発酵バター、塩、グラニュー糖、準強力粉、全卵三つ。アーモンドダイス……と」

 オレがシュークリームを初めて作ったのは、小学校の頃以来だ。爺ちゃんはスパルタだったけど、その手さばきは洗練されていてかっこよかった。

 ──生地作りは温度に気を付けろ。調理中に六十度をキープとかじゃないぞ。調理中に生地の温度を下げないことだ──

 材料を全て常温にして、バターや牛乳を鍋で沸騰させる時に水分を出さないようにするのがコツ。小学校の頃はそこまで器用じゃなかったから、下準備の生地作りには苦労した覚えがある。ゴムベラの扱いや火の調整もつたなかった。

 牛乳とバターを沸騰させたのち、火を止めてふるっておいた粉を加えて、ゴムベラで混ぜる。手早く、生地を一塊ひとかたまりにする。

 洋菓子は料理とは違って材料はもちろん、分量や工程を一つでも誤ると簡単に失敗する。爺ちゃんは人間やアヤカシとの関係も、洋菓子作りに似ていると口を滑らしたことがあった。

 確かに洋菓子は気遣いの連続だ。集中が切れれば味にも左右される。「相手を想って作ると、味に深みが加わる」と言ったのは、祖母ちゃんらしい。
 オレが生まれる前に亡くなったので、どんな人なのかは写真や思い出話でしか聞かない。


 ***


 二百度に予熱したオーブンで十分焼いて、そのあと百七十まで温度を下げると二十分から二十五分焼く。ふぁっと膨れ上がった、きつね色のシュー生地は成功だ。

「うーん。爺ちゃんがよく作っていたのは、フランス語でクレーム・パティシエールお菓子屋のクリームと呼ばれるバニラが香る基本中の基本のクリームだけど……」

 昨日作ったシュークリームを、白蛇様に試食してもらったのだが──

 ──違う──

 と、一蹴されたのだ。

「まあ、まずいって言われないだけマシか……」

「あの白蛇様が口にするってことは、期待しているのかもしれませんよ」

 始さんはそう鼓舞してくれたけど、昨日の雰囲気からして中々難しそうな気がした。やっぱり爺ちゃんじゃないとダメなのか──
 そう見極めるのはまだ早い、とオレはクリームの種類を色々と変えてみた。カスタードとクリームタイプや、生クリームのみも作ってみる。

 少し多めに作ったのは一昨日の釣瓶火つるべびと、桜並木の上で酒盛りをしている烏天狗様、それと爺ちゃんに味見をしてもらうためだ。

 全部で二十個ほど作り上げると、用意してもらった二つの保冷バッグに詰め込んで店を出た。

「よし! 今日も白蛇様にチャレンジ!」

 オレンジ色の空と、悠々と流れる雲。一反木綿いったんもめんや龍が暢気に空を泳いでいる。
 オレは気合を入れて歩き出した。
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