真夜中のアヤカシ洋菓子店にようこそ

あさぎかな@コミカライズ決定

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第3幕 アヤカシ×洋菓子

第9話 ガネーシャとドーナツ

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 期限は二週間後──のはずが、唐突に決着を迎える。というか、今思えば勝負になっていたのかも怪しい。

 オレとしては少し複雑だ。実は勝負開始翌日から、オレのシュークリームは美味しかったらしい。ちなみに白蛇様は「美味しい」と言わないことで有名なようで、爺ちゃんは出会ったころから知っていたとか。
 病室でその話をした時、爺ちゃんは笑った。

「白蛇様だろう。食べた時、顔の表情は変わらないんだが、目がキラキラと輝くんだ。それで出来を判断していたな」

「爺ちゃん……」

 オレは肩を落とした。どうやら爺ちゃんは「美味しい」の代わりに、白蛇様の反応を毎回楽しんでいたようだ。オレも次回から白蛇様の食べている時の反応を、しっかり見ておこうと心に決めたのだった。

「それで、なぜ今日はシュークリームではなく、ドーナツなんだ?」

「……って、白蛇様。なぜ爺ちゃんの病室に」

 いつの間にか窓が開いており、そこに腰をかけながら爺ちゃんの為に作っておいたドーナツを勝手に頬張っている。いや、白蛇様の分もちゃんと持ってきたんだけど……。

「なぜドーナツなんだ?」

 表情は全く変わらないが、確かに目はキラキラしてる。うん、白蛇様が満足気なのですごく嬉しいです、はい。

「今日は中学の友だちが実家に帰るから、見送りに行くんだ」


「一人でか?」


「ううん。クラスのみんなで。それでお土産にドーナツを渡そうと思って作ったッス……です」

 種類は大きく分けて三つ。ベーキングパウダーで膨らませたケーキドーナツ、イーストで発行させたパン生地のドーナツ、水分の多い生地で揚げたクルーラー。
 で、今回選んだのはクルーラーだ。それもシュー生地を用いたフレンチ・クルーラーに、溶かしたチョコレートをかけたり、生クリームを挟んだりと手を込んだのを作ってきたのだ。

「……なるほど」

 白蛇様は納得したのか、次のドーナッツに手を付ける。うん、よく考えれば食べている時、本当に無言になるんだよな。前は緊張していたから気づかなかったけど、あれは味わって食べていたのだ……。

「ところで孝太郎。時間は大丈夫なのか?」

 爺ちゃんは時計を指さす。オレは指先に視線を向けると──

「あ、ああああ! 爺ちゃん、また来る!」

「ああ。車には気を付けるんだぞ」

「わかってる!」

 オレは慌てて病室を飛び出した。

 ***


 成田空港第二ターミナル
 集合場所は本館三階のショッピングエリアだ。時間ギリギリだったが、待っていたのは見送るガネーシャだけだった。
 群衆の長ガネーシャ。インドでは現世利益をもたらす神さまだ。人間社会に興味を持ち、日本に三年ほど留学していた。
 今日は実家に戻るので、その見送りにしていたのだが──

「なんで誰も来てないんだよ!?」

 と、オレは盛大にツッコんだ。

「いやー、ボクも成田空港ってしか言わなかったからねー。第三ターミナルまであるなんて、あははは」

 話を聞くとクラスメイトのみんなは、それぞれ第一ターミナル、第三ターミナルに向かってしまったらしく、今急いで第二ターミナルに駆けつけているらしい。前日に連絡網を回しておけ。
 ちなみにオレは電車に乗った時に、ガネーシャにメールで確認している。連絡は大事だからな。

「旭はそういうとこ、しっかりしてるよな」

 白い象の頭に緋色の紋様。首から下は人と変わらない。服装はラフなTシャツに、黒のズボン。荷物はすでに預けたようで手ぶらだった。ちなみに四本の腕はない。普通に二本だ。
 《富の神様》または《学問の神》とされている──が、そう言った力は他の神様たちとの兼ね合いもあり、乱用しない決まりとなっているらしい。
 これもここ十年の間に《アヤカシ》と人間との約束事だ。

「はあ、あいかわらずガネーシャは呑気だな。ほら、餞別せんべつ

 オレは紙袋をガネーシャに差し出した。崩れにくいようにケーキ用の箱に入れてある。ガネーシャは紙袋を受け取ると、匂いで何が入っているのか気づいたようだ。

「わあ、旭のドーナツ。本当に作ってきてくれたんだ! ありがとう!」

 嬉々として喜ぶガネーシャに、オレは照れくさく頬を掻いた。

「へへっ。また食べたくなったら日本にこいよ」

「うん。へへへっ。旭の菓子はどれも美味しかったけど、やっぱりボクは中一の時、誕生日で貰ったドーナツが一番好きだよ」

「中一って、オレまだそんなに菓子作りが上手くなかった頃だよな?」

 雑踏の中、ガネーシャは懐かしむように笑った。

「うん。でも、気持ちがこもっていてすっごく美味しかった。なにより温かかったよ」

「あたたかい?」と、オレは小首を傾げた。

「うん。ボクたち神様──《アヤカシ》って、作った人の想いが伝わってくるから、菓子が余計に美味しくて、こう、なんというか食べると胸の奥が温かくなるんだ」

「……む、胸やけとかじゃないよな」とオレは茶化すが──

「そんなんじゃないやい」とガネーシャは鼻を揺らした。

「だから、さ。旭が一生懸命つくる菓子は、すっごく美味しかった。きっと旭は世界一のパティシエになるよ。うん!」

 ガネーシャにそう言われると、なんだが本当に世界一のパティシエになれそうな気がしてきた。

「ありがとな。オレももっと腕を磨いて、美味しいって言ってもらえるパティシエになるよ」

 その後、クラスメイトの連中と合流して、オレたちはガネーシャを見送った。
 見送ったのだが──

「なんで高知行き?」と、誰もが疑問に思った。全員、インドに帰るものだと思っていたのだ。しかし、予想に反して彼の実家は高知県だという事が判明した。

 そう言えば、仕送りだといって「うどん」を、おすそ分けしてもらっていたような……。
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