21 / 56
第1幕
第10話 竜魔人族の食事会1-1
しおりを挟む
翌日。浮かび上がってくる意識の中で、体がとても温かい。眠っているベッドから石鹸のような香りに、頬に感じる人肌が心地よい。いつも睡眠時間は数時間しかなかったので、熟睡できる幸せを噛みしめる。
(ふかふかのベッドに布団。最高っ)
この温もりはフランだろうか。そう考えた瞬間、フランがもう傍に居ないことを思い出し、重たげな瞼を開いた。
目の前にいたのは真っ白でふわふわな毛並みのオコジョ──ではなく、ベッドの端に突っ伏しているセドリック様の姿だった。私が彼の手を握っているのを見て、そのまま傍に居てくれたのだろう。
(ずっと握っていてくれた……?)
思えばフランも私がつらくて、苦しかった時、ずっと傍に居てくれた。具合が悪くなったときや熱が下がらなかったときすら、誰も看病してくれなかったのに、この方は私が安心できるように傍に居てくださった。
(……って、陛下をこのまま寝かせておいたら不敬だわ!)
慌ててセドリック様の肩を揺らして起こす。普段は凛々しい顔立ちだが、眠っている姿は思いのほか可愛く見える。
「セドリック様、こんなところで寝てしまっては風邪を引かれます」
「ん……んん」
寝起きが悪いのか、唸りながらも体を起こした。片足が怪我をしているので、立ち上がらずに体を揺らすのが精いっぱいだった。セドリック様には自分の使っていたベッドを使って休んでもらおうと思ったのだが、考えが甘かった。寝ぼけたままの彼はおもむろに立ち上がったので安堵した瞬間、ベッドに寝転がり──さらに私の腕を引いて抱き寄せた。
そのまま押し倒される形でベッドに沈み、二人分の重みで僅かに軋む。
「セドリック様っ」
「んー、ああ。私の好きな匂いがする」
だらしない顔で、私を包み込んで離さない。これは完全に抱き枕扱いである。しかも首筋に甘噛みをし始めた。くすぐったいやら恥ずかしいやら抵抗するが体力的にも腕力的にもすぐに白旗を上げるしかなかった。
「せ、せ、セドリック様!」
「んん~、オリビア」
蕩けるような甘い声に、愛おしさが篭った言葉に胸が熱くなる。
今までこんな風に求められたことなどなかった。
甘え上手というか、何となく許してしまいそうになるのは、セドリック様の人柄だろうか。
そういえばフランもこうやって甘えるようなことをしていたような──と日が昇るまで現実逃避する。
(フランがセドリック様……だったとしたら、こんな風に三年間も一緒に寝ていた?)
そう実感すると熱が出るほど体が熱く、羞恥心で死にそうになった。
今まで死ぬ前提でいたので、本当に好かれているとは思っていなかったのもあり、今頃になってじわじわと実感する。分かりやすいほどの好意。重いほどの愛情だからこそ、彼が本気なのでは? と誤解しそうになる。
ぐっすりと眠って栄養のあるものを食べているからか、フランを失った時のような自暴自棄に落ちることは減った──と思う。
その後、様子を見に来たサーシャさんは驚きつつも、すぐさま解決方法を取ってくれた。もっともその方法というのは、王太后様が乱入することだったのだけれど。
「ほんとぉおおおおおに、何を考えているのですか!」
「すみません」
「申し訳ない」
私は車椅子に座り、セドリック様は床に正座をして小さくなっている。といっても体型ががっちりしているので、縮こまっていても実際はさほど小さくはない。にしても彼は一応、グラシェ国の王代理なのだが、正座して項垂れているのはいいのだろうか。
王太后様は今日も美しく、薄緑色のドレスに身を包んでおり神々しい。そんな彼女は先ほどからセドリック様を叱り付けている。
私も謝罪しているのだが「オリビアはいいの」と私には優しいというか甘い。などと思っていたら眉を吊り上げて憤慨していた王太后様が私に向き直った。たぶん矛先を私に変えたのだろう。「ふしだらな」とか「王妃として」云々のねちねちした嫌味が出て来るかと身構えたのだが──。
「それはそうと、オリビアは私のことをいつまで王太后様と呼ぶのかしら?」
「え、あ。すみません、グラシェ国では、どのようにお呼びするか分からず──」
「お・か・あ・さ・ま!」
「オカアサマ?」
「そうよ! セドリックと結婚するのだから、私のことはお義母様と呼ぶのが正しいでしょう!」
(結婚……!)
改めて生贄ではなく花嫁として温かく迎えてくれただけなのでは──と、認知してしまうと、恥ずかしさや、現実味を帯びてきて体温が上がる。
(ううん。簡単に信じたらダメ……)
なぜかわからないが王太后様、もといお義母様は私のことを気にいったようで、ものすごく気を遣ってくれている。ちょっと狡いかもしれないが、お義母様に甘えることでこの場を乗り切ることにした。
(ふかふかのベッドに布団。最高っ)
この温もりはフランだろうか。そう考えた瞬間、フランがもう傍に居ないことを思い出し、重たげな瞼を開いた。
目の前にいたのは真っ白でふわふわな毛並みのオコジョ──ではなく、ベッドの端に突っ伏しているセドリック様の姿だった。私が彼の手を握っているのを見て、そのまま傍に居てくれたのだろう。
(ずっと握っていてくれた……?)
思えばフランも私がつらくて、苦しかった時、ずっと傍に居てくれた。具合が悪くなったときや熱が下がらなかったときすら、誰も看病してくれなかったのに、この方は私が安心できるように傍に居てくださった。
(……って、陛下をこのまま寝かせておいたら不敬だわ!)
慌ててセドリック様の肩を揺らして起こす。普段は凛々しい顔立ちだが、眠っている姿は思いのほか可愛く見える。
「セドリック様、こんなところで寝てしまっては風邪を引かれます」
「ん……んん」
寝起きが悪いのか、唸りながらも体を起こした。片足が怪我をしているので、立ち上がらずに体を揺らすのが精いっぱいだった。セドリック様には自分の使っていたベッドを使って休んでもらおうと思ったのだが、考えが甘かった。寝ぼけたままの彼はおもむろに立ち上がったので安堵した瞬間、ベッドに寝転がり──さらに私の腕を引いて抱き寄せた。
そのまま押し倒される形でベッドに沈み、二人分の重みで僅かに軋む。
「セドリック様っ」
「んー、ああ。私の好きな匂いがする」
だらしない顔で、私を包み込んで離さない。これは完全に抱き枕扱いである。しかも首筋に甘噛みをし始めた。くすぐったいやら恥ずかしいやら抵抗するが体力的にも腕力的にもすぐに白旗を上げるしかなかった。
「せ、せ、セドリック様!」
「んん~、オリビア」
蕩けるような甘い声に、愛おしさが篭った言葉に胸が熱くなる。
今までこんな風に求められたことなどなかった。
甘え上手というか、何となく許してしまいそうになるのは、セドリック様の人柄だろうか。
そういえばフランもこうやって甘えるようなことをしていたような──と日が昇るまで現実逃避する。
(フランがセドリック様……だったとしたら、こんな風に三年間も一緒に寝ていた?)
そう実感すると熱が出るほど体が熱く、羞恥心で死にそうになった。
今まで死ぬ前提でいたので、本当に好かれているとは思っていなかったのもあり、今頃になってじわじわと実感する。分かりやすいほどの好意。重いほどの愛情だからこそ、彼が本気なのでは? と誤解しそうになる。
ぐっすりと眠って栄養のあるものを食べているからか、フランを失った時のような自暴自棄に落ちることは減った──と思う。
その後、様子を見に来たサーシャさんは驚きつつも、すぐさま解決方法を取ってくれた。もっともその方法というのは、王太后様が乱入することだったのだけれど。
「ほんとぉおおおおおに、何を考えているのですか!」
「すみません」
「申し訳ない」
私は車椅子に座り、セドリック様は床に正座をして小さくなっている。といっても体型ががっちりしているので、縮こまっていても実際はさほど小さくはない。にしても彼は一応、グラシェ国の王代理なのだが、正座して項垂れているのはいいのだろうか。
王太后様は今日も美しく、薄緑色のドレスに身を包んでおり神々しい。そんな彼女は先ほどからセドリック様を叱り付けている。
私も謝罪しているのだが「オリビアはいいの」と私には優しいというか甘い。などと思っていたら眉を吊り上げて憤慨していた王太后様が私に向き直った。たぶん矛先を私に変えたのだろう。「ふしだらな」とか「王妃として」云々のねちねちした嫌味が出て来るかと身構えたのだが──。
「それはそうと、オリビアは私のことをいつまで王太后様と呼ぶのかしら?」
「え、あ。すみません、グラシェ国では、どのようにお呼びするか分からず──」
「お・か・あ・さ・ま!」
「オカアサマ?」
「そうよ! セドリックと結婚するのだから、私のことはお義母様と呼ぶのが正しいでしょう!」
(結婚……!)
改めて生贄ではなく花嫁として温かく迎えてくれただけなのでは──と、認知してしまうと、恥ずかしさや、現実味を帯びてきて体温が上がる。
(ううん。簡単に信じたらダメ……)
なぜかわからないが王太后様、もといお義母様は私のことを気にいったようで、ものすごく気を遣ってくれている。ちょっと狡いかもしれないが、お義母様に甘えることでこの場を乗り切ることにした。
67
あなたにおすすめの小説
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。
ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・
強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。
目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。
卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。
理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。
…と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。
全二話で完結します、予約投稿済み
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる