22 / 56
第1幕
第10話 竜魔人族の食事会1-2
しおりを挟む
「お義母様」
「なに!?」
「あ、あの……セドリック様は私が一人で寝るのが怖くて傍で見守ってくれていただけで、最後に抱き付いていたのは寝ぼけていただけなのです」
「あら、そう? オリビアがいうのならそう言うことにしておきましょう」
(これで丸く収まるはず……)
安堵してセドリック様に視線を向けると、叱られていたのに顔を綻ばせている。「オリビアが私を慮って……!」と感動している。声をかけたら今にも抱きついてきそうな勢いだ。
(ここは見なかったことに……)
「オリビア」
(駄目だった)
彼の溢れんばかりの熱量と声音を無視できるほど、私のスルースキルは高くない。「はい」と答えるだけで、セドリック様は顔を口元が緩みっぱなしだ。やっぱり、好かれている?
「おはよう」
「おはようございます」
「今日から朝食を一緒に摂ってもいいですか?」
「しょく……じ」
聞き間違い──ではないのだろう。
けれどこの三年、家庭教師の夫人に食事のマナーで嗜められてきたので全くもって自信がない。王族同席の食卓で恥をかけば、百年の恋だって冷めるだろう。なにせ二年前まで叔父夫婦と食事をするたびに「テーブルマナーがなっていない」と窘められてきたのだから。
『ああ、まともに食事のマナーも分からないなんて!』
『本当に子爵家の者として恥ずかしい』
そのたびに使用人たちも嘲笑し、叔父夫婦に同調していた。
食事も自分で作らないと異物を混入などの陰湿な嫌がらせもあった。思い出せば胃がキリキリする。指先が震えるのを必死で抑え、
「あの……私なんかがお邪魔したら、気分を害されるのではな──」
「そんなことは断じてありません」
「でも……その……マナーがまだ完璧ではないので、遠慮したいのです」
「なら一緒に練習にお付き合いします。私も人族のマナーには疎いですし、今後オリビアには竜魔人との食事方法も学んで頂かなくてはなりませんし」
そう言われてしまえば断る理由がなくなってしまう。私の返事を待つセドリック様は一緒に食べることを想定して尻尾を揺らしている。「わかりました」と白旗を上げる私に、彼は「では行きましょう」と車椅子から私を抱き上げた。車椅子はサーシャさんが回収している。
彼はどこまでも嬉しそうで、どうしてこんなに好かれているのか記憶のない私はむず痒くて、向けられる好意にどう受け取っていいのか分からない。
朝食の場には王太后様の夫、つまりはセドリック様のお義父様が石像の如くに佇んで待っていた。セドリック様の顔立ちは整っており美しささえある。お義父様は強面で顔立ちの堀が深く、体格はセドリック様よりも大きいので見上げる形で相対することになった。
「……………」
「父上、また立ったまま寝ていたのですか」
(え!? ……寝ていた?)
「む、……おお、息子よ。久しぶりだな」
「父上、三日前に会いましたよ」
「むむ、そうだったか?」
そこでお義父様は私の存在に気付いたようで、ジロリと鋭い視線を向けた。威圧的な視線に目を逸らすのを堪える。本能的には避けたいけれど、相手はセドリック様の父親である以上、粗相は許されない。というか目を逸らした瞬間、不敬罪で極刑コースだ。本能的にセドリック様の胸板に擦り寄る形で助けを求めた。
「これがデレ期? さりげなく甘える……最高っ」とセドリック様が嬉しそうにしているのは、よくわからなかったが。
「コホンッ、父上。オリビアをじろじろ見るのは、やめてください。オリビアが驚いているでしょう」
「む、……ああ。あの時の娘か。人族の寿命は短命と聞いていたが例外があるのだな」
「アナタ、オリビアを虐めていないでしょうね!」
豪快に笑うお義父様だったが、王太后様──お義母様が姿を見せた瞬間、重苦しい空気が一変した。とびきりの笑顔で出迎える。
「愛しい人、遅いではないか」
「もう、アナタが待っていると言っていたのでしょう?」
「違う。眠っていたら愛しい人がいなくなっていたのだ」
(なんだろう。あの可愛らしい二人のやり取り……)
私たちの存在を無視して二人だけの世界に入っている。抱擁から抱き上げてキスまで一連の流れでこなれていた。新婚夫婦のような熱々ぶりだ。
(あんな風に仲睦まじい夫婦もいるのね)
「竜魔人では伴侶に対してだいたいあんな感じなのです。自分はああならないと思っていたのですが──オリビアとなら悪くありませんね」
「!」
頬を摺り寄せてキスをする。さりげなく。もうそれだけでいろんな考えが吹き飛んでしまう。マナーについてあれこれ悩んでいたが、嘘のようだ。
***
「なに!?」
「あ、あの……セドリック様は私が一人で寝るのが怖くて傍で見守ってくれていただけで、最後に抱き付いていたのは寝ぼけていただけなのです」
「あら、そう? オリビアがいうのならそう言うことにしておきましょう」
(これで丸く収まるはず……)
安堵してセドリック様に視線を向けると、叱られていたのに顔を綻ばせている。「オリビアが私を慮って……!」と感動している。声をかけたら今にも抱きついてきそうな勢いだ。
(ここは見なかったことに……)
「オリビア」
(駄目だった)
彼の溢れんばかりの熱量と声音を無視できるほど、私のスルースキルは高くない。「はい」と答えるだけで、セドリック様は顔を口元が緩みっぱなしだ。やっぱり、好かれている?
「おはよう」
「おはようございます」
「今日から朝食を一緒に摂ってもいいですか?」
「しょく……じ」
聞き間違い──ではないのだろう。
けれどこの三年、家庭教師の夫人に食事のマナーで嗜められてきたので全くもって自信がない。王族同席の食卓で恥をかけば、百年の恋だって冷めるだろう。なにせ二年前まで叔父夫婦と食事をするたびに「テーブルマナーがなっていない」と窘められてきたのだから。
『ああ、まともに食事のマナーも分からないなんて!』
『本当に子爵家の者として恥ずかしい』
そのたびに使用人たちも嘲笑し、叔父夫婦に同調していた。
食事も自分で作らないと異物を混入などの陰湿な嫌がらせもあった。思い出せば胃がキリキリする。指先が震えるのを必死で抑え、
「あの……私なんかがお邪魔したら、気分を害されるのではな──」
「そんなことは断じてありません」
「でも……その……マナーがまだ完璧ではないので、遠慮したいのです」
「なら一緒に練習にお付き合いします。私も人族のマナーには疎いですし、今後オリビアには竜魔人との食事方法も学んで頂かなくてはなりませんし」
そう言われてしまえば断る理由がなくなってしまう。私の返事を待つセドリック様は一緒に食べることを想定して尻尾を揺らしている。「わかりました」と白旗を上げる私に、彼は「では行きましょう」と車椅子から私を抱き上げた。車椅子はサーシャさんが回収している。
彼はどこまでも嬉しそうで、どうしてこんなに好かれているのか記憶のない私はむず痒くて、向けられる好意にどう受け取っていいのか分からない。
朝食の場には王太后様の夫、つまりはセドリック様のお義父様が石像の如くに佇んで待っていた。セドリック様の顔立ちは整っており美しささえある。お義父様は強面で顔立ちの堀が深く、体格はセドリック様よりも大きいので見上げる形で相対することになった。
「……………」
「父上、また立ったまま寝ていたのですか」
(え!? ……寝ていた?)
「む、……おお、息子よ。久しぶりだな」
「父上、三日前に会いましたよ」
「むむ、そうだったか?」
そこでお義父様は私の存在に気付いたようで、ジロリと鋭い視線を向けた。威圧的な視線に目を逸らすのを堪える。本能的には避けたいけれど、相手はセドリック様の父親である以上、粗相は許されない。というか目を逸らした瞬間、不敬罪で極刑コースだ。本能的にセドリック様の胸板に擦り寄る形で助けを求めた。
「これがデレ期? さりげなく甘える……最高っ」とセドリック様が嬉しそうにしているのは、よくわからなかったが。
「コホンッ、父上。オリビアをじろじろ見るのは、やめてください。オリビアが驚いているでしょう」
「む、……ああ。あの時の娘か。人族の寿命は短命と聞いていたが例外があるのだな」
「アナタ、オリビアを虐めていないでしょうね!」
豪快に笑うお義父様だったが、王太后様──お義母様が姿を見せた瞬間、重苦しい空気が一変した。とびきりの笑顔で出迎える。
「愛しい人、遅いではないか」
「もう、アナタが待っていると言っていたのでしょう?」
「違う。眠っていたら愛しい人がいなくなっていたのだ」
(なんだろう。あの可愛らしい二人のやり取り……)
私たちの存在を無視して二人だけの世界に入っている。抱擁から抱き上げてキスまで一連の流れでこなれていた。新婚夫婦のような熱々ぶりだ。
(あんな風に仲睦まじい夫婦もいるのね)
「竜魔人では伴侶に対してだいたいあんな感じなのです。自分はああならないと思っていたのですが──オリビアとなら悪くありませんね」
「!」
頬を摺り寄せてキスをする。さりげなく。もうそれだけでいろんな考えが吹き飛んでしまう。マナーについてあれこれ悩んでいたが、嘘のようだ。
***
61
あなたにおすすめの小説
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。
ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・
強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。
目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。
卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。
理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。
…と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。
全二話で完結します、予約投稿済み
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる