29 / 56
第2章
第14話 王弟セドリックの視点3-2
しおりを挟む
キスをすると頬を赤くして、甘い香りを漂わせるオリビアが可愛くてしょうがない。相変わらず敬語なのは距離感があって少し寂しいけれど、声のトーンが柔らかくなった。笑顔やはにかむ姿も可愛い。天使、いや女神。尊い。
元々手先が器用だったけれど、刺繍や髪留めを贈り物の返しと言って渡してくれた時は、幸せで「好きだ」という思いを言葉にして、抱きしめるぐらいしかできなかった。もっと伝えたいのに、こういう時は本当に語彙力が皆無になるのだと知った。
(ああ、今日もオリビアとの時間がたくさん作れた。オリビアから貰った──コレクションも増えていく。さて明日は何を贈ろうか。ああ、そうだ。寒くなってきたから、温かい飲み物にあう菓子に、茶葉を新たに購入しよう)
毎日のようにオリビアへの贈り物を考えながら、幸せを噛みしめる。
今日もオリビアが寝静まった後で、執務室で報告会が行われる。今日のメンバーは、侍女長サーシャ、私、執事アドラの三名だ。
「今日はセドリック様の贈り物のうち三箱に嫌がらせが紛れこんでいたので、内々に処理をしました」
「嫌がらせの内容はなんだ?」
「呪われたアクセサリー、毒蛇、毒針の仕込まれた髪飾りです」
「そうか。食事で切り分けてなかったキッシュ、味付けが濃いと言って下げたものは毒だったからな。後で料理長に聞いたところ作った覚えがないという」
「給仕時にいた侍女の犯行だと判明し、捕縛済みです」
「にしても竜魔人の狂的な嗅覚を存じていないのでしょうか」
「まあ、人族のオリビアは気づいていなかったので内々に処理をしたが、オリビアの食べるものに関してはジャクソンにのみ作らせた方がいいな」
「ではそのように。それと配給する者も選抜し、警備兵も増やしましょう」
「ああ」
「庭先に殺し屋がいましたので、投獄させました」
「殺し屋か、増えたな」
第二姫殿下のミアの場合は、犯行に及ぶのは男だけだ。主に食事や生活範囲内で暗殺、あるいは事故に見せかけた殺人を目論んでいる。
第三姫殿下リリアンの場合は、贈り物や、菓子やお茶などでこちらは侍女を買収しているのだが、厄介なのは届ける侍女たちは中身を知らないという点だ。
「魅了された男たちに関しては同情の余地はないですが、侍女たちは指示されたケースが多いので判断が難しいかと」
「──というと、上の立場の誰かが運ぶ際に指示を出しているということか?」
「いえ。同じ給仕の同僚から運んでおいてほしいと頼まれたと証言しています。ただその者の特徴を聞いても霞がかかったように思い出せないとか」
「ふむ……」
「セドリック様、オリビア様への贈り物の数を減らすのはどうでしょう?」
「なっ、今だって厳選した上で以前よりは減らしている!」
竜魔人にとって伴侶に贈り物をするのは求愛行動の一つで大事なことだ。だからこそ毎日贈り物をしている。それにオリビアの喜ぶ顔が嬉しいのもある。百年前はいつもお古のドレスを何度も縫い直して着こなして、代わりに私やダグラスやスカーレットの服にお金を使っていたのも知っている。
「オリビアは今までずっと贅沢とは程遠い生活をしていたのだ、だから──」
「ですが毎日のように量が多いと言われているではありませんか」
「うぐっ……。あれでも減らした。あれ以上は──」
正直、オリビアへの愛情を毎日の贈り物に込めているが全く足りていない。だが私だけが満足するだけでは意味がないので、オリビアが困らない程度にしていた。それでも多いとは言われるが、贈り物を手に取って嬉しそうにする姿が見たい。あと私のために着飾ってくれるのが嬉しい。
「量ではなく質で攻めるのです」
「質、か」
「たとえばネックレス──いえ、指輪など毎日、陛下が、直接、贈れば、オリビア様の、笑顔を独占できます!」
「そうです、陛下。ご自身でオリビア様にお渡しすれば、さらに喜ばれるかと!」
力説するサーシャの目は真剣だ。アドラも賛同し煽る。
たしかに。いつもお昼過ぎに贈っていたが、一緒にいる時に贈物を手渡したことはない。オリビアがどのような反応を見せるのか──。
喜び綻ばせる笑顔、顔を赤らめる姿を思い浮かべただけで「見たい」と率直に思った。
「よし、明日からは私が直接オリビアに贈り物を手渡そう」
「はい」
「そうしてください。とてもお喜びになります」
サーシャとアドラは問題が一つ解決に向かったことを喜びつつ、次の問題事項に入った。なんだかんだ二人とも有能で助かるのだが、なんだかうまく誘導されているような気がしなくもない。
「これで贈り物の中に紛れ込ませる方法は出来なくなりますね。もちろんセドリック様の書面付きでない贈り物は全てこちらで回収しますが」
「そうですね。贈り物に異物混入の被害は減るとして……問題は王兄第二姫殿下ミア様の魅了問題ですね。根本的な解決をしなければ、被害者は増える一方かと」
「それなら旧友があるものを発注してくれたので、もうじき届くはずだ」
「旧友……? ああ!」
サーシャが一瞬小首を傾げたが、すぐに誰のことか気づいたようだ。そしてその人物が戻ってくるということの意味も理解した。
「ダグラスと、スカーレットには人の姿ではなく、獣化してオリビアの傍に居てもらうことにした。私が居ない間に安心かつ護衛としての戦力は申し分ないからな」
「あの方達でしたら、確かに」
「わたくしが離れている時などヘレンはおりますが、確かにこれ以上にない人選かと」
そう旧友である二人なら、オリビアの護衛を任せることができるので、その点に関しては全幅の信頼を置いている。問題は──。
「私が居ない間に、ダグラスやスカーレットがオリビアと楽しくしているのを我慢できるかどうか……くっ、モフモフとか抱き付いていたら」
「陛下、独占欲が駄々洩れです。もう少し大人になってください」
「そうです。オリビア様にギュッとされたい気持ちは分かりますが、堪えてください」
「どさくさに紛れてサラッと本音を漏らしましたね、サーシャ殿」
「何のことでしょう」
サーシャもやろうと思えば獣の姿に変化することはできる。オリビアは可愛いものに目がない。子猫とか子ウサギとか、オコジョとか昔から好きだった。
ウサギは食糧難の際に、泣く泣く食べて落ち込んでいたけれど──。まあ、生きるためだとなんとか割り切ってくれたようだが。
(なんにせよ、後はダグラスやスカーレットが戻ってきてからが勝負といったところか)
元々手先が器用だったけれど、刺繍や髪留めを贈り物の返しと言って渡してくれた時は、幸せで「好きだ」という思いを言葉にして、抱きしめるぐらいしかできなかった。もっと伝えたいのに、こういう時は本当に語彙力が皆無になるのだと知った。
(ああ、今日もオリビアとの時間がたくさん作れた。オリビアから貰った──コレクションも増えていく。さて明日は何を贈ろうか。ああ、そうだ。寒くなってきたから、温かい飲み物にあう菓子に、茶葉を新たに購入しよう)
毎日のようにオリビアへの贈り物を考えながら、幸せを噛みしめる。
今日もオリビアが寝静まった後で、執務室で報告会が行われる。今日のメンバーは、侍女長サーシャ、私、執事アドラの三名だ。
「今日はセドリック様の贈り物のうち三箱に嫌がらせが紛れこんでいたので、内々に処理をしました」
「嫌がらせの内容はなんだ?」
「呪われたアクセサリー、毒蛇、毒針の仕込まれた髪飾りです」
「そうか。食事で切り分けてなかったキッシュ、味付けが濃いと言って下げたものは毒だったからな。後で料理長に聞いたところ作った覚えがないという」
「給仕時にいた侍女の犯行だと判明し、捕縛済みです」
「にしても竜魔人の狂的な嗅覚を存じていないのでしょうか」
「まあ、人族のオリビアは気づいていなかったので内々に処理をしたが、オリビアの食べるものに関してはジャクソンにのみ作らせた方がいいな」
「ではそのように。それと配給する者も選抜し、警備兵も増やしましょう」
「ああ」
「庭先に殺し屋がいましたので、投獄させました」
「殺し屋か、増えたな」
第二姫殿下のミアの場合は、犯行に及ぶのは男だけだ。主に食事や生活範囲内で暗殺、あるいは事故に見せかけた殺人を目論んでいる。
第三姫殿下リリアンの場合は、贈り物や、菓子やお茶などでこちらは侍女を買収しているのだが、厄介なのは届ける侍女たちは中身を知らないという点だ。
「魅了された男たちに関しては同情の余地はないですが、侍女たちは指示されたケースが多いので判断が難しいかと」
「──というと、上の立場の誰かが運ぶ際に指示を出しているということか?」
「いえ。同じ給仕の同僚から運んでおいてほしいと頼まれたと証言しています。ただその者の特徴を聞いても霞がかかったように思い出せないとか」
「ふむ……」
「セドリック様、オリビア様への贈り物の数を減らすのはどうでしょう?」
「なっ、今だって厳選した上で以前よりは減らしている!」
竜魔人にとって伴侶に贈り物をするのは求愛行動の一つで大事なことだ。だからこそ毎日贈り物をしている。それにオリビアの喜ぶ顔が嬉しいのもある。百年前はいつもお古のドレスを何度も縫い直して着こなして、代わりに私やダグラスやスカーレットの服にお金を使っていたのも知っている。
「オリビアは今までずっと贅沢とは程遠い生活をしていたのだ、だから──」
「ですが毎日のように量が多いと言われているではありませんか」
「うぐっ……。あれでも減らした。あれ以上は──」
正直、オリビアへの愛情を毎日の贈り物に込めているが全く足りていない。だが私だけが満足するだけでは意味がないので、オリビアが困らない程度にしていた。それでも多いとは言われるが、贈り物を手に取って嬉しそうにする姿が見たい。あと私のために着飾ってくれるのが嬉しい。
「量ではなく質で攻めるのです」
「質、か」
「たとえばネックレス──いえ、指輪など毎日、陛下が、直接、贈れば、オリビア様の、笑顔を独占できます!」
「そうです、陛下。ご自身でオリビア様にお渡しすれば、さらに喜ばれるかと!」
力説するサーシャの目は真剣だ。アドラも賛同し煽る。
たしかに。いつもお昼過ぎに贈っていたが、一緒にいる時に贈物を手渡したことはない。オリビアがどのような反応を見せるのか──。
喜び綻ばせる笑顔、顔を赤らめる姿を思い浮かべただけで「見たい」と率直に思った。
「よし、明日からは私が直接オリビアに贈り物を手渡そう」
「はい」
「そうしてください。とてもお喜びになります」
サーシャとアドラは問題が一つ解決に向かったことを喜びつつ、次の問題事項に入った。なんだかんだ二人とも有能で助かるのだが、なんだかうまく誘導されているような気がしなくもない。
「これで贈り物の中に紛れ込ませる方法は出来なくなりますね。もちろんセドリック様の書面付きでない贈り物は全てこちらで回収しますが」
「そうですね。贈り物に異物混入の被害は減るとして……問題は王兄第二姫殿下ミア様の魅了問題ですね。根本的な解決をしなければ、被害者は増える一方かと」
「それなら旧友があるものを発注してくれたので、もうじき届くはずだ」
「旧友……? ああ!」
サーシャが一瞬小首を傾げたが、すぐに誰のことか気づいたようだ。そしてその人物が戻ってくるということの意味も理解した。
「ダグラスと、スカーレットには人の姿ではなく、獣化してオリビアの傍に居てもらうことにした。私が居ない間に安心かつ護衛としての戦力は申し分ないからな」
「あの方達でしたら、確かに」
「わたくしが離れている時などヘレンはおりますが、確かにこれ以上にない人選かと」
そう旧友である二人なら、オリビアの護衛を任せることができるので、その点に関しては全幅の信頼を置いている。問題は──。
「私が居ない間に、ダグラスやスカーレットがオリビアと楽しくしているのを我慢できるかどうか……くっ、モフモフとか抱き付いていたら」
「陛下、独占欲が駄々洩れです。もう少し大人になってください」
「そうです。オリビア様にギュッとされたい気持ちは分かりますが、堪えてください」
「どさくさに紛れてサラッと本音を漏らしましたね、サーシャ殿」
「何のことでしょう」
サーシャもやろうと思えば獣の姿に変化することはできる。オリビアは可愛いものに目がない。子猫とか子ウサギとか、オコジョとか昔から好きだった。
ウサギは食糧難の際に、泣く泣く食べて落ち込んでいたけれど──。まあ、生きるためだとなんとか割り切ってくれたようだが。
(なんにせよ、後はダグラスやスカーレットが戻ってきてからが勝負といったところか)
48
あなたにおすすめの小説
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。
ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・
強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。
目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。
卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。
理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。
…と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。
全二話で完結します、予約投稿済み
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる