虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない

あさぎかな@コミカライズ決定

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第2章

第14話 王弟セドリックの視点3-2

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 キスをすると頬を赤くして、甘い香りを漂わせるオリビアが可愛くてしょうがない。相変わらず敬語なのは距離感があって少し寂しいけれど、声のトーンが柔らかくなった。笑顔やはにかむ姿も可愛い。天使、いや女神。尊い。

 元々手先が器用だったけれど、刺繍や髪留めを贈り物の返しと言って渡してくれた時は、幸せで「好きだ」という思いを言葉にして、抱きしめるぐらいしかできなかった。もっと伝えたいのに、こういう時は本当に語彙力が皆無になるのだと知った。

(ああ、今日もオリビアとの時間がたくさん作れた。オリビアから貰った──コレクションも増えていく。さて明日は何を贈ろうか。ああ、そうだ。寒くなってきたから、温かい飲み物にあう菓子に、茶葉を新たに購入しよう)

 毎日のようにオリビアへの贈り物を考えながら、幸せを噛みしめる。
 今日もオリビアが寝静まった後で、執務室で報告会が行われる。今日のメンバーは、侍女長サーシャ、私、執事アドラの三名だ。

「今日はセドリック様の贈り物のうち三箱に嫌がらせが紛れこんでいたので、内々に処理をしました」
「嫌がらせの内容はなんだ?」
「呪われたアクセサリー、毒蛇、毒針の仕込まれた髪飾りです」
「そうか。食事で切り分けてなかったキッシュ、味付けが濃いと言って下げたものは毒だったからな。後で料理長に聞いたところ作った覚えがないという」
「給仕時にいた侍女の犯行だと判明し、捕縛済みです」
「にしても竜魔人の狂的な嗅覚を存じていないのでしょうか」
「まあ、人族のオリビアは気づいていなかったので内々に処理をしたが、オリビアの食べるものに関してはジャクソンにのみ作らせた方がいいな」
「ではそのように。それと配給する者も選抜し、警備兵も増やしましょう」
「ああ」
「庭先に殺し屋がいましたので、投獄させました」
「殺し屋か、増えたな」

 第二姫殿下のミアの場合は、犯行に及ぶのは男だけだ。主に食事や生活範囲内で暗殺、あるいは事故に見せかけた殺人を目論んでいる。
 第三姫殿下リリアンの場合は、贈り物や、菓子やお茶などでこちらは侍女を買収しているのだが、厄介なのは届ける侍女たちは中身を知らないという点だ。

「魅了された男たちに関しては同情の余地はないですが、侍女たちは指示されたケースが多いので判断が難しいかと」
「──というと、上の立場の誰かが運ぶ際に指示を出しているということか?」
「いえ。同じ給仕の同僚から運んでおいてほしいと頼まれたと証言しています。ただその者の特徴を聞いても霞がかかったように思い出せないとか」
「ふむ……」
「セドリック様、オリビア様への贈り物の数を減らすのはどうでしょう?」
「なっ、今だって厳選した上で以前よりは減らしている!」

 竜魔人にとって伴侶に贈り物をするのは求愛行動の一つで大事なことだ。だからこそ毎日贈り物をしている。それにオリビアの喜ぶ顔が嬉しいのもある。百年前はいつもお古のドレスを何度も縫い直して着こなして、代わりに私やダグラスやスカーレットの服にお金を使っていたのも知っている。

「オリビアは今までずっと贅沢とは程遠い生活をしていたのだ、だから──」
「ですが毎日のように量が多いと言われているではありませんか」
「うぐっ……。あれでも減らした。あれ以上は──」

 正直、オリビアへの愛情を毎日の贈り物に込めているが全く足りていない。だが私だけが満足するだけでは意味がないので、オリビアが困らない程度にしていた。それでも多いとは言われるが、贈り物を手に取って嬉しそうにする姿が見たい。あと私のために着飾ってくれるのが嬉しい。

「量ではなく質で攻めるのです」
「質、か」
「たとえばネックレス──いえ、指輪など毎日、陛下が、直接、贈れば、オリビア様の、笑顔を独占できます!」
「そうです、陛下。ご自身でオリビア様にお渡しすれば、さらに喜ばれるかと!」

 力説するサーシャの目は真剣だ。アドラも賛同し煽る。
 たしかに。いつもお昼過ぎに贈っていたが、一緒にいる時に贈物を手渡したことはない。オリビアがどのような反応を見せるのか──。
 喜び綻ばせる笑顔、顔を赤らめる姿を思い浮かべただけで「見たい」と率直に思った。

「よし、明日からは私が直接オリビアに贈り物を手渡そう」
「はい」
「そうしてください。とてもお喜びになります」

 サーシャとアドラは問題が一つ解決に向かったことを喜びつつ、次の問題事項に入った。なんだかんだ二人とも有能で助かるのだが、なんだかうまく誘導されているような気がしなくもない。

「これで贈り物の中に紛れ込ませる方法は出来なくなりますね。もちろんセドリック様の書面付きでない贈り物は全てこちらで回収しますが」
「そうですね。贈り物に異物混入の被害は減るとして……問題は王兄第二姫殿下ミア様の魅了問題ですね。根本的な解決をしなければ、被害者は増える一方かと」
「それなら旧友ダグラスがあるものを発注してくれたので、もうじき届くはずだ」
「旧友……? ああ!」

 サーシャが一瞬小首を傾げたが、すぐに誰のことか気づいたようだ。そしてその人物が戻ってくるということの意味も理解した。

「ダグラスと、スカーレットには人の姿ではなく、獣化してオリビアの傍に居てもらうことにした。私が居ない間に安心かつ護衛としての戦力は申し分ないからな」
「あの方達でしたら、確かに」
「わたくしが離れている時などヘレンはおりますが、確かにこれ以上にない人選かと」

 そう旧友である二人なら、オリビアの護衛を任せることができるので、その点に関しては全幅の信頼を置いている。問題は──。

「私が居ない間に、ダグラスやスカーレットがオリビアと楽しくしているのを我慢できるかどうか……くっ、モフモフとか抱き付いていたら」
「陛下、独占欲が駄々洩れです。もう少し大人になってください」
「そうです。オリビア様にギュッとされたい気持ちは分かりますが、堪えてください」
「どさくさに紛れてサラッと本音を漏らしましたね、サーシャ殿」
「何のことでしょう」

 サーシャもやろうと思えば獣の姿に変化することはできる。オリビアは可愛いものに目がない。子猫とか子ウサギとか、オコジョとか昔から好きだった。
 ウサギは食糧難の際に、泣く泣く食べて落ち込んでいたけれど──。まあ、生きるためだとなんとか割り切ってくれたようだが。

(なんにせよ、後はダグラスやスカーレットが戻ってきてからが勝負といったところか)
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