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第2章
第15話 悪女襲来1-1
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十分な睡眠、栄養バランスのよい食事、適度な運動などを繰り返し、あまりにも贅沢な二ヵ月が過ぎた。今までの三年間が地獄だった分、天国のような暮らしで毎日目を覚ますと、ここが夢じゃないかと頬をつねったりすることが習慣になっていた。
それぐらいセドリック様は私を大事にしてくれて、蕩けるような愛の言葉を投げかける。そして今日も──。
「オリビア、今日は庭園に行きましょう。薔薇の拱廊が見頃なのですよ」
「ローズですか。楽しみです」
「それはよかった」
セドリック様は当たり前のように私を横抱きしながら、庭園へと向かう。車椅子や松葉杖は相変わらずサーシャさんが運んでくれている。
「あ、あの……移動のたびにセドリック様に運んでもらうのは、その申し訳ないというか……」
「気にする必要はありません。私はオリビアに触れられるので幸せですし、足が完治してからも続けるつもりです」
「え」
「駄目ですか?」
(その上目遣いは反則なのですが……!)
結果から言って断れなかった。眉目秀麗で素敵な方であると同時に甘え上手の天才で、可愛げのない私には逆立ちしてもできないだろう。セドリック様は満足そうに私に頬擦りをしてくる。これも竜魔人族の求愛行動の一つで毎日のスキンシップは重要だとか。
「こうやって毎日オリビアに触れられるなんて幸せです」
「大袈裟な気がします……」
「そんなことはないのですよ。オリビアは人族なので明確なデレ期がないでしょう」
(で、デレ期?)
「その分、毎日求愛しても受けいれてくれていい匂いがします」
すんすんと髪の匂いを嗅ぐのは恥ずかしいので本当にやめてほしいのだけれど、セドリック様曰く拒絶しているかどうかがわかるらしい。そのため私が「駄目」と言っても最近は「本当に駄目ですか?」と仔犬のような瞳で聞き返してくる。ずるい。あざとい。でも、本気で拒絶できない自分が悔しくもあった。
「セドリック様……デレ期とは周期的に訪れるものなのですか? す、好きな人が一緒にいても周期がこないと、そのデレないのですか?」
普通に好きな人と一緒にいるだけで甘えたいとか気持ちが芽生えるものだが、他種族では生態的に違うのだろうか。なんとも不思議なものだ。
「ええ、竜人族、魚人族、獣人族、鳥人族などの他種族は基本的にドライなのですがデレ期になる時だけ、求愛を受け入れるのです。元々人族以外の種族は弱みを見せることを極端に嫌っており、サバサバした性格が多い傾向にあるのです。そのため竜魔人族の深くて重い愛情表現に、拒絶──まではいきませんが、鬱陶しいと思うようです」
(あ、一応愛情表現が重いというのは、理解しているのね……?)
「本気で拒絶する匂いもするので、伴侶であっても基本的にドライな時期は竜魔人にとっては結構辛いのですよ」
「な……なるほど? 人族から見れば、その……分かりやすい愛情表現は嬉しいですけれど」
「オリビアにそう言ってもらえて嬉しいです。ではこれからもたくさん触れて愛を囁きますね」
「!」
セドリック様は大喜びで私の頬にキスを落とす。ああ、恥ずかしい。言わなければよかったと思ったけれど、もう遅い。
ぶんぶん、と尾が今までにかつてないほど狂喜乱舞している。こんなに暑苦しい愛情を注がれ続けたら──嬉しい。そう嬉しいのだ。
二ヵ月ぐらいでたくさんの愛情を注がれて、そう思えるようになった。
本当に私はちょろい。
(でも、本当は愛されたいって気持ちが強くある。……セドリック様に対して芽生えた感情は形に出来ていないけれど、こうやって形や態度、言葉で表現してくれるのは嬉しい)
「フフフッ。今日もオリビアは可愛らしいですね」
「せ、セドリック様っ……!」
「本当のことです」
何気ない会話が増えた気がする。セドリック様と一緒に過ごすことが増えて、このまま傍に居たいと思う気持ちも膨らんでいく。
一度は死を考え自分の心を固く閉ざそうとしたけれど、春のような温かさを与えてくれる環境は凍りついたものを簡単に溶かしてしまうのだと気づいた。
長い回廊に出たものの、私たちの話し声以外は聞こえず静かなものだ。
柔らかな風が私の頬を掠めた。
昼下がりの穏やかな時間帯。普段ならセドリック様は政務に勤しんでいるのだが、今日は仕事を早めに切り上げてきてくれた。
セドリック様が私を抱き上げて移動するのは、求愛行動の一種でこれはいつも通りだ。けれどそれ以外にも理由というか原因がある。昨日、リハビリも兼ねてセドリック様の執務室まで向かおうとした時に、私が階段から転落してしまったのだ。
幸いにもセドリック様が階段の下にいたので、事なきを得た。あんな時間に階段下にいたのは、私の匂いがした気がしたからだとか。竜魔人の嗅覚が異常すぎる。
(あのときサーシャさんが車椅子を持ってくれて前を歩いていたけれど、後ろには誰もいなかったし、階段ですれ違うこともなかった……それなのに誰かに押されたような気がした)
気のせいかもしれないけれど三年前も私をよく思わない人がいたのは事実だし、狙われる可能性はゼロじゃない。私が不安がらないように、セドリック様が傍に居ようとしてくれたのだろう。その配慮は嬉しい。セドリック様の優しさに嬉しく思う反面、いつか飽きられ、豹変し、距離を取る、あるいは道具として扱われる日が来るのかもしれない──と一抹の不安が消えなかった。
それぐらいセドリック様は私を大事にしてくれて、蕩けるような愛の言葉を投げかける。そして今日も──。
「オリビア、今日は庭園に行きましょう。薔薇の拱廊が見頃なのですよ」
「ローズですか。楽しみです」
「それはよかった」
セドリック様は当たり前のように私を横抱きしながら、庭園へと向かう。車椅子や松葉杖は相変わらずサーシャさんが運んでくれている。
「あ、あの……移動のたびにセドリック様に運んでもらうのは、その申し訳ないというか……」
「気にする必要はありません。私はオリビアに触れられるので幸せですし、足が完治してからも続けるつもりです」
「え」
「駄目ですか?」
(その上目遣いは反則なのですが……!)
結果から言って断れなかった。眉目秀麗で素敵な方であると同時に甘え上手の天才で、可愛げのない私には逆立ちしてもできないだろう。セドリック様は満足そうに私に頬擦りをしてくる。これも竜魔人族の求愛行動の一つで毎日のスキンシップは重要だとか。
「こうやって毎日オリビアに触れられるなんて幸せです」
「大袈裟な気がします……」
「そんなことはないのですよ。オリビアは人族なので明確なデレ期がないでしょう」
(で、デレ期?)
「その分、毎日求愛しても受けいれてくれていい匂いがします」
すんすんと髪の匂いを嗅ぐのは恥ずかしいので本当にやめてほしいのだけれど、セドリック様曰く拒絶しているかどうかがわかるらしい。そのため私が「駄目」と言っても最近は「本当に駄目ですか?」と仔犬のような瞳で聞き返してくる。ずるい。あざとい。でも、本気で拒絶できない自分が悔しくもあった。
「セドリック様……デレ期とは周期的に訪れるものなのですか? す、好きな人が一緒にいても周期がこないと、そのデレないのですか?」
普通に好きな人と一緒にいるだけで甘えたいとか気持ちが芽生えるものだが、他種族では生態的に違うのだろうか。なんとも不思議なものだ。
「ええ、竜人族、魚人族、獣人族、鳥人族などの他種族は基本的にドライなのですがデレ期になる時だけ、求愛を受け入れるのです。元々人族以外の種族は弱みを見せることを極端に嫌っており、サバサバした性格が多い傾向にあるのです。そのため竜魔人族の深くて重い愛情表現に、拒絶──まではいきませんが、鬱陶しいと思うようです」
(あ、一応愛情表現が重いというのは、理解しているのね……?)
「本気で拒絶する匂いもするので、伴侶であっても基本的にドライな時期は竜魔人にとっては結構辛いのですよ」
「な……なるほど? 人族から見れば、その……分かりやすい愛情表現は嬉しいですけれど」
「オリビアにそう言ってもらえて嬉しいです。ではこれからもたくさん触れて愛を囁きますね」
「!」
セドリック様は大喜びで私の頬にキスを落とす。ああ、恥ずかしい。言わなければよかったと思ったけれど、もう遅い。
ぶんぶん、と尾が今までにかつてないほど狂喜乱舞している。こんなに暑苦しい愛情を注がれ続けたら──嬉しい。そう嬉しいのだ。
二ヵ月ぐらいでたくさんの愛情を注がれて、そう思えるようになった。
本当に私はちょろい。
(でも、本当は愛されたいって気持ちが強くある。……セドリック様に対して芽生えた感情は形に出来ていないけれど、こうやって形や態度、言葉で表現してくれるのは嬉しい)
「フフフッ。今日もオリビアは可愛らしいですね」
「せ、セドリック様っ……!」
「本当のことです」
何気ない会話が増えた気がする。セドリック様と一緒に過ごすことが増えて、このまま傍に居たいと思う気持ちも膨らんでいく。
一度は死を考え自分の心を固く閉ざそうとしたけれど、春のような温かさを与えてくれる環境は凍りついたものを簡単に溶かしてしまうのだと気づいた。
長い回廊に出たものの、私たちの話し声以外は聞こえず静かなものだ。
柔らかな風が私の頬を掠めた。
昼下がりの穏やかな時間帯。普段ならセドリック様は政務に勤しんでいるのだが、今日は仕事を早めに切り上げてきてくれた。
セドリック様が私を抱き上げて移動するのは、求愛行動の一種でこれはいつも通りだ。けれどそれ以外にも理由というか原因がある。昨日、リハビリも兼ねてセドリック様の執務室まで向かおうとした時に、私が階段から転落してしまったのだ。
幸いにもセドリック様が階段の下にいたので、事なきを得た。あんな時間に階段下にいたのは、私の匂いがした気がしたからだとか。竜魔人の嗅覚が異常すぎる。
(あのときサーシャさんが車椅子を持ってくれて前を歩いていたけれど、後ろには誰もいなかったし、階段ですれ違うこともなかった……それなのに誰かに押されたような気がした)
気のせいかもしれないけれど三年前も私をよく思わない人がいたのは事実だし、狙われる可能性はゼロじゃない。私が不安がらないように、セドリック様が傍に居ようとしてくれたのだろう。その配慮は嬉しい。セドリック様の優しさに嬉しく思う反面、いつか飽きられ、豹変し、距離を取る、あるいは道具として扱われる日が来るのかもしれない──と一抹の不安が消えなかった。
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