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第2章
第16話 旧知の友1-1
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既に日課になりつつある刺繍に勤しんでいると「リヴィ」と叫んだ直後、私の眼前に空を飛ぶ黒猫と真っ白なウサギが飛び込んできた。
侍女長のサーシャさんが扉を開けたのだが、まさか突進するとは思っていなかったようで「申し訳ありません」と謝られてしまった。私は座っていたソファに押し倒されただけなので別に問題ない。むしろものすごく懐かれていることに驚いている。
「リヴィ。百年ぶり」
「やっと会えたけど、リヴィだ。リヴィだ」
私を押し倒した可愛らしい猫さんとウサギさんは、キャッキャッしてはしゃいでいた。よく見ると黒猫は頭に角があり羽根は蝙蝠、尾は蛇の姿で、吊り上がった瞳はアーモンドのように大きくて、宝石のようにキラキラした緑色だ。うん、私の知っている猫ではない──かな。
一方、真っ白で垂れ耳のウサギは白鳥のような翼に、緋色の瞳。そのフォルムはモフモフしがいがある。可愛い。きっとぬいぐるみを出したら即売するだろう。この子も私の知るウサギとは違う。
私を「リヴィ」と愛称で呼ぶのは、過去の私を知っているからなのだろうか。上半身を起こして改めて黒猫と白ウサギに向き合う。
「ええっと……あなた達は、もしかしてセドリック様のお知り合い?」
「フランの昔馴染みだ。オレはダグラス」
「フランの古い友人よ。私はスカーレット」
黒猫の方がダグラスで、白ウサギはスカーレットと名乗った。セドリック様のことをフランと呼んでいるものの、知り合いなのは確かなようだ。にしてもオコジョのフランも可愛かったが、眼前の黒猫と白ウサギは目の保養になる。あと可愛らしい。
ダグラスは私の指先に触れて撫でろとアピールしてきた。あざといが可愛い。スカーレットは私の膝の上にちゃっかり居座っている。ダグラスの頭を撫でると心地よさそうに目を細めた。
「リヴィの手、すき。いっぱい撫でる」
「リヴィの膝の上、ポカポカして安心する。私も撫でて」
それはまるで小さな子供が母親に甘えるような──そんな行動だった。母性本能というか庇護欲が刺激されるのは言うまでもない。サーシャさんの用意してくれたお菓子など一緒に食べるなど賑やかな時間を過ごしていたのだが、それは唐突に終わりを告げる。
どさどさと本が床に散らばった音で、来訪者の存在に気付いた。「オリビア」そう呟いたセドリック様は絶望で顔が真っ青になっていた。何が彼の琴線に触れたのか分からない私は、どうすべきか困惑して固まってしまう。
(もしかして知らない間に不敬な言動を取ってしまった? それともグラシェ国でマナー違反があった?)
「私の時よりも『求愛餌食』を楽しそうにするなんて、酷いです」
「???」
一瞬、何を言っているのか本気で理解ができなかった。独占欲や嫉妬(?)のようなものなのだろうか。散らばった本など目もくれず私の元へと大股で迫る。
怒られる──!?
そう思い目を瞑ったのだが、セドリック様は私を抱き上げてソファに座り直す。私は彼の膝の上である。これはこれでいつものポジションなのだが、ダグラスやスカーレットの前なので何というか恥ずかしい。
「せ、セドリック様!?」
「あんなに楽しそうにお茶会をしているなんて、どうして私を呼んでくださらなかったのですか。言って下されば執務を放棄してでも伺ったのに!」
「いえ、それはそれで駄目なような……」
いつになく私の首筋に顔を埋めて拗ねている。尻尾も私の腰回りに巻き付いていた。身動きができない上に、古い友人とはいえ何とも恥ずかしいところを見られてしまった──と思っていたのだが。
「あいかわらずリヴィを独り占めしようとするなんて、器が小さい男ね」
「百年程度経っても独占欲は変わらない。……や、絶対酷くなっている」
私の傍で浮遊するダグラスとスカーレットは、「またか」といった感じで呆れていた。まるでこういったことが今までに何度もあったかのような反応だ。
「ダグラス、スカーレットもその姿というのは狡くないですか。可愛いものが大好きなオリビアがどう反応するか分かっていたのでしょう」
「もちろん」
「とうぜん」
「くっ……やっぱり確信犯じゃないか。質が悪い」
何というかセドリック様に対して友人感覚で話している。しかもどちらかというとダグラスとスカーレットの方が年上っぽいようだ。
「大体、来るならまずは私のところじゃないですか。だいたい魅了封じの魔導具だけ渡して何をしていたのですか。うう……」
「別任務。あとリヴィに会いたかった」
「別のお仕事。一刻も早くリヴィに会いたかったんだもの」
「ぐっ」
息ピッタリの答えである。
ダグラスとスカーレットは、他にもソファが空いているというのに私の膝の上にちょこんと座り込む。白と黒のモフモフを前にしたら触れたくなるのが真理だと思う。
(もしかして魅了封じの魔導具って、庭園に現れたミア──様? を撃退するために用意していたもの?)
侍女長のサーシャさんが扉を開けたのだが、まさか突進するとは思っていなかったようで「申し訳ありません」と謝られてしまった。私は座っていたソファに押し倒されただけなので別に問題ない。むしろものすごく懐かれていることに驚いている。
「リヴィ。百年ぶり」
「やっと会えたけど、リヴィだ。リヴィだ」
私を押し倒した可愛らしい猫さんとウサギさんは、キャッキャッしてはしゃいでいた。よく見ると黒猫は頭に角があり羽根は蝙蝠、尾は蛇の姿で、吊り上がった瞳はアーモンドのように大きくて、宝石のようにキラキラした緑色だ。うん、私の知っている猫ではない──かな。
一方、真っ白で垂れ耳のウサギは白鳥のような翼に、緋色の瞳。そのフォルムはモフモフしがいがある。可愛い。きっとぬいぐるみを出したら即売するだろう。この子も私の知るウサギとは違う。
私を「リヴィ」と愛称で呼ぶのは、過去の私を知っているからなのだろうか。上半身を起こして改めて黒猫と白ウサギに向き合う。
「ええっと……あなた達は、もしかしてセドリック様のお知り合い?」
「フランの昔馴染みだ。オレはダグラス」
「フランの古い友人よ。私はスカーレット」
黒猫の方がダグラスで、白ウサギはスカーレットと名乗った。セドリック様のことをフランと呼んでいるものの、知り合いなのは確かなようだ。にしてもオコジョのフランも可愛かったが、眼前の黒猫と白ウサギは目の保養になる。あと可愛らしい。
ダグラスは私の指先に触れて撫でろとアピールしてきた。あざといが可愛い。スカーレットは私の膝の上にちゃっかり居座っている。ダグラスの頭を撫でると心地よさそうに目を細めた。
「リヴィの手、すき。いっぱい撫でる」
「リヴィの膝の上、ポカポカして安心する。私も撫でて」
それはまるで小さな子供が母親に甘えるような──そんな行動だった。母性本能というか庇護欲が刺激されるのは言うまでもない。サーシャさんの用意してくれたお菓子など一緒に食べるなど賑やかな時間を過ごしていたのだが、それは唐突に終わりを告げる。
どさどさと本が床に散らばった音で、来訪者の存在に気付いた。「オリビア」そう呟いたセドリック様は絶望で顔が真っ青になっていた。何が彼の琴線に触れたのか分からない私は、どうすべきか困惑して固まってしまう。
(もしかして知らない間に不敬な言動を取ってしまった? それともグラシェ国でマナー違反があった?)
「私の時よりも『求愛餌食』を楽しそうにするなんて、酷いです」
「???」
一瞬、何を言っているのか本気で理解ができなかった。独占欲や嫉妬(?)のようなものなのだろうか。散らばった本など目もくれず私の元へと大股で迫る。
怒られる──!?
そう思い目を瞑ったのだが、セドリック様は私を抱き上げてソファに座り直す。私は彼の膝の上である。これはこれでいつものポジションなのだが、ダグラスやスカーレットの前なので何というか恥ずかしい。
「せ、セドリック様!?」
「あんなに楽しそうにお茶会をしているなんて、どうして私を呼んでくださらなかったのですか。言って下されば執務を放棄してでも伺ったのに!」
「いえ、それはそれで駄目なような……」
いつになく私の首筋に顔を埋めて拗ねている。尻尾も私の腰回りに巻き付いていた。身動きができない上に、古い友人とはいえ何とも恥ずかしいところを見られてしまった──と思っていたのだが。
「あいかわらずリヴィを独り占めしようとするなんて、器が小さい男ね」
「百年程度経っても独占欲は変わらない。……や、絶対酷くなっている」
私の傍で浮遊するダグラスとスカーレットは、「またか」といった感じで呆れていた。まるでこういったことが今までに何度もあったかのような反応だ。
「ダグラス、スカーレットもその姿というのは狡くないですか。可愛いものが大好きなオリビアがどう反応するか分かっていたのでしょう」
「もちろん」
「とうぜん」
「くっ……やっぱり確信犯じゃないか。質が悪い」
何というかセドリック様に対して友人感覚で話している。しかもどちらかというとダグラスとスカーレットの方が年上っぽいようだ。
「大体、来るならまずは私のところじゃないですか。だいたい魅了封じの魔導具だけ渡して何をしていたのですか。うう……」
「別任務。あとリヴィに会いたかった」
「別のお仕事。一刻も早くリヴィに会いたかったんだもの」
「ぐっ」
息ピッタリの答えである。
ダグラスとスカーレットは、他にもソファが空いているというのに私の膝の上にちょこんと座り込む。白と黒のモフモフを前にしたら触れたくなるのが真理だと思う。
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