41 / 56
最終章
第20話 忍び寄る脅威1-2
しおりを挟む***
たっぷり一時間半以上かけて、着飾ってもらった。思えばグラシェ国で社交界などのパーティーはあまり行われておらず、公務らしいことをするのは今回が初めてだと思い至り緊張してしまう。胸下に切り替えがあり、スカートが流れるように落ちるエンパイアドレスの色はセドリック様の瞳の紺藍色と白で、全体的に金や銀の刺繍をふんだんに使っている。蜂蜜色の長い髪は編み込みで綺麗にまとめ上げており、胸には真珠と深い青色の宝石付きのネックレスといつも以上に気合が入っている。
(よく考えればセドリック様の妻になりたいと公言したのは今日初めてだったから、今まで公務に関して配慮されていたのかもしれない。もっとも、この三カ月、セドリック様が遠征やら各地の視察、パーティーなどで城を空けることが殆どなかったような……)
使節団は城内の客間に案内をしており、セドリック様たちが対応をしているという。足を治癒魔法で治してもらい、久しぶりに自分の足で歩くことができる。
リハビリもしてきたおかげで歩くのも問題ないものの、長時間に関してはローレンス様から許可がおりていない。
「ど、どうかしら?」
「素敵です、オリビア様」
「ええ、本当に。花の女神のようですわ」
「あ、ありがとうございます。……セドリック様も喜んでくれるでしょうか」
「すっごく喜ぶと思います!」
「同感です」
鏡を見ても、サーシャさんとヘレンさんの頑張りで綺麗に着飾ってくれた。靴は足に負担を掛けないヒールの低いものを用意してくれたので、客間まで問題なく歩くことができた。
控えめなノックをして、客間に入った。
広い部屋に向かい合わせにソファがあり、そこでエレジア国の使節団よりも先にセドリック様に目が行った。白の正装で身を整えており、いつにも増して三割、いや五割増しに凛々しく見える。長い髪も蜂蜜色の網紐で結っていて、私を見た瞬間、口元が綻んだ。
「セドリック様」
「ああ、オリビア!」
素早くソファから立ち上がって、部屋に入った私の前に足早に歩み寄る。私は膝を曲げてカーテシーをして挨拶をした。
「お待たせして申し訳ありません」
「オリビア、貴女が謝る必要なんて一つもありませんよ」
「ありがとうございます」
手を差し伸べられ、セドリック様にエスコートされながらソファへと向かった。テーブルを挟んで座っていたのは、エレジア国の使節団として赴いたクリストファ殿下、聖女エレノア、他にも神殿の神官たちが数名いた。その全員が唖然とした顔でこちらを見ている。
「クリストファ殿下、聖女エレノア様もお久しぶりでございます」
「え、ええ……」
「あ、ああ……!」
エレノア様は聖女としての笑みが崩れており目にはクマ、顔色も悪く毛並みも以前よりも悪い。三カ月前の自分の姿と少しだけ重なった。
(もしかして私が抜けた穴をエレノア様が?)
「オリビア、見違えるほど美しくなって! 今日会うことができて何よりも嬉しく思う」
馴れ馴れしく話しかけてきたクリストファ殿下に、セドリック様の眉根が僅かに吊り上がった。本来ならセドリック様の妻として使節団たちの挨拶をすべきなのだろうが、彼は「妻は足の怪我が治っていなくてね。座らせてもらっていいだろうか」と切り出してサッサと私をソファに座らせてしまった。慇懃無礼な態度かもしれないが、圧倒的な国力及び財力をもつグラシェ国からすれば人間の国程度でそこまで遜る必要はないのだろう。
「……さて、議題はなんだったかな」
(いつもの柔らかい声とは違って、よく通る声に淡々とした物言い。……新鮮な気がする)
セドリック様の新しい一面ばかりに目がいってしまい、クリストファ殿下のことなどまったく視界に入っていなかった。
本当はお会いしたらつらい気持ちや、一時期は婚約者として淡い気持ちが芽生えていたことが蘇るかと思ったけれど、まったくなかった。つらくて、苦しくて、悲しい記憶は全部セドリック様との時間が癒してくれたから。
「で、ですから、我が国ではオリビアの力が──」
「その名を軽々しく呼ばないでいただきたい。すでに貴公らとの契約も消えた。今回の使節団も兄王の側室が勝手に了承しただけで私は関与していない。国として信頼関係もない今、こうやって来客として遇していることが異例なのだが」
「失礼……しました。しかし、我が国ではどうしても王妃様の力が必要なのです」
「そうです。彼女は三年、我が国のために貢献してくださった慈愛ある方。どうかもう一度我が国のためにご尽力いただけないでしょうか」
都合の良い言葉を並び立てて、また私を国のために利用したいと言っているクリストファ殿下とエレノア様に心底驚いた。あまりにも面の皮が厚い。
あれだけの仕打ちをして、また私が尽力するとでも思っているのだろうか。沸々と湧き上がる怒りを呑み込んで私はセドリック様を見つめた。
「セドリック様、発言をしてもよろしいでしょうか」
「ええ。オリビアへの依頼──いえ物乞いのようなので、返答して差し上げてください。もちろん、我が国の心配などせずに、たかが人間の国と国交を結ばなくても政治的、経済的にも問題ないので」
「なっ」
「その言い方はあまりにも失礼では?」
「そうよ! シナリオ展開をめちゃくちゃにしたあげく、貴女だけ幸せになるなんて許されない。貴女は我が国に対して誠意ある対応が必要なの」
47
あなたにおすすめの小説
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。
ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・
強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。
目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。
卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。
理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。
…と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。
全二話で完結します、予約投稿済み
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる