虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない

あさぎかな@コミカライズ決定

文字の大きさ
43 / 56
最終章

第21話 王太子クリストファ殿下の視点3/悪魔ラストの視点1-1

しおりを挟む
 
 オリビアは見違えるほど美しくなっていた。思わず『別人では?』と思ったほど磨き上げられた肌に、艶やかな髪、垢抜けた美女がもう一度自分の元に戻ると思うと、笑みが漏れそうになった。
 穏便に済ませたかったが、思いのほかオリビアは私の提案を拒否。取り付く島もない。これで計画が頓挫とんざすると必死で言葉を並べるがまったく相手にされなかった。
 仕方がない、と強行手段に出る。

 合図によって《原初の七大悪魔》の一角、色欲ラストの用意した魔導具で空間に亀裂を生み、様々な魔物を城中に出現した。そのどさくさ紛れてオリビアを奪取してしまえばいい。
 多少抵抗しても色欲ラストから渡された精神支配する魔導具をオリビアに装着してしまえば、こちらのものだ。私が魔物を倒し、救出したことで恩義を感じたオリビアはエレジア国に戻る。
 完璧なシナリオだった。
 そう途中までは──。

 赤紫色の夥しい触手によって城の外にオリビアを連れ出し、予定通り庭園周辺に移動した。周囲からは触手の壁で見えない。傍から見たらドーム型に触手が群がって見えるだろう。
 触手のぬめった感触や生暖かさは気持ちが悪かったが、贅沢を言っている場合ではない。
 気絶したオリビアの腕に精神支配の腕輪を装着した。あとは指輪とネックレスを──というところで、竜魔王代行セドリックが触手を切り裂き現れたのだ。

 速すぎる。化物か。
 そう悪態を吐きそうになったのを呑み込んだ。
 しかも一瞬でドーム型に展開した触手の壁を、根こそぎ劫火で燃やし尽くした。
 圧倒的な魔力量の差。血飛沫を被った化物に慄いた。
 完全ではないが魔導具を起動し「竜魔王代行を拒絶しろ。お前の主はクリストファ、私だ」と命令を下す。薄っすらと目を開いたアメジスト色の瞳が精神支配によって濁っていくのを確認し、安堵する。
 これで計画の半分は完遂した。あとはじっくり時間をかけて精神支配を浸食させればいい。
 そう思っていたところで、触手の壁が消滅したことで青空が顔を出す。

「オリビア!」
「竜魔王殿下、彼女ならこちらです」

 オリビアは黙ったまま上半身を起こして立ちあがろうとする。手を貸して支えたのち、私はわざと身を引いてオリビアをセドリックに差し出す。

(精神支配がかかっているなら、何かしら反応するはず)

 口元がついつい緩んでしまうが、なんとか堪えた。私に目もくれず、セドリックは彼女を抱きしめようとした。
 パン、と乾いた音が庭園に響く。
 オリビアは私の命令通り、竜魔王代行の手を振り払ったのだ。

「オリ……ビア?」
「……っ、…………」

 なにか呟いたが、傍を離れた私には聞こえなかった。だが問題ない。精神支配はまだ完全とはいかないが初動確認は済んだ。

「オリビアも魔物で怯えたのでしょう。魔物の討伐がまだ終わっていないようなら私が彼女の傍で──」
「いや、結構だ」
「しかし」
「既に討伐は終わった。妻の体調が優れないので失礼する。……アドラ」
「ハッ」

 いつの間にか執事服の竜魔人族が音もなく姿を見せる。いくつか指示を出し、竜魔王代行は拒絶するオリビアを抱き上げて姿を消した。
 内心で舌打ちしつつも、魔導具が正常に働いているのをみて笑いが止まらなかった。手を弾かれ、拒絶された時のセドリックの顔。
 間抜けで、笑えた。
 なんと清々しい気分なのだろう。
 しかしエレノアや神官たちの姿が見えないが、別の場所に移動させられたのだろうか?
 庭園で合流し、魔導具の装着を手伝う算段だったはずなのに予定が狂った。

(まったく、役にも立たない奴らだ)

 そう思いながらも残っていた執事のアドラから、今日は泊まるようにと客室へと案内された。この男は礼節を弁えているようで、少しばかり溜飲も下がった。
 今日の夜にでもオリビアを呼び出し、残る魔導具を装着させ──ついでに夜を共にしようと妄想を膨らませた。


 ***悪魔ラストの視点***


 ああ、私の愛しい果実オリビアが、さらなる輝きに満ちている。
 美しく、気高く、そしてまた希望というものを持ち始めた。
 それらをどうやって壊して、砕けさせて、絶望させよう。
 悲痛な声と涙は魂をさらなる甘美な味に変える。

 少しだけ味見をしてみたい。
 ようやく作り上げた私の最高傑作の魂。
 人族は脆いけれど時折、宝石に近い甘美な魂が存在する。
 ずっと、ずっと、狙っていた。
 ずっと、ずっと前から私のモノだった。

 誰が渡すものか。
 溢れかえる触手は私の魔力で作り出した使い魔。城中に生じ、目の前にあるものを丸呑みする。予定通りオリビアと王太子クリストファを触手の壁で隔離できた。
 私の感情に合わせて触手も狂喜乱舞して暴れ回っている。
 百年以上前からずっと狙っていた魂を食らうことができるのだから。
 本来ならあの時に彼女の魂を食らうはずだったのに。
 そう決まっていたのに。確たる運命を捻じ曲げたのはあまりにも儚い繋がりだった。
 熟れに熟れた魂。かぐわしい香りに酔いしれそうになる。

(ああ、このまま触手を使って、食べてしまおうかしら)

 思わず触手の一部が大きく口を開ける。
 我慢できずに食べてしまおうとした直後。
 エレノアに攻撃する者が現れた。
 灰色の髪に、褐色の肌、騎士風の姿だがその背は私と同じ蝙蝠の羽根を生やしている。すぐさま同族だと分かるが、隣にいる天使と並んでいるのが腹立たしかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。

ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・ 強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

処理中です...