44 / 56
最終章
第21話 王太子クリストファ殿下の視点3/悪魔ラストの視点1-2
しおりを挟む「ようやく本体をさらけ出したな、色欲」
「ほんと、中々現れないから不安だったけれど、やっと殺せるわ」
忌々しい天使族の娘と、同族でありながら私を殺そうとする悪魔族の小僧。
「なぜエレノアの器を悪魔が奪ったと気づいた?」
「お前の行動パターンならお見通しだ、同じ悪魔だから、わかることもある」
「チッ」
エレジア国に逃れた後、ちょうど絶望の淵に居た娘を見つけた魂を食らった。以前使っていた侍女の器は損傷が激しく、聖女エレノアの器を手に入れたというのに。クリストファのせいで髪や肌がボロボロだがこの際しょうがない。精神的に疲弊していたので魂を食らって器を奪うのは容易かった。本来の道筋なら悪魔にとって一番の脅威となるはずの存在だったというのに、オリビアに関わったことで運命が変わった。自身の行いによる報いと言うべきか。
この器の娘は簡単に絶望したのに、オリビアは折れなかった。眼前の悪魔は私と同類なくせに、どうしてそっち側でいられるのか。苛立ちが抑えられない。
(あの魂を絶望させ、それを食らえば……分かるかもしれない。あの特別な魂を!)
「リヴィには、もう絶対に手を出させない!」
真っ赤な長い髪に凛とした美女は白銀の甲冑に身を纏い、巨大な魔法陣を展開する。あれは──亜空間。あの中に連れ込まれたら、逃げられない。すぐさま離脱しようとしたが、両手両足ともに漆黒の鎖に繋がれていた。
「ばーか、逃がすかよ。お前はここで殺す」
「ふざけるな……。やっと、あとちょっとだったのに……」
同族の癖に天使族と手を組んだ恥知らず。使い魔である触手はセドリックが瞬殺。魔物を呼び寄せるために作った亀裂も既に封じられ討伐されている。対応が早過ぎる!
奥の手に取って置いた神官に命じる。ここは撤退しかない。大丈夫だ、ここを逃れてもっと時間をかけてオリビアの魂を奪えばいい。
魔導具の《蝴蝶乃悪夢》は私の核の一部で作った。私が死んでもオリビアは悪夢から帰還しない。悪夢を解除できるのは私だけ!
「神官たち、アレを止めろ!」
「ハハッ!」
「承知しました」
使い魔にした神官たちに相手をさせたが、第三者によって斬り伏せられ炭化して消えた。凄まじい魔力を感知し、竜魔王かと思ったが──そこにいたのはディートハルト前竜魔王と、その妻である天使族のクロエだった。ありえない。
二人とも石化したまま解除されていなかったはず。
百数年という時間の流れを感じさせない程二人は、以前と変わらぬ美貌と魔力を備えて私の前に現れた。
「ば、馬鹿な。お前は──」
「百数年ぶりか。お前の始末は竜魔王である我が請け負うと決めていてね。弟には迷惑をかけた分、この先の相手は我ら四人でさせてもらう」
「ふ、ふざけるな! ようやく見つけた至宝の魂を目の前にして諦められるか!」
今こそ百数年間の悪夢を見せ続けたフィデス王国国民から負のエネルギーを根こそぎ奪って──。そう思った直後、急に力が衰え、魔力が失われていく。
「な、なぜだ。私は百年以上前から、準備をしてきたというのに!」
「はっ、それはこっちの台詞だ。百三年前にリヴィが石化魔法を使った段階で、お前の負けは決まっていたんだよ」
「暴食、お前が、魂を食らったのか!?」
「いいや。俺が食ったのは記憶だよ。リヴィに関する記憶だ。お前はリヴィを利用して負の感情や魂を集めていたのだろう。だが、肝心のリヴィが覚えていなければ意味はない」
「なっ……」
眼前の悪魔は、リヴィの記憶を食らい私の魔力増幅を防いだ。
そして全ての準備を整える為にディートハルトとクロエは雲隠れした。
天使族と悪魔族の共闘?
ありえない。悪魔族は自分の愉悦のために生きる存在だ。
他者の為に動こうとなど考えない。そういう風に出来ていない。
まるで他種族として認められ、受け入れられている悪魔族の少年に嫉妬し、憎悪し、激高した。
「この悪魔の出来損ないが! 悪魔族の癖に、私と同じ、人間の闇から、泥から劣悪な場所から生まれたくせに! そっち側で、輪の中に入っているんじゃない!」
蝙蝠の翼を生やし、両手に漆黒の鎌を携えて漆黒の鎖を引きちぎる。
かつてないほどの怒りが、私の中で燃え上がった。
「お前だけはあああああああああああああああ!」
暴食めがけて突貫する。それに合わせて暴食は、漆黒の槍を生み出し、私に向けて投擲した。その速度と威力は肩を抉り、速度が落ちた瞬間、ディートハルトが背中から私を突き刺した。
「があっ……」
「滅びろ、色欲」
崩れ逝く私を天使族の二人が亜空間へと誘う。あの隔絶された空間内で死ねば復活は不可能。
終わり、死ぬ。
蝙蝠の羽根は消え、体も崩れて亜空間へと落ちた。
隔絶された世界。
誰もいない何もない──世界。
悪魔は孤独だ。
私の能力は相手を洗脳すること。その力があれば誰も彼もが私に良くしてくれる。
私を褒めてくれる、贈り物もくれるし、愛してくれる。
でも、傍には居てくれない。
だって私は悪魔だから。
私の近くに居れば人間の魂を吸収して殺してしまう。それは止められない。
仲良くなっても、仲間になっても、家族であっても殺してしまう。
昔、お人好しの伯爵家があった。優しくて、温かい。そんな人たちの絶望した顔が未だに忘れられない。当時のことはあまり覚えていないけれど、あの魂はとても美味しかった。
心から満たされた深みのある味わい。
(ああ、あの魂を──宝石のように輝く魂を食らうことができれば、私も……今度こそ……)
63
あなたにおすすめの小説
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。
ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・
強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。
目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。
卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。
理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。
…と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。
全二話で完結します、予約投稿済み
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる