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第4章
第42話 腹黒聖女アリサの視点2
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アリサ・ニノミヤ。
この世界ではない日本から流れ着いた転移者であり、ハート皇国では《聖女》と呼ばれる存在である。転移した時に彼女の髪は黒髪からピンク色に変わり、年齢は十七歳へと若返っていた。
(やったー! これって異世界転移ってやつよね!?)
アリサはこの世界をゲームの世界だと信じ切っていた。なぜならこの世界が日本でプレイしていた乙女ゲーム『聖女恋戦記~妖精国と花咲く恋~』にそっくりの世界だったからだ。
ゲーム本来ならダイヤ王国の女王は『古の魔女』に魅入られてしまい、魔女の器となって世界を滅ぼそうとする。それを阻止するためハート皇国アレクシス皇太子、スペード夜王国フェイ王子、クローバー魔法国の天才魔導士エルヴィン、ダイヤ王国宰相のジェラルド王子たちと協力し合って数々の問題を解決し、『古の魔女』の力が弱まったのを見て退治するのが一連の流れだ。
(このゲームなら何度もやり込んだもの。やるんなら全キャラ溺愛ルートで、最終的にダイヤ王国の女王として君臨するのがいいわ。エンドロールの後、夫となる王子や皇太子たちが身分を捨てて私に求愛するし、誰からも愛されて祝福と共に幸せになる。あー今から楽しみ!)
全キャラ溺愛ルートは最高難易度。
その上、隠れキャラの妖精王オーレ・ルゲイエを攻略するのには、二週目でなければ出てこない。この世界に二週目というのがあるのか不明だが、原作を知っているアリサにとってイージーモードと思っていた。
しかしゲームを進めていくと、ゲームのシナリオと現実に大きな差異があることに気づく。というのもラスボスとなるダイヤ王国の女王が『古の魔女』に乗っ取られてないのだ。その上ダイヤ王国を攻めようとする考えに、攻略キャラクター全員が反対した。
「なんでよ! ダイヤ王国は資源の山でしょう!? なんで略奪や侵略しないのよ!」
「お前が優れた聖女なのは認めるが、あの国は妖精王が加護する国だぞ。下手に戦争しても我々が勝てるはずがない」
アリサを聖女として敬うアレクシスでさえ、最初は否定的だったのだ。
むしろそれを提案したアリサは異端者扱いをされてしまう。
(なんでよ、なんでソフィーリアが悪役じゃないの!?)
ゲーム設定ではダイヤ王国は『古の魔女』の呪いで国中が茨に囲まれて、国民もみな呪いで眠りについているはずだった。だがそういった展開なく国民もソフィーリアの事を慕っていた。ソフィーリアが悪役らしい非道など行っていないのだ。
善良で、妖精たちからも愛される存在。さらにアリサがタイプだったシン・フェイはソフィーリアの婚約者だというのだから、苛立ちでどうにかなりそうだった。
実際にソフィーリアと対面してアリサはその姿に驚いた。ゲームでは『古の魔女』に乗っ取られ、禍々しい姿だったのだが、遠目ではあるが彼女は金色の髪に、白い肌、美しくも愛らしい女神のような美女で誰からも愛されていた。
(なんなのよ! なんなのよぉおお!)
ソフィーリアを見てアリサの胸に宿ったのは、嫉妬の嵐だった。彼女の傍には婚約者であるフェイがおり、アレクシスやエルヴィンも女王を慕っている。兄のジェラルドも自分が王位につけなかったことを僻む様子はなかった。
前王、王妃にも愛され、妖精に祝福された姿はまさにゲームのエンドロールにふさわしい光景だった。
(なんで妹の癖に女王になんてなっているのよ!? それはヒロインの、私の位置でしょう!?)
自分の立ち位置を奪った女。
アリサの中でソフィーリアの存在はそのように定義され、凄まじい怒りは自らの能力を歪にさせた。
(あの女をヒロインの座から引きずり降ろしてやる)
「ええ、そう。それこそが貴女様の歩く正道でございます」
そう肯定したのはアリサの従者として仕えていた美少年だった。ゲーム設定では主にショップ画面にいる謎の商人。エルフ族の出身だそうで耳が尖っており、白銀の髪に、緑の瞳、そしてなかなかの美男子だ。外套は棘と薔薇の刺繍が施されており、野薔薇商会のエンブレムだそうだ。
モブではあるが彼の名はルーカスという。
「他国の助力を借りるのはいかがでしょうか。スペード夜王国なら王族。クローバー魔法国なら『聖教会』の枢機卿など」
「それでどうするのよ?」
「ソフィーリア様を女王から引きずり下ろし、そして貴女様がダイヤ王国の次期女王となられるのです」
それはアリサが求めていた展開、望みだ。
ルーカスはこの歪なゲーム設定の世界を補正するナビゲーターなのだと、彼女は解釈した。
「そうよ。その通りだわ」
ルーカルの後押しもあり、アリサの方針は固まっていった。
ゲームシナリオの展開では、ダイヤ王国の女王は十八歳で即位した瞬間、『古の魔女』に体を乗っ取られて暴走する。アリサはそうなるように表は聖女として、裏では戦争を引き起こすようルーカスに指示を出した。
途中までは完璧だった。
いくつものクエストをクリアして、フラグ回収もした。
しかし十二回目のプレイにおいても、アリサの目論みは失敗に終わる。
この世界ではない日本から流れ着いた転移者であり、ハート皇国では《聖女》と呼ばれる存在である。転移した時に彼女の髪は黒髪からピンク色に変わり、年齢は十七歳へと若返っていた。
(やったー! これって異世界転移ってやつよね!?)
アリサはこの世界をゲームの世界だと信じ切っていた。なぜならこの世界が日本でプレイしていた乙女ゲーム『聖女恋戦記~妖精国と花咲く恋~』にそっくりの世界だったからだ。
ゲーム本来ならダイヤ王国の女王は『古の魔女』に魅入られてしまい、魔女の器となって世界を滅ぼそうとする。それを阻止するためハート皇国アレクシス皇太子、スペード夜王国フェイ王子、クローバー魔法国の天才魔導士エルヴィン、ダイヤ王国宰相のジェラルド王子たちと協力し合って数々の問題を解決し、『古の魔女』の力が弱まったのを見て退治するのが一連の流れだ。
(このゲームなら何度もやり込んだもの。やるんなら全キャラ溺愛ルートで、最終的にダイヤ王国の女王として君臨するのがいいわ。エンドロールの後、夫となる王子や皇太子たちが身分を捨てて私に求愛するし、誰からも愛されて祝福と共に幸せになる。あー今から楽しみ!)
全キャラ溺愛ルートは最高難易度。
その上、隠れキャラの妖精王オーレ・ルゲイエを攻略するのには、二週目でなければ出てこない。この世界に二週目というのがあるのか不明だが、原作を知っているアリサにとってイージーモードと思っていた。
しかしゲームを進めていくと、ゲームのシナリオと現実に大きな差異があることに気づく。というのもラスボスとなるダイヤ王国の女王が『古の魔女』に乗っ取られてないのだ。その上ダイヤ王国を攻めようとする考えに、攻略キャラクター全員が反対した。
「なんでよ! ダイヤ王国は資源の山でしょう!? なんで略奪や侵略しないのよ!」
「お前が優れた聖女なのは認めるが、あの国は妖精王が加護する国だぞ。下手に戦争しても我々が勝てるはずがない」
アリサを聖女として敬うアレクシスでさえ、最初は否定的だったのだ。
むしろそれを提案したアリサは異端者扱いをされてしまう。
(なんでよ、なんでソフィーリアが悪役じゃないの!?)
ゲーム設定ではダイヤ王国は『古の魔女』の呪いで国中が茨に囲まれて、国民もみな呪いで眠りについているはずだった。だがそういった展開なく国民もソフィーリアの事を慕っていた。ソフィーリアが悪役らしい非道など行っていないのだ。
善良で、妖精たちからも愛される存在。さらにアリサがタイプだったシン・フェイはソフィーリアの婚約者だというのだから、苛立ちでどうにかなりそうだった。
実際にソフィーリアと対面してアリサはその姿に驚いた。ゲームでは『古の魔女』に乗っ取られ、禍々しい姿だったのだが、遠目ではあるが彼女は金色の髪に、白い肌、美しくも愛らしい女神のような美女で誰からも愛されていた。
(なんなのよ! なんなのよぉおお!)
ソフィーリアを見てアリサの胸に宿ったのは、嫉妬の嵐だった。彼女の傍には婚約者であるフェイがおり、アレクシスやエルヴィンも女王を慕っている。兄のジェラルドも自分が王位につけなかったことを僻む様子はなかった。
前王、王妃にも愛され、妖精に祝福された姿はまさにゲームのエンドロールにふさわしい光景だった。
(なんで妹の癖に女王になんてなっているのよ!? それはヒロインの、私の位置でしょう!?)
自分の立ち位置を奪った女。
アリサの中でソフィーリアの存在はそのように定義され、凄まじい怒りは自らの能力を歪にさせた。
(あの女をヒロインの座から引きずり降ろしてやる)
「ええ、そう。それこそが貴女様の歩く正道でございます」
そう肯定したのはアリサの従者として仕えていた美少年だった。ゲーム設定では主にショップ画面にいる謎の商人。エルフ族の出身だそうで耳が尖っており、白銀の髪に、緑の瞳、そしてなかなかの美男子だ。外套は棘と薔薇の刺繍が施されており、野薔薇商会のエンブレムだそうだ。
モブではあるが彼の名はルーカスという。
「他国の助力を借りるのはいかがでしょうか。スペード夜王国なら王族。クローバー魔法国なら『聖教会』の枢機卿など」
「それでどうするのよ?」
「ソフィーリア様を女王から引きずり下ろし、そして貴女様がダイヤ王国の次期女王となられるのです」
それはアリサが求めていた展開、望みだ。
ルーカスはこの歪なゲーム設定の世界を補正するナビゲーターなのだと、彼女は解釈した。
「そうよ。その通りだわ」
ルーカルの後押しもあり、アリサの方針は固まっていった。
ゲームシナリオの展開では、ダイヤ王国の女王は十八歳で即位した瞬間、『古の魔女』に体を乗っ取られて暴走する。アリサはそうなるように表は聖女として、裏では戦争を引き起こすようルーカスに指示を出した。
途中までは完璧だった。
いくつものクエストをクリアして、フラグ回収もした。
しかし十二回目のプレイにおいても、アリサの目論みは失敗に終わる。
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