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第3幕
第42話 第十王子シン・フェイの視点6
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それからはやる事が一気に増えたものの、一つ目の問題だった《クドラク病》に関しては解決の糸口が早々に見つかった。これはソフィの助言が大きいだろう。
本当にソフィは聡明で、なんて愛らしいのだろう。
祖国の立ち位置としては、礼部の特命全権大使となり外交任官として、政治的な発言を少しずつ増やしていった。楊明もよく働いてくれている。
その結果、必然的にダイヤ王国の宰相であるジェラルドと、会議を設けることが多くなった。
「……ソフィに会いたい。ソフィをギュッと抱きしめたい」
「妹のことを好いてくれるのは嬉しいですが、私だってソフィに会いたいんですから! ちょっとは我慢してくださいよね!?」
ジェラルドは私に懐疑的なところもあったが、ソフィの素晴らしさと数学の可能性を語ったら、あっさりと信用してくれた。もし彼がスペード夜王国に生まれていたら、搾取されて早死にするタイプだろう。
我が祖国は弱みを見せる人間と、お人好しは早々に死ぬ。そう考えると彼が生まれたのが、祖国でなくて本当に良かった。
「恋敵がこれ以上増えるのは困るが、彼女の兄なら親しくなっておくに限る」
「君のそういう打算的なところ嫌いじゃない。数学の良さもわかるのだから見所はあるしな。さて、無能でソフィに実害を出しそうな他国の人間をリストアップしてみるか」
訂正、この男は強かで狡猾で有能な宰相になるだろう。
味方でいて良かった。
***
一五〇四年十二月。
五年があっという間に過ぎ、実績が形となって返ってきた。
《クドラク病》を抑制するために開発した薔薇と七種類のブレンド茶は、王族貴族にとって必需品となり、一気にダイヤ王国との流通経路と特許権の独占を伯家で執り行う事が出来た。幸いにも蘭家を出し抜けたのは大きい。
(それにしても、ダイヤ王国……。本当に国家としてよく成り立っていたな。吏部、戸部、刑部がない上に、礼部の外交と工部が殆ど王族で、兵部と刑部は妖精たちが担っているとか……。物資が豊だからなのと、妖精に認められた者しか定住出来ないのが前提だからだろうか)
この国で労働は名誉職みたいなもので、国民の殆どは趣味を生き甲斐にしているらしい。しかしその趣味というのが馬鹿に出来ない。
なにせ薔薇の品種改良や、様々な薬学の知識を独学で研究するという天才肌ばかりなのだ。貴重な人材がいることは確かで、ソフィもそれに気づいているからこそダイヤ王国中の戸籍等を見直しているそうだ。
そのせいで私との会う機会が毎日から三日に一度、さらに一週間に一度と減っているのでかなり寂しい。というか心が折れそうだ。
(いっそのこと何か口実を付けて会いに行くのはどうだろうか。……うん、そうしよう)
「殿下、茶葉の新しい開発で相談があると報告が入っています」
部屋に訪れた楊明に、私はふと前からあった疑問を尋ねてみたくなった。
「なあ、楊明。今更だが四年前の婚約パーティーに蘭家の令嬢を紛れ込ませたのは、お前じゃないよな?」
「ええ、もちろんです」
言葉の淀みも、動揺もなく微笑んだ。
あまりにも完璧な回答は肯定とも取れる物言いだった。
「ならいい。一応忠告するけれど、私のためだと言ってソフィに害するなら、身内でも容赦なく斬り捨てるぞ」
「そのぐらい気概なければ困ります。それに私個人の目的もあるのは事実ですので、大いに伯家と私を利用してくださいませ。でなければ、あの国をどうにかなどできる筈もないですから」
権力を握るということは、生半可な覚悟ではできない。
姦計を用いて相手を貶めることもあるだろうし、切り捨てることも必要に迫られるだろう。進む道は真昼とは真逆の血塗られた道だ。
それでも──。
(ソフィが笑ってくれるのなら、私はどこまでも冷酷になるだろう)
互いに足の引っ張り合いしかしない王子たちの中で、未来を任せられる人物か調べている途中で、ある人物の名を見つけた。
(ああ。この女はソフィが気づく前に、なんとかしなければな)
本当にソフィは聡明で、なんて愛らしいのだろう。
祖国の立ち位置としては、礼部の特命全権大使となり外交任官として、政治的な発言を少しずつ増やしていった。楊明もよく働いてくれている。
その結果、必然的にダイヤ王国の宰相であるジェラルドと、会議を設けることが多くなった。
「……ソフィに会いたい。ソフィをギュッと抱きしめたい」
「妹のことを好いてくれるのは嬉しいですが、私だってソフィに会いたいんですから! ちょっとは我慢してくださいよね!?」
ジェラルドは私に懐疑的なところもあったが、ソフィの素晴らしさと数学の可能性を語ったら、あっさりと信用してくれた。もし彼がスペード夜王国に生まれていたら、搾取されて早死にするタイプだろう。
我が祖国は弱みを見せる人間と、お人好しは早々に死ぬ。そう考えると彼が生まれたのが、祖国でなくて本当に良かった。
「恋敵がこれ以上増えるのは困るが、彼女の兄なら親しくなっておくに限る」
「君のそういう打算的なところ嫌いじゃない。数学の良さもわかるのだから見所はあるしな。さて、無能でソフィに実害を出しそうな他国の人間をリストアップしてみるか」
訂正、この男は強かで狡猾で有能な宰相になるだろう。
味方でいて良かった。
***
一五〇四年十二月。
五年があっという間に過ぎ、実績が形となって返ってきた。
《クドラク病》を抑制するために開発した薔薇と七種類のブレンド茶は、王族貴族にとって必需品となり、一気にダイヤ王国との流通経路と特許権の独占を伯家で執り行う事が出来た。幸いにも蘭家を出し抜けたのは大きい。
(それにしても、ダイヤ王国……。本当に国家としてよく成り立っていたな。吏部、戸部、刑部がない上に、礼部の外交と工部が殆ど王族で、兵部と刑部は妖精たちが担っているとか……。物資が豊だからなのと、妖精に認められた者しか定住出来ないのが前提だからだろうか)
この国で労働は名誉職みたいなもので、国民の殆どは趣味を生き甲斐にしているらしい。しかしその趣味というのが馬鹿に出来ない。
なにせ薔薇の品種改良や、様々な薬学の知識を独学で研究するという天才肌ばかりなのだ。貴重な人材がいることは確かで、ソフィもそれに気づいているからこそダイヤ王国中の戸籍等を見直しているそうだ。
そのせいで私との会う機会が毎日から三日に一度、さらに一週間に一度と減っているのでかなり寂しい。というか心が折れそうだ。
(いっそのこと何か口実を付けて会いに行くのはどうだろうか。……うん、そうしよう)
「殿下、茶葉の新しい開発で相談があると報告が入っています」
部屋に訪れた楊明に、私はふと前からあった疑問を尋ねてみたくなった。
「なあ、楊明。今更だが四年前の婚約パーティーに蘭家の令嬢を紛れ込ませたのは、お前じゃないよな?」
「ええ、もちろんです」
言葉の淀みも、動揺もなく微笑んだ。
あまりにも完璧な回答は肯定とも取れる物言いだった。
「ならいい。一応忠告するけれど、私のためだと言ってソフィに害するなら、身内でも容赦なく斬り捨てるぞ」
「そのぐらい気概なければ困ります。それに私個人の目的もあるのは事実ですので、大いに伯家と私を利用してくださいませ。でなければ、あの国をどうにかなどできる筈もないですから」
権力を握るということは、生半可な覚悟ではできない。
姦計を用いて相手を貶めることもあるだろうし、切り捨てることも必要に迫られるだろう。進む道は真昼とは真逆の血塗られた道だ。
それでも──。
(ソフィが笑ってくれるのなら、私はどこまでも冷酷になるだろう)
互いに足の引っ張り合いしかしない王子たちの中で、未来を任せられる人物か調べている途中で、ある人物の名を見つけた。
(ああ。この女はソフィが気づく前に、なんとかしなければな)
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