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参 二人きりの朝を迎えて
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「牛乳もある」
「あ、ありがとう…」
冷たい牛乳瓶を受け取りながら、ルーナは恥ずかしそうに目を逸らす。すると、ラスが手を伸ばしてきて親指で彼女の口元を拭った。どうやら、パン屑が付いていたみたいだ。
「帰るか」
『残りは家でゆっくり食べよう』
口元を拭われてポカンとした顔をするルーナを見つめながらラスは解けるように笑って、そして帰路に着くため背中を見せた。
ラスの笑顔を見たのは、ルーナだけじゃなかった。周りにいた者たちもその笑顔を目の当たりにし、驚いた顔で固まっていた。
だって、あの冷淡で感情の起伏を見せずいつも無表情なラスが…それも女嫌いで有名な彼が…ルーナに笑いかけるなんて、と。
ルーナは注目される中、ラスの背中を追いかける。
「…ラスさんは、平気なの?」
彼の隣に並び、ルーナは何故ラスがこんなにも普段通りなのか分からず、つい尋ねてしまった。
「何が?」
「私達、噂されてるよ…」
すると、ラスが突然足を止めてルーナを見た。彼女もつい、足を止めて彼を見上げる。
「噂? そんなもの、好きに言わせておけばいい」
ラスはグッと眉間を寄せて、不機嫌そうな表情でルーナを見つめている。その表情は冷たく、ルーナがこれまで見慣れてきた『女嫌いの聖騎士様』と噂される彼の姿だ。
「所詮、俺たちと関係のない奴らだ。そんな奴らの為に、どうして俺たちが下を向いて歩かなくちゃならない?」
「…た、たしかに…?」
ラスの言葉にルーナも複雑そうな顔で頷く。すると、ラスの眉間から力が抜けて、彼は小さく口端を上げた。
『それに、噂されるのも面白そうだ』
ルーナはすぐに「面白そうって…」と、反論しようと言葉を口にしたが、ラスがさっさと歩き始めたので彼女の言葉は最後まで続かなかった。
自分ばかりが周りの目を気にしていて、何だか馬鹿らしく思えてきた。
(何なの、もう…調子狂うっ…!)
心を読んでいるのは自分のはずなのに…ルーナは何故か自分がラスの手のひらの上で転がされているような気分になり、顔を顰めてしまう。
数歩先を歩いていたラスは、ルーナが付いて来ていない事に気付き、足を止めると後ろを振り返り言った。
「何してる、早く来い。呪いで死にたいのか?」
その顔はとても冷たく、まるでこちらを嫌悪しているように険しい顔つきだ。
でも、心の声は…。
『どうして来ないんだ? もしかして、足でも挫いたのか? それなら俺がルーナを抱いて帰宅してもいいが…』
と、ルーナの身を案じ、心配すらしている。ルーナは何度見ても、あのラスが心の中でこんな事を考える人だなんて信じられない気持ちだった。
もちろん、確かに読心の呪いは発動しているので、頭では彼の心の声だと理解しているが…あまりにも、ルーナが知るラスのイメージと彼の本心がかけ離れているから、戸惑ってしまう。
「…本当に、調子狂うな…」
ルーナは誰にも聞こえない小さな声でポツリと呟くと、仕方なくラスの後を追った。
ラスにこんな二面性があるなんて知らなかった。
彼は、クールで、冷たくて、口数も少なくて、女嫌いで、それでいて潔癖で…禁欲的な男だと誰もが思っている。
でも本当の彼は、案外熱烈で、相手を気遣って、心の中ではたくさん喋るし、女嫌いなんかじゃなく、油断するとえっちな事を考えているむっつりだ。
そして…。
(分かりづらいけれど、優しい…)
表面的な優しさではなく、心根が優しい人だった。
ルーナはこれまで、魔女薬とお金稼ぎにしか興味がなかった。ラスを始めとしたどの男たちも、これまでちっとも気にした事なんて無かったのに…。
どうしてラスの事を考えると、ルーナの心は騒つくのだろう。
(…きっと、ラスさんが…昨日私をえっちな目で見ていることを知っちゃったから…驚いて、こんな変な気分になるんだ)
だから、自分がはじめて男の人のことを…ラスの事をもう少し知りたいと思っているなんて、気のせいだ。ルーナはきっとそうだと心の中で頷いて、追いついたラスの隣に並んだ。
(たった15日だけの我慢…それが過ぎれば、私達はまた元の関係に戻るだけ)
店主と客、ただそれだけの関係性に。
ルーナは隣のラスを見上げながら、これからの15日間をラスに振り回されることなく、穏やかに過ごせるように努力しようと決意した。
すると、ラスのブルーグレーの瞳もルーナを見つめ返す。
『どうしてルーナはこんな真剣な表情で俺のことを見つめているんだ? まさか、パンひとつじゃ足りないというアピール…?』
「ちがうよ!」
腹ペコキャラにされては堪らないと、ルーナが真っ赤な顔で突然叫んだので、周りの通行人達は驚いた様子で彼女を見つめた。
そんな中、ラスだけは可笑しそうに笑ったのだった。
—参 二人きりの朝を迎えて・終—
「あ、ありがとう…」
冷たい牛乳瓶を受け取りながら、ルーナは恥ずかしそうに目を逸らす。すると、ラスが手を伸ばしてきて親指で彼女の口元を拭った。どうやら、パン屑が付いていたみたいだ。
「帰るか」
『残りは家でゆっくり食べよう』
口元を拭われてポカンとした顔をするルーナを見つめながらラスは解けるように笑って、そして帰路に着くため背中を見せた。
ラスの笑顔を見たのは、ルーナだけじゃなかった。周りにいた者たちもその笑顔を目の当たりにし、驚いた顔で固まっていた。
だって、あの冷淡で感情の起伏を見せずいつも無表情なラスが…それも女嫌いで有名な彼が…ルーナに笑いかけるなんて、と。
ルーナは注目される中、ラスの背中を追いかける。
「…ラスさんは、平気なの?」
彼の隣に並び、ルーナは何故ラスがこんなにも普段通りなのか分からず、つい尋ねてしまった。
「何が?」
「私達、噂されてるよ…」
すると、ラスが突然足を止めてルーナを見た。彼女もつい、足を止めて彼を見上げる。
「噂? そんなもの、好きに言わせておけばいい」
ラスはグッと眉間を寄せて、不機嫌そうな表情でルーナを見つめている。その表情は冷たく、ルーナがこれまで見慣れてきた『女嫌いの聖騎士様』と噂される彼の姿だ。
「所詮、俺たちと関係のない奴らだ。そんな奴らの為に、どうして俺たちが下を向いて歩かなくちゃならない?」
「…た、たしかに…?」
ラスの言葉にルーナも複雑そうな顔で頷く。すると、ラスの眉間から力が抜けて、彼は小さく口端を上げた。
『それに、噂されるのも面白そうだ』
ルーナはすぐに「面白そうって…」と、反論しようと言葉を口にしたが、ラスがさっさと歩き始めたので彼女の言葉は最後まで続かなかった。
自分ばかりが周りの目を気にしていて、何だか馬鹿らしく思えてきた。
(何なの、もう…調子狂うっ…!)
心を読んでいるのは自分のはずなのに…ルーナは何故か自分がラスの手のひらの上で転がされているような気分になり、顔を顰めてしまう。
数歩先を歩いていたラスは、ルーナが付いて来ていない事に気付き、足を止めると後ろを振り返り言った。
「何してる、早く来い。呪いで死にたいのか?」
その顔はとても冷たく、まるでこちらを嫌悪しているように険しい顔つきだ。
でも、心の声は…。
『どうして来ないんだ? もしかして、足でも挫いたのか? それなら俺がルーナを抱いて帰宅してもいいが…』
と、ルーナの身を案じ、心配すらしている。ルーナは何度見ても、あのラスが心の中でこんな事を考える人だなんて信じられない気持ちだった。
もちろん、確かに読心の呪いは発動しているので、頭では彼の心の声だと理解しているが…あまりにも、ルーナが知るラスのイメージと彼の本心がかけ離れているから、戸惑ってしまう。
「…本当に、調子狂うな…」
ルーナは誰にも聞こえない小さな声でポツリと呟くと、仕方なくラスの後を追った。
ラスにこんな二面性があるなんて知らなかった。
彼は、クールで、冷たくて、口数も少なくて、女嫌いで、それでいて潔癖で…禁欲的な男だと誰もが思っている。
でも本当の彼は、案外熱烈で、相手を気遣って、心の中ではたくさん喋るし、女嫌いなんかじゃなく、油断するとえっちな事を考えているむっつりだ。
そして…。
(分かりづらいけれど、優しい…)
表面的な優しさではなく、心根が優しい人だった。
ルーナはこれまで、魔女薬とお金稼ぎにしか興味がなかった。ラスを始めとしたどの男たちも、これまでちっとも気にした事なんて無かったのに…。
どうしてラスの事を考えると、ルーナの心は騒つくのだろう。
(…きっと、ラスさんが…昨日私をえっちな目で見ていることを知っちゃったから…驚いて、こんな変な気分になるんだ)
だから、自分がはじめて男の人のことを…ラスの事をもう少し知りたいと思っているなんて、気のせいだ。ルーナはきっとそうだと心の中で頷いて、追いついたラスの隣に並んだ。
(たった15日だけの我慢…それが過ぎれば、私達はまた元の関係に戻るだけ)
店主と客、ただそれだけの関係性に。
ルーナは隣のラスを見上げながら、これからの15日間をラスに振り回されることなく、穏やかに過ごせるように努力しようと決意した。
すると、ラスのブルーグレーの瞳もルーナを見つめ返す。
『どうしてルーナはこんな真剣な表情で俺のことを見つめているんだ? まさか、パンひとつじゃ足りないというアピール…?』
「ちがうよ!」
腹ペコキャラにされては堪らないと、ルーナが真っ赤な顔で突然叫んだので、周りの通行人達は驚いた様子で彼女を見つめた。
そんな中、ラスだけは可笑しそうに笑ったのだった。
—参 二人きりの朝を迎えて・終—
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