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参 二人きりの朝を迎えて
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◆
二人が再び外を出歩く頃には、街には見慣れた活気の光景が広がり多くの人たちが道を歩いていた。
来た時よりも帰る時の方がずっと多くの好奇な目に晒される二人。きっと、女嫌いと有名なラスが女性と肩を並べて歩く光景が珍しいからなのだろう。
これまで、異性と噂されるなんて無縁の生活を送っていたルーナは今の状況に慣れず、そわそわとした居心地の悪さを感じてしまうのだが、ラスは堂々と顔を上げて、前を見据えて颯爽と歩いていた。
「……なんだ?」
隣からルーナの視線をひしひしと感じて、さすがのラスも無視は出来ずに彼女を振り返る。そして、ルーナの複雑そうな表情を見て、彼は確信した。
『…そうか。起きてまだ何も食べてないから、ルーナは腹が減ってしまったんだな』
(違うし!)
的外れな事を考えるラスに、ルーナは思わず心の中でツッコミを入れた。
ラスは足を止めて少し考える素振りを見せてから、ルーナの家に続く道とは別の路地に歩みを進めた。
「ラスさん? どこ行くの?」
急に進行方向を変更する彼にルーナが不思議そうな顔で問いかけると、ラスは彼女に一瞥だけを向けて、そのまま歩いて行ってしまう。まるで、『ついて来い』とでも言うように。
『美味い飯が食える店に連れて行ってやる』
ラスの目的が分かったルーナは、小走りで彼に追い付き再び並び立つと「私、お腹空いてないよ」と、言った。
「私は普段から一日一食くらいしか食べないし…朝ごはんを食べないの」
続けてそう言うと、ラスは意外そうな表情でルーナを見下ろした。
「…黙ってついて来い」
『一日一食? そんなの不摂生だ。ちゃんと三食食事しないと健康に悪い』
ぶっきらぼうな物言いの奥には、そんな気遣いと心配があった。
ラスは少し険しい表情をしていて、ルーナは彼が自分の心配をしていると分かりそれ以上何も言えず、大人しくラスの後を付いて行った。
連れられた先は、飲食店が建ち並ぶ通りだった。
朝だというのに、その通りは賑わいを見せていて、冒険者らしき人達が楽しそうに食事をしている。皆、朝食を取っているのだろう。
ルーナが珍しそうにキョロキョロと周りを見渡していた。ルーナはこの街に来て数ヶ月だが、普段の彼女はいつも自分の店に篭っていて、外出する時はギルドへ依頼に行くか魔法薬の材料を買いに行くくらい。
あまり食事に関心のないルーナは、これまで外食をした事がなかった。それに、わざわざ外に出て一緒に食事をしたいと思う相手もいなかったし…。
『普段食べないなら、軽食の方がいいだろうな…』
ラスの心の声にルーナは顔を上げる。すると、ラスは素っ気ない表情でとあるパン屋を指差した。
「あの店に行くぞ」
『あそこのパン屋は焼きたてが美味いうえ、テイクアウトも出来るんだ』
ラスとルーナは店に入る。すると、すぐに焼きたての、パンの香ばしい匂いがルーナの鼻を掠めた。
(美味しそうな匂い…)
ルーナが店に並ぶパンを眺めている間に、ラスがいくつかのパンを買って店を出た。ルーナも慌てて彼を追いかけて店を出る。
「ラスさん!」
ルーナが焦った表情でラスの名前を呼び店を飛び出すと、彼は店の出入り口のすぐ前に立っていてルーナの方へ振り返った。
そして、腕に抱えた紙袋の中から、先ほど買ったばかりのパンを手に持ち、突然ルーナの口を塞ぐようにパンを押し当ててきたのだ。
甘く香ばしい匂い、唇に触れる柔らかな感触、そして口の中に広がる小麦粉とバターの甘さ。ルーナは驚いた表情で思わず言った。
「……美味しい!」
すると、ラスは小さくふっと笑う。
「バタースコッチブレッドだ」
『何となく、ルーナが好きそうだと思って』
硬い小麦パンしか知らないルーナは、バターを織り込んだパンがこんなにも柔らかくて甘いなんて知らなかった。ラスから受け取り、ルーナは夢中でそのパンを食べた。
そんな彼女を見つめていたラスの目は細くなり、その瞳の奥には温かく優しい光が宿っている。
パンの半分ほどを食べたところでルーナはハッと我に返り、前に立つラスを見上げた。
「ちゃんと最後まで食え」
ラスの言葉はやっぱり素っ気ないけれど、でも、彼の心遣いはしっかりルーナに伝わっている。
『これからは、俺がルーナの朝飯を用意してやらないとな』
なんて、ルーナとラスの同居は呪いが解けるまでのたった15日間だけの話なのに、彼の『これから』は一体いつまでの事を指しているのだろう?
ルーナは疑問に思ったが、でも何も言わずに黙ってパンを口に運んだ。
そして、ふと思うのだ。
(誰かと食べる朝食って、意外といいものかも…)
だって、こんなにも心が温かくなるんだもの。
でもルーナはまだ知らない。『誰かと』食べるご飯よりも、『誰と』食べるご飯の方が大事だという事を。
これまで人との関わり合いに関心が薄かった彼女が、この違いに気付くのはまだ先の事だろう…。
二人が再び外を出歩く頃には、街には見慣れた活気の光景が広がり多くの人たちが道を歩いていた。
来た時よりも帰る時の方がずっと多くの好奇な目に晒される二人。きっと、女嫌いと有名なラスが女性と肩を並べて歩く光景が珍しいからなのだろう。
これまで、異性と噂されるなんて無縁の生活を送っていたルーナは今の状況に慣れず、そわそわとした居心地の悪さを感じてしまうのだが、ラスは堂々と顔を上げて、前を見据えて颯爽と歩いていた。
「……なんだ?」
隣からルーナの視線をひしひしと感じて、さすがのラスも無視は出来ずに彼女を振り返る。そして、ルーナの複雑そうな表情を見て、彼は確信した。
『…そうか。起きてまだ何も食べてないから、ルーナは腹が減ってしまったんだな』
(違うし!)
的外れな事を考えるラスに、ルーナは思わず心の中でツッコミを入れた。
ラスは足を止めて少し考える素振りを見せてから、ルーナの家に続く道とは別の路地に歩みを進めた。
「ラスさん? どこ行くの?」
急に進行方向を変更する彼にルーナが不思議そうな顔で問いかけると、ラスは彼女に一瞥だけを向けて、そのまま歩いて行ってしまう。まるで、『ついて来い』とでも言うように。
『美味い飯が食える店に連れて行ってやる』
ラスの目的が分かったルーナは、小走りで彼に追い付き再び並び立つと「私、お腹空いてないよ」と、言った。
「私は普段から一日一食くらいしか食べないし…朝ごはんを食べないの」
続けてそう言うと、ラスは意外そうな表情でルーナを見下ろした。
「…黙ってついて来い」
『一日一食? そんなの不摂生だ。ちゃんと三食食事しないと健康に悪い』
ぶっきらぼうな物言いの奥には、そんな気遣いと心配があった。
ラスは少し険しい表情をしていて、ルーナは彼が自分の心配をしていると分かりそれ以上何も言えず、大人しくラスの後を付いて行った。
連れられた先は、飲食店が建ち並ぶ通りだった。
朝だというのに、その通りは賑わいを見せていて、冒険者らしき人達が楽しそうに食事をしている。皆、朝食を取っているのだろう。
ルーナが珍しそうにキョロキョロと周りを見渡していた。ルーナはこの街に来て数ヶ月だが、普段の彼女はいつも自分の店に篭っていて、外出する時はギルドへ依頼に行くか魔法薬の材料を買いに行くくらい。
あまり食事に関心のないルーナは、これまで外食をした事がなかった。それに、わざわざ外に出て一緒に食事をしたいと思う相手もいなかったし…。
『普段食べないなら、軽食の方がいいだろうな…』
ラスの心の声にルーナは顔を上げる。すると、ラスは素っ気ない表情でとあるパン屋を指差した。
「あの店に行くぞ」
『あそこのパン屋は焼きたてが美味いうえ、テイクアウトも出来るんだ』
ラスとルーナは店に入る。すると、すぐに焼きたての、パンの香ばしい匂いがルーナの鼻を掠めた。
(美味しそうな匂い…)
ルーナが店に並ぶパンを眺めている間に、ラスがいくつかのパンを買って店を出た。ルーナも慌てて彼を追いかけて店を出る。
「ラスさん!」
ルーナが焦った表情でラスの名前を呼び店を飛び出すと、彼は店の出入り口のすぐ前に立っていてルーナの方へ振り返った。
そして、腕に抱えた紙袋の中から、先ほど買ったばかりのパンを手に持ち、突然ルーナの口を塞ぐようにパンを押し当ててきたのだ。
甘く香ばしい匂い、唇に触れる柔らかな感触、そして口の中に広がる小麦粉とバターの甘さ。ルーナは驚いた表情で思わず言った。
「……美味しい!」
すると、ラスは小さくふっと笑う。
「バタースコッチブレッドだ」
『何となく、ルーナが好きそうだと思って』
硬い小麦パンしか知らないルーナは、バターを織り込んだパンがこんなにも柔らかくて甘いなんて知らなかった。ラスから受け取り、ルーナは夢中でそのパンを食べた。
そんな彼女を見つめていたラスの目は細くなり、その瞳の奥には温かく優しい光が宿っている。
パンの半分ほどを食べたところでルーナはハッと我に返り、前に立つラスを見上げた。
「ちゃんと最後まで食え」
ラスの言葉はやっぱり素っ気ないけれど、でも、彼の心遣いはしっかりルーナに伝わっている。
『これからは、俺がルーナの朝飯を用意してやらないとな』
なんて、ルーナとラスの同居は呪いが解けるまでのたった15日間だけの話なのに、彼の『これから』は一体いつまでの事を指しているのだろう?
ルーナは疑問に思ったが、でも何も言わずに黙ってパンを口に運んだ。
そして、ふと思うのだ。
(誰かと食べる朝食って、意外といいものかも…)
だって、こんなにも心が温かくなるんだもの。
でもルーナはまだ知らない。『誰かと』食べるご飯よりも、『誰と』食べるご飯の方が大事だという事を。
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