魔女と聖騎士 〜女嫌いで有名な聖騎士に呪いをかけたら、むっつりスケベな本性を暴いてしまった〜

香咲りら

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伍 月の魔女の呪い【ラスside】

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 そして、ある日。ラスの人生が変わる運命の日が訪れた。

「——ごめんなさい。今日は満月だから、今開発中の新しい魔法薬に必要な材料を集めておきたいの」

 アークの誘いを、ルーナはそう言って当たり前に断っていた。

 店の奥へと消えていくルーナを見つめながらアークは落ち込み、結果的にリジェルと数人の女性冒険者達と食事に行く事にしたようだ。

 ラスも誘われたが考える間もなく断った。皆は、ラスが女嫌いだから断ると考えているが、今も昔も女嫌いなわけではない。

 ルーナと出会う前は、女性達にただ興味がなく……ルーナと出会った後は、彼女に不誠実な行動を取りたくないだけだ。

 ラスはチラリとアークを見つめる。

(……アークはどうして、軽薄そうな振りをするのだろうか?)

 ラスが自身のルーナへの恋心を自覚してみたら、アークもまた彼女へ本気で恋心を抱いていることを、同じ人を好きになった男として感じ取っていた。

 アークのルーナへの誘いはいつも軟派な様子で、そして断られたとしてもあまり気にしていない風を装っている。

 ラスはずっと、これまで何人もの女性と恋愛してきたアークの事を『恋愛に手慣れた男』だと思っていた。

 現にアークは女性から人気もあるし、それに彼も女性から誘われてその人を気に入れば誘いに乗る。痴情の縺れを引き起こすような愚かな男ではないが、程良く遊び方を知っている……そんな男だ。

 しかし、ラスはアークについて認識を改めていた。

(本気で誘って断られたら傷付くから……アークはルーナに本気の姿を見せられないんだ)

 そう、アークもまたラスと同じで恋愛に不器用な男だったのだ。

 ただ、二人が違うところは……

(俺はお前と違って、余計な事はせずにルーナと近付けるチャンスだけを窺うよ)

 まるで餌を狙う捕食者のように。誰にもこの恋心を悟られないよう爪と牙を隠し、彼女の側に立つチャンスを掴んでやる。

 アークを見れば、『余計な事』をして今夜女性達と食事に行くことが決定し、本人はとても不本意そうな表情だ。

 ラスはそんなアークを目を細めて見つめた後、その場を後にした。

(……今夜、ルーナは素材採取のためにギルドへ護衛依頼をする筈だ。悪いな、アーク。今夜のチャンスは俺が掴む)

 夜になりギルドへ向かえば、ラスが思った通りにルーナからの護衛依頼が出た。他の冒険者に見つかる前に、依頼が出た瞬間にラスが受注した。

 こうしてラスは初めて、ルーナと二人きりの時間を獲得したのだ。

 薬草について語るルーナはとても眩しくて輝いていた。好きな事についてだからなのだろうか? 普段も可愛いが、この時は特に可愛い笑顔を浮かべていた気がする。

 ラスは終始ルーナの笑顔に目を奪われて、この幸せな時間を噛み締めていた。

 成り行きで彼女の自宅に荷物を届ける事になり、魔物の死体がゾンビ化するというハプニングも起きたが、ラスは無事にルーナを守り抜いた。

 彼女が作りかけだという、とんでもない強烈な匂いを放つ魔法薬をルーナと二人で頭から被ってしまったが……概ねラスにとっては幸せな時間だった。

(……人間はやはり欲深い生き物だな)

 始めこそラスはただルーナと一緒の時間を過ごせれば満足だったのに、こうしてその目標が達成されると、次は『抱きしめたい』とか、『キスをしたい』とか……彼女と触れ合いたいという欲望が湧いてくる。

 彼女の濡れた姿を見ただけで、ラスの澄んでいたブルーグレーの瞳に情欲の火が灯る。

 自分とルーナが深い関係になる……ラスはそんな頭の中の妄想を止められないでいた。

 そうして、その時は訪れた。

「私たち、呪われちゃったみたい!」
「は……なんだと…?」

 ラスは本当に呪われてしまったのだ。

「呪いの内容は………ラスさんの心の声が、全て私に聞こえる呪いなの!」

 申し訳なさそうに話すルーナを見つめて、ラスの頭は羞恥心と戸惑いで暫く混乱していたが……それでも、彼は彼の中でひとつ結論付けた。

(……感謝致します、主よ)

 これは、神がラスに与えた15日間のチャンスなのだと。

(この呪いの期間で俺は、ルーナとの関係性を少しでも変えてみせる!)

 今の店主と客の関係性ではなく……あわよくば、彼女の唯一無二になりたい。ラスにとってルーナが、そうであるように。

 聖騎士とは、神への信仰により加護を頂く騎士の事である。そんな彼らは呪いにあまり耐性がない。

 そしてラスもまた、そうだった。

(月の魔女の呪い、か。いいだろう……受けて立つ)

 どうせラスの心は全てルーナに読まれるんだ。もうこの恋心を隠す必要なんてない、ありのままの心をさらけ出してやる。

 ラスがどんなにルーナを愛おしく思い、欲望を膨らませながら見つめているか。

 ……自分がどんなに彼女との未来を、望んでいるか。

(ルーナ、絶対に逃がさないからな)

 月の魔女は、聖騎士に呪いをかけたことを覚悟するべきだ。



 —伍 月の魔女の呪い【ラスside】・終—
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