魔女と聖騎士 〜女嫌いで有名な聖騎士に呪いをかけたら、むっつりスケベな本性を暴いてしまった〜

香咲りら

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伍 月の魔女の呪い【ラスside】

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 こうして、回復魔法薬をまるで栄養ドリンク剤のように毎日飲み続けるラスの新たな生活が始まった。

 彼女に会いに行きたいからじゃない。監視するために、店に行く機会が必要だからだ。

 ラスはルーナと付かず離れずの距離で彼女の側におり、誰にも気付かれないように彼女を見つめる毎日を送った。

 ルーナと話す機会も多少はあったが、これ以上『呪い』が強まらないように素っ気ない態度で端的に返した。

 心臓にかけられた呪いを警戒し、可能な限り彼女との接触を避け、注意して行動した。

 それなのに、ラスはルーナを見つめているうちに、どんどん彼女の事ばかりを考えるようになっていってしまった。呪いは酷くなる一方だ。

 そんな日々を数ヶ月も送ったというのに。

 呪いは一向に、解けなかった……


 ◆


「はぁ…ルーナちゃん、全然相手にしてくれねぇ…」

 ルーナの可愛さが街に知れ渡り、街の独身男達がこぞって彼女の店に通い詰める今日この頃。

 ラスはアークとリジェルと共に討伐依頼から戻り、ギルドに報告し終えたところだった。

「まだ諦めてなかったの?」

 悲しそうな表情で項垂れるアークに、リジェルが呆れた様子で笑っていた。

「彼女はあまり……恋愛には興味がなさそうだ」

 そう続くリジェルの言葉に、アークは更に肩を落とす。

 どうやらこの数ヶ月の間で、元々ルーナに興味を抱いていたアークは本気で彼女に好意を寄せているようだった。

 落ち込むアークの姿を、ラスは静かに見つめる。

 これまでアークがルーナを口説いたのは何回あっただろう?

 そのどれもが、ルーナにあしらわれてアークが落ち込む結果となったけれど……

 ラスはそんな過去の出来事を思い出しながら、ホッと安堵している自分に気付いた。

(……俺、どうして安心しているんだ?)

 アークが振られる姿を笑っているのか? いや、絶対に違う。

 ただ、ルーナは自分に対してだけではなく他の男達に対しても同様に興味がない事を知り、ラスは安心してしまっていたのだ。

『ルーナは絶対に誰のものにもならない。』

 数多の男達が彼女の周りを取り巻き口説く光景をこれまで何度も目の当たりにしてきた。

 その度にラスの心は奇妙な揺めきを感じていたが……その事実がどんなにラスの心を穏やかにさせているか。

(…………)

 もうこの時になると、ラスも流石にこれはルーナの呪いではないと理解していた。

 ふと、先日参加した教会の礼拝ミサでクレアに言われた事を思い出す。

『ラス、今日はどうしたの? あまり、祈りに身が入っていないようだったけれど……』

 そう、ラスは神の御前での祈りだというのに、全く集中出来ずに終始ルーナの顔が頭の中にチラついていたのだ。

『なぁに? もしかして、恋に悩むお年頃かしら?』
『そうじゃない』

 あり得ない事を言い出したクレアにラスが鋭い視線を向けると、彼女は揶揄うように笑っていた。

『もし紹介したい子がいたら、遠慮なく連れて来ていいのよ。母として、全く女っ気がない貴方の事をとても心配しているんだから…』

 この時のクレアは、本気でラスが誰かに恋をしているかなんて考えてもおらず、ただそうだったらいいなという願いを込めての発言だった。

 しかし、ラスの心はストンと腑に落ちた。

『……誰が、母だよ』
『あら、じゃあ姉かしら?』

 クレアの軽口を聞き流して、ラスは不機嫌そうに顔を顰めていた。こうしないと、表情を引き締められない気がしたから。

 クレアに揶揄われて、その瞬間ラスはルーナを彼の親愛なる家族クレアに紹介する妄想をしてしまった。

(…………確かに、『呪い』だな…)

 ラスは思わずクスリと笑う。

 やっと分かったんだ。『呪い』の正体に。

 それはどんな呪いよりもタチが悪くて、甘くてほろ苦くて……心を奪われる極上の呪い。

 自覚すると、ギュッと胸の奥が苦しくなる。

 彼はこれまで、どんな女性に対しても心を揺らされた事が無かったから……分からなかったのだ。

(俺はずっと、ルーナの事が好きだったのか……)

 自分がもうずっと前から一人の魔女に心を奪われて、片想いしてるって事に。

 そして、自分の恋心をついに認めたラスは思う。

(……どうすれば、彼女に近付けるのだろう?)

 ラスにはその方法が分からず、何も思い付かないけれど……でも、もしそのチャンスがあるならば、誰よりも早く掴みたいと思ったのだった。
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