悪役令嬢は最強パパで武装する

香咲りら

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第一章 修復の絆編【第三話】

少女と帝国貴族の子どもたち①

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 ルクレツィアは一人で薔薇を見に来ていた。

 ヴィレンが追いかけてきてくれるかと少し期待していたがそんな事はなく…。

(なによ、なによ! 本当に、ヴィレンのばかっ!)

 ルクレツィアは腹立たしい気持ちのまま、ズンズンと薔薇園の奥へと進んでいく。一人では、薔薇を鑑賞する気にもならなかった。

 奥へ進むと、立派な池のある開けた場所へと出た。池の周りには子ども達が集まっている。

 その中心部でエリーチカが得意げな顔で何か説明していた。きっと、薔薇を美しく咲かせる秘訣とかそんな話なのだろうとルクレツィアは予想した。

 自分がエリーチカに嫌われていることは知っているので、ルクレツィアはこの場から立ち去ろうとすぐに背を向けるのだが…。

「あら…ルクレツィア公女様じゃありませんか」

 と、エリーチカは放っておいてくれないらしく、彼女が話しかけてきた。
 子ども達の視線がルクレツィアに向けられる。

 ルクレツィアは逃げてしまいたい気持ちだったけれど、無視するわけにはいかないと引き攣った笑顔を携えて振り返る。

「…あまりに薔薇が綺麗で…気付けばこんな所まで来てしまいました」

 ルクレツィアが社交辞令を言うと、エリーチカは「そうでしょうとも」と、満足げな表情だ。

「それより…あの竜の少年は一緒じゃありませんの?」

 貴女の唯一のお友達でしょう? と、意地悪な笑みを浮かべて尋ねてくるエリーチカにルクレツィアは思わず目を伏せる。

 すると、察しのいいエリーチカはニヤリと笑った。

(この女、あんなに自慢げに一緒に入場してきた竜にも放っておかれているの? 本当に傑作だわ)

 あの竜はディートリヒの所有物なのだと大人たちが話していたのを聞いていたエリーチカは、ルクレツィアとヴィレンが本当はそこまで仲が良くないのだと思った。

(今回クラウベルク公爵が参加したのも、ルクレツィアのためなんかじゃなくただ単に竜の付き添いだからなのでは……そうよね。偉大なる魔術師が魔力なしノーマンに関心を持つはずがないわ…!)

 ルクレツィアが見栄を張ったのだと思い、嘲りの笑みを浮かべる。

 そういうことならば、エリーチカにとってルクレツィアは何も怖くない。ここには、大人の目も届かないし…。

「そうだわ! 皆さんで一緒に薔薇の水やりをしませんか?」

 エリーチカは急に明るい声でそう言うと、取り巻きの少年少女の方を振り向いてぱん、と軽く手を合わせるように叩く。

「薔薇を植えた土が乾いたらこのように…たっぷりとお水をあげるんです!」

 エリーチカはそう言って、魔法で水のシャワーを辺りの花壇に振り撒いた。そこにはルクレツィアもいて、薔薇と一緒にずぶ濡れになるルクレツィア。

「……え…」

 ルクレツィアが驚きのあまり固まって、濡れてしまった自分のドレスを見ていると周りの子ども達はクスクスと笑う。そして、エリーチカを真似てルクレツィアに薔薇の水やりと称して冷たい水を浴びせていったのだ。

(あ…ジェイの…お父様が買ってくれた…ヴィレンとお揃いの…せっかくのドレスが…)

 ルクレツィアは何故自分がこんな目に合わなければならないのか、悔しくて仕方なかった。

 ただ魔法が使えないだけで、ここまで人は尊厳を失うものなのか。自分が一体、エリーチカたちに何の迷惑をかけたというのか…。

「あら、ルクレツィア公女様。大丈夫ですか? そんな所に立っていらっしゃるから、お水がかかってしまったじゃありませんの」

 エリーチカは上辺だけ心配する振りをして、ルクレツィアに話しかけた。

「…なんで、こんなことをするの…?」

 ルクレツィアが俯くと、ポタポタと髪やドレスから滴る水滴とともに涙も地面に落ちていく。

「まぁ! もしかして公女様は、私たちがわざと水を被せたと仰りたいの!?」

 エリーチカはまるで被害者のようなていでわざとらしく悲しそうな表情を浮かべていた。ルクレツィアはそんなエリーチカをキッと睨み付ける。

「…何ですの、その目…濡れたなら、魔法で乾かせばよろしいじゃありませんか」

 エリーチカはルクレツィアを嘲笑った。

「あ…そういえば貴女は、魔力なしノーマンでしたね。失念しておりました、申し訳ありませんわ」
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