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第15話:ウォルトン家のメイド7
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日が落ちて周囲が真っ暗になる頃、私は一週間ぶりにローズレイ家の屋敷に戻り、書斎の椅子に腰を下ろしていた。
執事のフレデリックたちが調べてくれた資料が机の上に置かれているが、それよりも一通の招待状に気を奪われている。
「レオン殿下の誕生日パーティー、本当に招待されたわ。グレースは常識という言葉を知らないのかしら」
以前、グレースの部屋で模様替えをしているときに、レオン殿下が本当に紹介状を送るのか確認していたことがあった。半信半疑だったけれど、こうして招待されたのは、ある意味ではラッキーだと思う。
ウォルトン家に対抗する策を考える時間はあったし、反撃のチャンスでもある。誕生日パーティーは新しくドレスを作成してもらい、バッチリ決める予定なのだけれど……。
「髪の毛、こんなに重かったかしら。切り落とした地毛をウィッグにしてもらったはずなのに、物理的に頭が重くて敵わないわ」
王城で働くメイドのシャルではなく、ローズレイ公爵家のシャルロットとして、書斎に滞在している。今となっては、普通にシャルロットとして過ごすだけでも変装が必要なので、ちょっぴり違和感があった。
ちなみに、アリバイ工作はソフィアにお願いしておいたから、何も問題はない。疲れがたまったシャルは、部屋で寝ていることになっている。
あとは、無事に色男が獲物を誘惑してくるだけで――。
そんなことを考えているのも束の間、部屋の外から物音が聞こえ始めた。楽しそうに男女が話す声が近づいてくると、予定通りノックされることなく部屋の扉が開く。
騎士の服装に身を包んだルイスと、色気に誘われて頬を朱色に染める二人のメイドの姿が映るが……当然、ローズレイ家の屋敷と聞かされていなかったであろうメイドたちは、私の姿を見て固まった。
「思っていた以上に釣れるのが早かったみたいね。こう言うときにイケメン騎士がいると助かるわ」
「冗談はやめてください。いくらソフィアの頼みであったとしても、二度とナンパしませんから」
急に仕事モードになったルイスを見て、ウォルトン家のメイドはグッと下唇を噛んで悔しがり始めたため、状況を理解してくれたことだろう。
「信じられない! 騙したのね!」
「良い人を紹介してくれるって言うから、ここまでついてきたのに!」
今までウォルトン領で働いていた彼女たちにとって、王都は旅先のような開放的な空間みたいな場所になるだろう。それなのに、厳しいロジリーの指導でストレスをため込めば、色男の誘惑に堪えられるはずもなかった。
本来であれば、ローズレイ家の悪い噂を流された私は、彼女たちの身柄を拘束する正当な権利がある。しかし、悪役令嬢の汚名を着せられた者らしく、ハニートラップを使わせてもらっただけだ。
その方が利用価値が大きいんだもの。
「敵の屋敷に入ってきておいて、私の顔を見るまで気づかない方がおかしいのよ。悪いようにはしないから、ソファーに腰をかけてちょうだい」
騎士の顔になったルイスがいるため、この部屋から逃れる術はない。それを彼女たちは理解しているのか、警戒したままソファに座った。
「単刀直入に言うわ。ローズレイ家の名誉を傷つけるために、虚偽の噂を流しているようね。王国との守秘義務違反もあるみたいだけれど、罪深いことをしている自覚はあるのかしら」
「………」
「………」
そっぽを向くメイドたちは、何も話すような様子を見せなかった。
どうやら捕まった場合の対応マニュアルがあるらしい。さっきまで怒っていただけに、とてもわかりやすい女の子たちだ。
「沈黙で誤魔化そうとするなんて、よくある話ね。でも、ロジリーの前でも同じことができるのかしら。素直に話さないのであれば、遠慮なく引き渡すわよ」
ウォルトン家のメイドとはいえ、王城に配属されている以上、ロジリーの管轄にある。本来であれば、守秘義務違反が発覚した段階で拘束し、ロジリーに引き渡して処分されるのだ。
そんな現実を想像すれば、彼女たちが冷や汗を流すのも無理はない。ましてや、王城のメイドとして雇われているので、普通の犯罪よりも罪が重くなる。
「あなたたち、雇用契約書にはしっかり目を通した? 国家機密事項を漏洩する可能性があるため、王城で働く者は守秘義務が発生するの。違反者に関しては……、殺人犯と同じ扱いになる」
「なっ!? 聞いてないわ、そんなこと!」
「そうよ! 大袈裟すぎるもの! 嘘に決まってるわ!」
情報とは、時に命よりも重い。下手な情報が拡散されれば、戦争だって起きることもあるのだから。
それゆえに、ティエール王国の王城で働く人間は、厳しい制約が課せられるのだ。その分、給料は高く、キャリアを積めるメリットもある。
「法の下で裁くローズレイ家が嘘をつくと思う?」
罪を犯した二人にプレッシャーを与え、私は悪役令嬢らしく不敵な笑みを浮かべた。
まあ……正確にいえば、殺人犯と同じ扱いになるケースは少ない。和解金で治める形が一般的であり、余程のことがない限り、数ヵ月ほど給料がカットされる扱いになるだろう。
そんな世の中の仕組みを教えてあげるほど、私は優しくないけれど。ローズレイ家が和解を受け入れない限り、本当に彼女たちは殺人犯扱いになるのだから。
「良いことを教えてあげるわ。この屋敷を跨いだ時点で、あなたたちには二つの選択肢しか残されていないの。一つ目は、罪を償い、ローズレイ家に忠義を誓うこと」
これが私なりの和解案である。
自分がやったことに対して罪の意識を持ち、ローズレイ家の更正施設で働いてもらう。真面目に働けば、数年でまともな家にメイドとして派遣されるだろう。
そして、彼女たちの生きる道はそれしかない。
「二つ目は、ロジリーの尋問を終えた後、ウォルトン家に殺されることよ」
黒い噂が事実なら、ウォルトン家は悪に染まりきっているのだから。
執事のフレデリックたちが調べてくれた資料が机の上に置かれているが、それよりも一通の招待状に気を奪われている。
「レオン殿下の誕生日パーティー、本当に招待されたわ。グレースは常識という言葉を知らないのかしら」
以前、グレースの部屋で模様替えをしているときに、レオン殿下が本当に紹介状を送るのか確認していたことがあった。半信半疑だったけれど、こうして招待されたのは、ある意味ではラッキーだと思う。
ウォルトン家に対抗する策を考える時間はあったし、反撃のチャンスでもある。誕生日パーティーは新しくドレスを作成してもらい、バッチリ決める予定なのだけれど……。
「髪の毛、こんなに重かったかしら。切り落とした地毛をウィッグにしてもらったはずなのに、物理的に頭が重くて敵わないわ」
王城で働くメイドのシャルではなく、ローズレイ公爵家のシャルロットとして、書斎に滞在している。今となっては、普通にシャルロットとして過ごすだけでも変装が必要なので、ちょっぴり違和感があった。
ちなみに、アリバイ工作はソフィアにお願いしておいたから、何も問題はない。疲れがたまったシャルは、部屋で寝ていることになっている。
あとは、無事に色男が獲物を誘惑してくるだけで――。
そんなことを考えているのも束の間、部屋の外から物音が聞こえ始めた。楽しそうに男女が話す声が近づいてくると、予定通りノックされることなく部屋の扉が開く。
騎士の服装に身を包んだルイスと、色気に誘われて頬を朱色に染める二人のメイドの姿が映るが……当然、ローズレイ家の屋敷と聞かされていなかったであろうメイドたちは、私の姿を見て固まった。
「思っていた以上に釣れるのが早かったみたいね。こう言うときにイケメン騎士がいると助かるわ」
「冗談はやめてください。いくらソフィアの頼みであったとしても、二度とナンパしませんから」
急に仕事モードになったルイスを見て、ウォルトン家のメイドはグッと下唇を噛んで悔しがり始めたため、状況を理解してくれたことだろう。
「信じられない! 騙したのね!」
「良い人を紹介してくれるって言うから、ここまでついてきたのに!」
今までウォルトン領で働いていた彼女たちにとって、王都は旅先のような開放的な空間みたいな場所になるだろう。それなのに、厳しいロジリーの指導でストレスをため込めば、色男の誘惑に堪えられるはずもなかった。
本来であれば、ローズレイ家の悪い噂を流された私は、彼女たちの身柄を拘束する正当な権利がある。しかし、悪役令嬢の汚名を着せられた者らしく、ハニートラップを使わせてもらっただけだ。
その方が利用価値が大きいんだもの。
「敵の屋敷に入ってきておいて、私の顔を見るまで気づかない方がおかしいのよ。悪いようにはしないから、ソファーに腰をかけてちょうだい」
騎士の顔になったルイスがいるため、この部屋から逃れる術はない。それを彼女たちは理解しているのか、警戒したままソファに座った。
「単刀直入に言うわ。ローズレイ家の名誉を傷つけるために、虚偽の噂を流しているようね。王国との守秘義務違反もあるみたいだけれど、罪深いことをしている自覚はあるのかしら」
「………」
「………」
そっぽを向くメイドたちは、何も話すような様子を見せなかった。
どうやら捕まった場合の対応マニュアルがあるらしい。さっきまで怒っていただけに、とてもわかりやすい女の子たちだ。
「沈黙で誤魔化そうとするなんて、よくある話ね。でも、ロジリーの前でも同じことができるのかしら。素直に話さないのであれば、遠慮なく引き渡すわよ」
ウォルトン家のメイドとはいえ、王城に配属されている以上、ロジリーの管轄にある。本来であれば、守秘義務違反が発覚した段階で拘束し、ロジリーに引き渡して処分されるのだ。
そんな現実を想像すれば、彼女たちが冷や汗を流すのも無理はない。ましてや、王城のメイドとして雇われているので、普通の犯罪よりも罪が重くなる。
「あなたたち、雇用契約書にはしっかり目を通した? 国家機密事項を漏洩する可能性があるため、王城で働く者は守秘義務が発生するの。違反者に関しては……、殺人犯と同じ扱いになる」
「なっ!? 聞いてないわ、そんなこと!」
「そうよ! 大袈裟すぎるもの! 嘘に決まってるわ!」
情報とは、時に命よりも重い。下手な情報が拡散されれば、戦争だって起きることもあるのだから。
それゆえに、ティエール王国の王城で働く人間は、厳しい制約が課せられるのだ。その分、給料は高く、キャリアを積めるメリットもある。
「法の下で裁くローズレイ家が嘘をつくと思う?」
罪を犯した二人にプレッシャーを与え、私は悪役令嬢らしく不敵な笑みを浮かべた。
まあ……正確にいえば、殺人犯と同じ扱いになるケースは少ない。和解金で治める形が一般的であり、余程のことがない限り、数ヵ月ほど給料がカットされる扱いになるだろう。
そんな世の中の仕組みを教えてあげるほど、私は優しくないけれど。ローズレイ家が和解を受け入れない限り、本当に彼女たちは殺人犯扱いになるのだから。
「良いことを教えてあげるわ。この屋敷を跨いだ時点で、あなたたちには二つの選択肢しか残されていないの。一つ目は、罪を償い、ローズレイ家に忠義を誓うこと」
これが私なりの和解案である。
自分がやったことに対して罪の意識を持ち、ローズレイ家の更正施設で働いてもらう。真面目に働けば、数年でまともな家にメイドとして派遣されるだろう。
そして、彼女たちの生きる道はそれしかない。
「二つ目は、ロジリーの尋問を終えた後、ウォルトン家に殺されることよ」
黒い噂が事実なら、ウォルトン家は悪に染まりきっているのだから。
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