22 / 48
第22話:シャルロットとレオン殿下1
しおりを挟む
レオン殿下の誕生日から一夜明けると、私は何事もなかったかのようにメイド生活に戻り、グレースの部屋を掃除していた。
急遽、ウォルトン家のメイドが二人行方不明になったので、模様替えを担当した私とソフィアが掃除することになったのだ。
ローズレイ家を押さえ込んでいると慢心していたウォルトン家は、まさか自分のメイドが裏切るとは思っていなかったんだろう。夜間に私兵を動かしてまで、失踪したメイドを探していたと聞いている。
そんなことをするのは想定範囲内だったので、誕生日パーティーが始まる前に身柄を確保した私は、すでに別の街へ避難させた。
この一週間で何があったのかわからないが、冷静に物事を見始めた彼女たちは、ウォルトン家での待遇に多くの不満を持っている。何でも話すくらいには協力的だったので、貴重な情報源になってくれることだろう。
身の安全は約束しているし、ローズレイ家としても丁重に扱う予定だ。これでウォルトン家の黒い噂が証明されれば、最高の形になるのだが、そこはお父様に任せるしかない。
ひとまず、ウォルトン家に大きなダメージを与えられただけでも良しとしよう。まだまだ追加ダメージがあるみたいだし。
「グレース様は、王妃というものを勘違いされているようですね」
仏の教育者ナタリーによって、グレースは朝からコッテリと絞られている。昨日のレオン殿下の誕生日パーティーの振る舞いが、完全にマイナス評価だから。
王妃教育を受け始めた人間が、次期国王よりも目立つ服装を着るなど、前代未聞の珍事だった。
どんな状況であったとしても、レオン殿下より前に出てはならない。お淑やかにさりげなくフォローして、男性を立てなければならないのだ。
「誕生日パーティーの主役を追いやるとは、どういうつもりですか?」
「だ、だって、あれはシャルロットが……」
「言い訳は不要。シャルロット様は場をわきまえ、落ち着いた服装で参加されておりました。ド派手なウエディングドレスを着たグレース様が突っかからなければ、何も問題は起きなかったのでは?」
「……ごめんなたい」
ナタリーはロジリーより優しいとはいえ、怒るときの鋭い目付きはそっくりだ。
さすがに可愛い子ぶって乗り越えられるような相手ではない。
思いっきり懲らしめてあげて、と横目で見守っていると、なぜかナタリーがこっちに視線を送ってくる。
「まあ、シャルロット様にも問題があるようには思いましたが」
当然のように私の存在に気づいているのね。でもお願い、ナタリー。ロジリーのような鋭い眼差しでこっちを見ないで。今は次期王妃から外れたのだし、大目に見てほしいわ。
ただ、それを好機と思ったグレースが目を輝かせるのは、本当に愚かな行為だと思う。
「やっぱりそうでしょ!? すべてはシャルロットが悪いのよ」
「私もようやくわかりました」
「わかってくれたのね。あの堅物クソ女のせいで、どれだけの私が嫌な思いをしてきたことか。本当にネチネチとうるさい女だわ」
「あなたはシャルロット様の百倍は手間のかかるクソガキですね。まずは性根を叩き直しましょう」
「……ん?」
この二人、微妙に会話が成立していない。キョトンとした表情で目をパチパチとさせるグレースを見たら、そのことがよくわかる。
私よりも遥かにネチネチとした女性がナタリーなのだ。仏の顔も三度まで、ということわざもあるように、我慢には限界がある。
「徹底的に厳しい王妃教育でなければ、何も変わることはないでしょう。甘やかしていた私にも非がありますが、今後は心を鬼にして接することにします。いいですね?」
「あの、今までも十分厳しかったような……」
「返事の仕方もわからないのですか? はい、と言いなさい」
「……ひゃい」
聖女として甘やかされたツケが来たグレースは、仏のナタリーの逆鱗に触れてしまったようだ。
王城でグレースの肩身が狭くなるのは良い傾向なので、私はナタリーを応援することにした。
急遽、ウォルトン家のメイドが二人行方不明になったので、模様替えを担当した私とソフィアが掃除することになったのだ。
ローズレイ家を押さえ込んでいると慢心していたウォルトン家は、まさか自分のメイドが裏切るとは思っていなかったんだろう。夜間に私兵を動かしてまで、失踪したメイドを探していたと聞いている。
そんなことをするのは想定範囲内だったので、誕生日パーティーが始まる前に身柄を確保した私は、すでに別の街へ避難させた。
この一週間で何があったのかわからないが、冷静に物事を見始めた彼女たちは、ウォルトン家での待遇に多くの不満を持っている。何でも話すくらいには協力的だったので、貴重な情報源になってくれることだろう。
身の安全は約束しているし、ローズレイ家としても丁重に扱う予定だ。これでウォルトン家の黒い噂が証明されれば、最高の形になるのだが、そこはお父様に任せるしかない。
ひとまず、ウォルトン家に大きなダメージを与えられただけでも良しとしよう。まだまだ追加ダメージがあるみたいだし。
「グレース様は、王妃というものを勘違いされているようですね」
仏の教育者ナタリーによって、グレースは朝からコッテリと絞られている。昨日のレオン殿下の誕生日パーティーの振る舞いが、完全にマイナス評価だから。
王妃教育を受け始めた人間が、次期国王よりも目立つ服装を着るなど、前代未聞の珍事だった。
どんな状況であったとしても、レオン殿下より前に出てはならない。お淑やかにさりげなくフォローして、男性を立てなければならないのだ。
「誕生日パーティーの主役を追いやるとは、どういうつもりですか?」
「だ、だって、あれはシャルロットが……」
「言い訳は不要。シャルロット様は場をわきまえ、落ち着いた服装で参加されておりました。ド派手なウエディングドレスを着たグレース様が突っかからなければ、何も問題は起きなかったのでは?」
「……ごめんなたい」
ナタリーはロジリーより優しいとはいえ、怒るときの鋭い目付きはそっくりだ。
さすがに可愛い子ぶって乗り越えられるような相手ではない。
思いっきり懲らしめてあげて、と横目で見守っていると、なぜかナタリーがこっちに視線を送ってくる。
「まあ、シャルロット様にも問題があるようには思いましたが」
当然のように私の存在に気づいているのね。でもお願い、ナタリー。ロジリーのような鋭い眼差しでこっちを見ないで。今は次期王妃から外れたのだし、大目に見てほしいわ。
ただ、それを好機と思ったグレースが目を輝かせるのは、本当に愚かな行為だと思う。
「やっぱりそうでしょ!? すべてはシャルロットが悪いのよ」
「私もようやくわかりました」
「わかってくれたのね。あの堅物クソ女のせいで、どれだけの私が嫌な思いをしてきたことか。本当にネチネチとうるさい女だわ」
「あなたはシャルロット様の百倍は手間のかかるクソガキですね。まずは性根を叩き直しましょう」
「……ん?」
この二人、微妙に会話が成立していない。キョトンとした表情で目をパチパチとさせるグレースを見たら、そのことがよくわかる。
私よりも遥かにネチネチとした女性がナタリーなのだ。仏の顔も三度まで、ということわざもあるように、我慢には限界がある。
「徹底的に厳しい王妃教育でなければ、何も変わることはないでしょう。甘やかしていた私にも非がありますが、今後は心を鬼にして接することにします。いいですね?」
「あの、今までも十分厳しかったような……」
「返事の仕方もわからないのですか? はい、と言いなさい」
「……ひゃい」
聖女として甘やかされたツケが来たグレースは、仏のナタリーの逆鱗に触れてしまったようだ。
王城でグレースの肩身が狭くなるのは良い傾向なので、私はナタリーを応援することにした。
1
あなたにおすすめの小説
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました
瀬崎由美
恋愛
「アイラ・ロックウェル、君との婚約は無かったことにしよう」そう婚約者のセドリックから言い放たれたのは、通っていた学園の卒業パーティー。婚約破棄の理由には身に覚えはなかったけれど、世間体を気にした両親からはほとぼりが冷めるまでの聖地巡礼——世界樹の参拝を言い渡され……。仕方なく朝夕の参拝を真面目に行っていたら、落ちてきた世界樹の実に頭を直撃。気を失って目が覚めた時、私は神官達に囲まれ、横たえていた胸の上には実から生まれたという聖獣が乗っかっていた。どうやら私は聖獣に見初められた聖女らしい。
そして、その場に偶然居合わせていた第三王子から求婚される。問題児だという噂の第三王子、パトリック。聖女と婚約すれば神殿からの後ろ盾が得られると明け透けに語る王子に、私は逆に清々しさを覚えた。
氷の公爵は、捨てられた私を離さない
空月そらら
恋愛
「魔力がないから不要だ」――長年尽くした王太子にそう告げられ、侯爵令嬢アリアは理不尽に婚約破棄された。
すべてを失い、社交界からも追放同然となった彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と畏れられる辺境伯レオルド。
彼は戦の呪いに蝕まれ、常に激痛に苦しんでいたが、偶然触れたアリアにだけ痛みが和らぐことに気づく。
アリアには魔力とは違う、稀有な『浄化の力』が秘められていたのだ。
「君の力が、私には必要だ」
冷徹なはずの公爵は、アリアの価値を見抜き、傍に置くことを決める。
彼の元で力を発揮し、呪いを癒やしていくアリア。
レオルドはいつしか彼女に深く執着し、不器用に溺愛し始める。「お前を誰にも渡さない」と。
一方、アリアを捨てた王太子は聖女に振り回され、国を傾かせ、初めて自分が手放したものの大きさに気づき始める。
「アリア、戻ってきてくれ!」と見苦しく縋る元婚約者に、アリアは毅然と告げる。「もう遅いのです」と。
これは、捨てられた令嬢が、冷徹な公爵の唯一無二の存在となり、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転溺愛ストーリー。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
婚約破棄、承りました!悪役令嬢は面倒なので認めます。
パリパリかぷちーの
恋愛
「ミイーシヤ! 貴様との婚約を破棄する!」
王城の夜会で、バカ王子アレクセイから婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢ミイーシヤ。
周囲は彼女が泣き崩れると思ったが――彼女は「承知いたしました(ガッツポーズ)」と即答!
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる