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第46話:エピローグ1
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本会議が終わり、一週間が経過する頃。私はロジリーと話すためにメイド長の部屋を訪ねていた。
「まだメイドに未練でもございましたか?」
メイドのシャルとしてではなく、公爵令嬢のシャルロットとして。
「色々お世話になったから、お礼を言いに来ただけよ。ほら、本会議が終わった後は、ずっと忙しかったから」
一か月のメイド生活の反動は大きく、ローズレイ家の仕事が山積みになってしまった。まったく身動きが取れないほどで、今日まで必死になって仕事していたのだ。
まだしばらくは屋敷にこもり続けなければならないが……、息抜きも兼ねて、王城に訪れている。
「公開告白したわりには、随分と呑気ですね。普通は早くレオン殿下の心を射止めたいと思うべきでしょう」
「あら、最初から射止めていることを知らないのかしら」
「可愛げがありませんよ。暫定婚約者になっただけで、随分と元気になられましたね」
ウォルトン家に完全勝利といかなかったことに不満を持っているのか、惚気ている私に腹が立っているのかわからないが、ロジリーはヘソを曲げている。
ノビノビ過ごし始めた私に対して『暫定婚約者なのだから、もっと気を引き締めなさい』と言いたいのだろう。
でも、それは無理な話だ。私とレオン殿下にしかわからないやりとりがあり、上機嫌になっているから。
本会議が開かれていた時、レオン殿下にルチアの書類を渡すついでに、隠し持っていた小さな紙切れも一緒に手渡している。ウォルトン家を刺激しすぎれば、痛いしっぺ返しを食らうと思い、先にコンタクトを取っておいたのだ。
レオン殿下の立場が危うくなる恐れがあるため、婚約者を未定にするべき、と。
元々ルチアがいなかったら、グレースを婚約者から外すことだけを考えていた。今すぐ婚約者に戻らなくても、いつか戻れればいいと思っていたから。
ただ、公開告白したこともあってか、レオン殿下は危ない橋を渡ることにして、私を婚約者に選んでくれた。
まあ……ウォルトン家の当主バルデスが『愛などという詰まらぬ感情に負けたのか!』と言わんばかりに抵抗されて、暫定婚約者という立場になってしまったが。
「返り討ちにあったウォルトン家を見れば、婚約者の地位を奪いに来る人はいないと思うわ。少しくらいは浮かれてるものよ」
少しどころではなく、完全に浮かれているのは言うまでもないだろう。最初から両想いとはいえ、逆プロポーズが成功したようなものなので……嬉しいものは嬉しい。
予期せぬことがあるとしたら、メイド長の部屋に聞こえるほど、メイドたちの話のネタになっていることだ。
「貴族が八年も恋してるなんて、夢があるよねー」
「同じ三大貴族を相手にしても、愛のために婚約者の座を奪い返すとは思わなかったわ」
「「シャルロット様、推せる~!!」」
貴族女性の憧れる純愛展開に火が付き、女性の支持率が急増した。
誰であっても動じないローズレイ家らしい姿勢も評価され、普通にシャルロットとして城内を歩くだけでも、声をかけられる。女性が強く生きる見本のような形になっているらしい。
今まで友達ができなかっただけに、シャルロットとして行動するのは調子が狂う。ずっと陰で育んできた恋愛を応援されるのも、さすがに恥ずかしかった。
「不仲だった誤解が解けたのはいいと思いますが、何度も婚約者が代わるようであれば、シャルロット様もマイナス評価になります。次はありませんよ」
そして、なんだかんだで一番応援してくれているのが、ロジリーである。厳しい言葉とは裏腹に、レオン殿下との婚約を後押ししてくれるのだ。
「私も同じ経験はしたくないもの。どこかの家臣たちに祝ってもらえるようには頑張るわ」
「そんな物好きな家臣はいないと思います。まあ……誰も祝わないわけにはいきませんので、結婚することになれば、花くらいは送って差し上げますよ」
地獄のメイド長と呼ばれている影響か、ロジリーが素直に祝ってくれる様子はない。そこが少し可愛くもあると思えてきたのは、私も好意的な印象を持ったという証拠なのだろう。
いつか仲良くなれたら、亡くなったお母様の話を聞かせてもらいたい。
「……何ですか? 花が不要であれば、送りませんが」
ジーッと顔を眺めていると、顔を赤くしたロジリーがそっぽを向いた。その不器用な姿に、ちょっぴり呆れてしまう。
ローズレイ家の私と違って、ロジリーはもっと自由な態度を取れるはずなのに、どうして素直になれないのかしら。今まで突っかかってきていたのも、自分に似ていると思い、放っておけなかっただけだったりして。
そんなことを本人に言えば、ヤカンが沸騰するかのように怒り始めるだろうから、言わないでおこう。
「あまり花に興味はないのだけれど、ありがたくもらっておくわ」
「一言多いですよ。素直に受け取ればいいものを」
大きなため息を吐くロジリーを見ると、日常に戻ってきた印象があった。
こういう会話がノビノビできるのも、ウォルトン家の勢力が弱まった影響だ。本会議が終わった後、バルデスは身柄を拘束されていて、もはや没落の道を一直線に進んでいる。
罪の重いグレースに『死刑』という処分をチラつかせたところ、口が割るのは早かったのだ。とても素直な良い子ちゃんになってペラペラと話してくれるため、ウォルトン家が取り壊される日が来るのは近いだろう。
ウォルトン家の使用人にグレースの状況を伝えたら、それはもう発狂するくらいの騒ぎになったので、完全に泥仕合化している。互いに罪を擦り付けあっているし、全員まとめて重い処分がくだされると思う。
その書類の作成を任されている私としては、忙しさに拍車がかけられて困っているけれど。
「私はもう行くわ。王城に滞在できる時間が限られているの。また今度、他のメイドたちにもお礼を言いに来るわね」
「慌ただしい方ですね。少しくらいはゆっくりしていくべきです。倒れても知りませんよ」
「……なんとなくわかってきたけれど、素直じゃないわよね、ロジリーって」
「シャルロット様だけには言われたくありません」
「私が素直じゃないのは、堅物な表情だけよ。いつかわかりあえる日が来るといいわね。私、ロジリーのことは嫌いじゃないもの。それじゃあ、メイドたちによろしく伝えておいてちょうだい」
ロジリーに背を向け、メイド長の部屋を後にしようとした時、聞き逃しそうなほど小さい声が聞こえてきた。
次期王妃なのですから、体には気を付けてください、と。
「まだメイドに未練でもございましたか?」
メイドのシャルとしてではなく、公爵令嬢のシャルロットとして。
「色々お世話になったから、お礼を言いに来ただけよ。ほら、本会議が終わった後は、ずっと忙しかったから」
一か月のメイド生活の反動は大きく、ローズレイ家の仕事が山積みになってしまった。まったく身動きが取れないほどで、今日まで必死になって仕事していたのだ。
まだしばらくは屋敷にこもり続けなければならないが……、息抜きも兼ねて、王城に訪れている。
「公開告白したわりには、随分と呑気ですね。普通は早くレオン殿下の心を射止めたいと思うべきでしょう」
「あら、最初から射止めていることを知らないのかしら」
「可愛げがありませんよ。暫定婚約者になっただけで、随分と元気になられましたね」
ウォルトン家に完全勝利といかなかったことに不満を持っているのか、惚気ている私に腹が立っているのかわからないが、ロジリーはヘソを曲げている。
ノビノビ過ごし始めた私に対して『暫定婚約者なのだから、もっと気を引き締めなさい』と言いたいのだろう。
でも、それは無理な話だ。私とレオン殿下にしかわからないやりとりがあり、上機嫌になっているから。
本会議が開かれていた時、レオン殿下にルチアの書類を渡すついでに、隠し持っていた小さな紙切れも一緒に手渡している。ウォルトン家を刺激しすぎれば、痛いしっぺ返しを食らうと思い、先にコンタクトを取っておいたのだ。
レオン殿下の立場が危うくなる恐れがあるため、婚約者を未定にするべき、と。
元々ルチアがいなかったら、グレースを婚約者から外すことだけを考えていた。今すぐ婚約者に戻らなくても、いつか戻れればいいと思っていたから。
ただ、公開告白したこともあってか、レオン殿下は危ない橋を渡ることにして、私を婚約者に選んでくれた。
まあ……ウォルトン家の当主バルデスが『愛などという詰まらぬ感情に負けたのか!』と言わんばかりに抵抗されて、暫定婚約者という立場になってしまったが。
「返り討ちにあったウォルトン家を見れば、婚約者の地位を奪いに来る人はいないと思うわ。少しくらいは浮かれてるものよ」
少しどころではなく、完全に浮かれているのは言うまでもないだろう。最初から両想いとはいえ、逆プロポーズが成功したようなものなので……嬉しいものは嬉しい。
予期せぬことがあるとしたら、メイド長の部屋に聞こえるほど、メイドたちの話のネタになっていることだ。
「貴族が八年も恋してるなんて、夢があるよねー」
「同じ三大貴族を相手にしても、愛のために婚約者の座を奪い返すとは思わなかったわ」
「「シャルロット様、推せる~!!」」
貴族女性の憧れる純愛展開に火が付き、女性の支持率が急増した。
誰であっても動じないローズレイ家らしい姿勢も評価され、普通にシャルロットとして城内を歩くだけでも、声をかけられる。女性が強く生きる見本のような形になっているらしい。
今まで友達ができなかっただけに、シャルロットとして行動するのは調子が狂う。ずっと陰で育んできた恋愛を応援されるのも、さすがに恥ずかしかった。
「不仲だった誤解が解けたのはいいと思いますが、何度も婚約者が代わるようであれば、シャルロット様もマイナス評価になります。次はありませんよ」
そして、なんだかんだで一番応援してくれているのが、ロジリーである。厳しい言葉とは裏腹に、レオン殿下との婚約を後押ししてくれるのだ。
「私も同じ経験はしたくないもの。どこかの家臣たちに祝ってもらえるようには頑張るわ」
「そんな物好きな家臣はいないと思います。まあ……誰も祝わないわけにはいきませんので、結婚することになれば、花くらいは送って差し上げますよ」
地獄のメイド長と呼ばれている影響か、ロジリーが素直に祝ってくれる様子はない。そこが少し可愛くもあると思えてきたのは、私も好意的な印象を持ったという証拠なのだろう。
いつか仲良くなれたら、亡くなったお母様の話を聞かせてもらいたい。
「……何ですか? 花が不要であれば、送りませんが」
ジーッと顔を眺めていると、顔を赤くしたロジリーがそっぽを向いた。その不器用な姿に、ちょっぴり呆れてしまう。
ローズレイ家の私と違って、ロジリーはもっと自由な態度を取れるはずなのに、どうして素直になれないのかしら。今まで突っかかってきていたのも、自分に似ていると思い、放っておけなかっただけだったりして。
そんなことを本人に言えば、ヤカンが沸騰するかのように怒り始めるだろうから、言わないでおこう。
「あまり花に興味はないのだけれど、ありがたくもらっておくわ」
「一言多いですよ。素直に受け取ればいいものを」
大きなため息を吐くロジリーを見ると、日常に戻ってきた印象があった。
こういう会話がノビノビできるのも、ウォルトン家の勢力が弱まった影響だ。本会議が終わった後、バルデスは身柄を拘束されていて、もはや没落の道を一直線に進んでいる。
罪の重いグレースに『死刑』という処分をチラつかせたところ、口が割るのは早かったのだ。とても素直な良い子ちゃんになってペラペラと話してくれるため、ウォルトン家が取り壊される日が来るのは近いだろう。
ウォルトン家の使用人にグレースの状況を伝えたら、それはもう発狂するくらいの騒ぎになったので、完全に泥仕合化している。互いに罪を擦り付けあっているし、全員まとめて重い処分がくだされると思う。
その書類の作成を任されている私としては、忙しさに拍車がかけられて困っているけれど。
「私はもう行くわ。王城に滞在できる時間が限られているの。また今度、他のメイドたちにもお礼を言いに来るわね」
「慌ただしい方ですね。少しくらいはゆっくりしていくべきです。倒れても知りませんよ」
「……なんとなくわかってきたけれど、素直じゃないわよね、ロジリーって」
「シャルロット様だけには言われたくありません」
「私が素直じゃないのは、堅物な表情だけよ。いつかわかりあえる日が来るといいわね。私、ロジリーのことは嫌いじゃないもの。それじゃあ、メイドたちによろしく伝えておいてちょうだい」
ロジリーに背を向け、メイド長の部屋を後にしようとした時、聞き逃しそうなほど小さい声が聞こえてきた。
次期王妃なのですから、体には気を付けてください、と。
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