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第47話:エピローグ2
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ロジリーの部屋を後にした私は、ソフィアとルイスを連れ出し、魔法研究施設に訪れていた。
一つだけ中途半端に終わらせてしまったローズレイ家の仕事を、キッチリと終わらせるためである。
「本当にごめんなさい!」
先ほどから何度も頭を下げているのは、詐欺に加担したルチアだ。
国王様の専属治療師となったルチアは、男爵家の娘とは思えないほど出世している。学園長の意向もあり、学園から引き抜かれたという形で処理され、官邸魔導士になっていた。
以前のようなヨレヨレの服ではなく、大きな官邸魔導士のローブを羽織る姿は、とてもアンバランスである。その影響もあって、見た目以上に幼い女の子が謝っている印象があった。
思わず、謝り続けるルチアに対して、ソフィアが苦笑いを浮かべるほどに。
「もういいよ。三年も前の話だし、結局ボクたちは元に戻ったから」
二人が破局したままだったら許されなかっただろうし、他人の人生を狂わせるような行動をしたのだから、謝って済むような問題ではない。
「そんなこと言わずに怒ってください。何かできることがあれば、何でもしますので!」
ただ、素直に猛省しているルチアを前にして、強く言うことはできなかった。涙目で訴えかける彼女を責めるのは、気が重くなるのだ。
さすがに耐え切れなくなったのか、ソフィアが私の耳元に顔を近づけてくる。
「ボク、普通に引いてるんだけど。どうやって反省を促したのさ」
「私が叱りつけたみたいに言わないでよ。逆に慰める側の立場だったのよ」
ロジリーにお願いして、ルチアを拘束したあの日。ローズレイ家のシャルロットだと正体を明かしたら、それはもう……ドン引きするぐらいに彼女は大泣きした。
いつかは捕まると思っていたみたいで、色んな気持ちが溢れたんだろう。普通に話ができるような状態でなく、『許してもらえるのなら何でもしますから~!』と叫び続けていた。
ローズレイ家にどんなイメージを持っていたのは、未だにわからない。死神ではないし、慈悲がないわけでもないのだから、普通に反省するだけでよかったのに。
その後、詳しい話を聞き、一番丸く収まる形を模索した結果、国王様の専属治療師にすることにしたのだ。
国王様の命を助けることができれば、犯した罪を帳消しにしても、お釣りが返ってくるくらいの出来事になる。ソフィアのルーサム家もルイスのアルベス家も納得するしかなく、円満に終わりやすいと思った。
あとは当事者たちが納得するかの問題だ。名誉を傷つけられたルイスが許さないと思うなら、それ相応の対応をすればいい。
「詳しい事情も聞いているが、良い気がしないのは事実だ。しかし、特に怒る気もない。今後は人の道を踏み外さないように生きてくれ」
王家の騎士であるルイスが強く言えないというのも知っているので、ちょっとズルいことをしてしまった自覚はある。その分、私がキッチリと仲介して、納得できるような形にするつもりだ。
「ルイスが支払った慰謝料については、優先的に返済させる予定よ。逆に慰謝料を請求できる立場になるのだけれど、どうしたい?」
「……もう終わったことです。いつまでも後ろを向いているより、前を向いて歩きたいと思っています」
「わかったわ。じゃあ、深追いしない形にしましょう」
最低限の落としどころがこれだと思う。もう少し何かして上げられたらいいけれど、できることはあまりない。今後、ルチアが二人と関わらないようにすることが最善案になるだろう。
ルチアを見る度に、苦しい時間を思い出すから。
話がまとまりかけようとしていると、何か言いたそうにソフィアが頭をかき始めた。
「ボクが心配することでないんだけど、ご両親が病気なんでしょ? 治療費はもう大丈夫なんだ?」
詳しい話を聞いたルチアのことが心配になるのは、ソフィアの優しさだといえる。私みたいな強気な女と仲良くしてくれるくらいだし、こういったところがソフィアのいいところでもあった。
「ソフィが気にする必要はないわ。官邸魔導士に所属している以上、お金に困ることはないから。治療費も……実質無料みたいなものだし」
国王様の治療に支障が出なければ、他の人に回復魔法を使う許可は下りている。そして、本会議がどんな結末になるかわからなかったので、ルチアの両親を無理やり王都に引っ越しさせていた。
ウォルトン家に人質に取られたら、シャレにならなかったから。
その結果、国王様の治療に集中できる環境が生まれて、何もかもいい形に動いている。
ただ、順調に平和への階段を上り始めるルチアは、浮かない顔をしていた。
「あの~、本当に怒ったり、殴ったりはしないんですか?」
罪の意識が高いルチアは、簡単に許してもらうとかえって心が晴れないのだ。
「ボクは別にいいかな」
「俺も必要ない」
でも、そこまで後悔しているのなら、ソフィアもルイスも逆に何も言えなくなってしまう。詐欺に加担したとはいえ、彼女はウォルトン家というハイエナの被害者でもある。
もう十分に苦しんだと思うし、罪を背負い続ける必要はない。だから……私に泣きついてくるのはやめてほしい。
「シャルロット様~! どうしたらいいんですかー! うわあーん! 思っていた展開と違います~」
涙を流すところが違うわよ、まったく。もう……本当に世話が焼ける子だわ。
「許してもらえたんだから、深く考える必要はないのよ。それでも気が晴れないなら、困っている人に手を差し伸べてあげなさい。ルチアみたいに間違った道へ進みそうな子がいれば、助けてあげるのよ。いつまでも後悔し続けるのは、間違っているのだから」
正しく罪を償うようにするのも、ローズレイ家の仕事なのであった。
一つだけ中途半端に終わらせてしまったローズレイ家の仕事を、キッチリと終わらせるためである。
「本当にごめんなさい!」
先ほどから何度も頭を下げているのは、詐欺に加担したルチアだ。
国王様の専属治療師となったルチアは、男爵家の娘とは思えないほど出世している。学園長の意向もあり、学園から引き抜かれたという形で処理され、官邸魔導士になっていた。
以前のようなヨレヨレの服ではなく、大きな官邸魔導士のローブを羽織る姿は、とてもアンバランスである。その影響もあって、見た目以上に幼い女の子が謝っている印象があった。
思わず、謝り続けるルチアに対して、ソフィアが苦笑いを浮かべるほどに。
「もういいよ。三年も前の話だし、結局ボクたちは元に戻ったから」
二人が破局したままだったら許されなかっただろうし、他人の人生を狂わせるような行動をしたのだから、謝って済むような問題ではない。
「そんなこと言わずに怒ってください。何かできることがあれば、何でもしますので!」
ただ、素直に猛省しているルチアを前にして、強く言うことはできなかった。涙目で訴えかける彼女を責めるのは、気が重くなるのだ。
さすがに耐え切れなくなったのか、ソフィアが私の耳元に顔を近づけてくる。
「ボク、普通に引いてるんだけど。どうやって反省を促したのさ」
「私が叱りつけたみたいに言わないでよ。逆に慰める側の立場だったのよ」
ロジリーにお願いして、ルチアを拘束したあの日。ローズレイ家のシャルロットだと正体を明かしたら、それはもう……ドン引きするぐらいに彼女は大泣きした。
いつかは捕まると思っていたみたいで、色んな気持ちが溢れたんだろう。普通に話ができるような状態でなく、『許してもらえるのなら何でもしますから~!』と叫び続けていた。
ローズレイ家にどんなイメージを持っていたのは、未だにわからない。死神ではないし、慈悲がないわけでもないのだから、普通に反省するだけでよかったのに。
その後、詳しい話を聞き、一番丸く収まる形を模索した結果、国王様の専属治療師にすることにしたのだ。
国王様の命を助けることができれば、犯した罪を帳消しにしても、お釣りが返ってくるくらいの出来事になる。ソフィアのルーサム家もルイスのアルベス家も納得するしかなく、円満に終わりやすいと思った。
あとは当事者たちが納得するかの問題だ。名誉を傷つけられたルイスが許さないと思うなら、それ相応の対応をすればいい。
「詳しい事情も聞いているが、良い気がしないのは事実だ。しかし、特に怒る気もない。今後は人の道を踏み外さないように生きてくれ」
王家の騎士であるルイスが強く言えないというのも知っているので、ちょっとズルいことをしてしまった自覚はある。その分、私がキッチリと仲介して、納得できるような形にするつもりだ。
「ルイスが支払った慰謝料については、優先的に返済させる予定よ。逆に慰謝料を請求できる立場になるのだけれど、どうしたい?」
「……もう終わったことです。いつまでも後ろを向いているより、前を向いて歩きたいと思っています」
「わかったわ。じゃあ、深追いしない形にしましょう」
最低限の落としどころがこれだと思う。もう少し何かして上げられたらいいけれど、できることはあまりない。今後、ルチアが二人と関わらないようにすることが最善案になるだろう。
ルチアを見る度に、苦しい時間を思い出すから。
話がまとまりかけようとしていると、何か言いたそうにソフィアが頭をかき始めた。
「ボクが心配することでないんだけど、ご両親が病気なんでしょ? 治療費はもう大丈夫なんだ?」
詳しい話を聞いたルチアのことが心配になるのは、ソフィアの優しさだといえる。私みたいな強気な女と仲良くしてくれるくらいだし、こういったところがソフィアのいいところでもあった。
「ソフィが気にする必要はないわ。官邸魔導士に所属している以上、お金に困ることはないから。治療費も……実質無料みたいなものだし」
国王様の治療に支障が出なければ、他の人に回復魔法を使う許可は下りている。そして、本会議がどんな結末になるかわからなかったので、ルチアの両親を無理やり王都に引っ越しさせていた。
ウォルトン家に人質に取られたら、シャレにならなかったから。
その結果、国王様の治療に集中できる環境が生まれて、何もかもいい形に動いている。
ただ、順調に平和への階段を上り始めるルチアは、浮かない顔をしていた。
「あの~、本当に怒ったり、殴ったりはしないんですか?」
罪の意識が高いルチアは、簡単に許してもらうとかえって心が晴れないのだ。
「ボクは別にいいかな」
「俺も必要ない」
でも、そこまで後悔しているのなら、ソフィアもルイスも逆に何も言えなくなってしまう。詐欺に加担したとはいえ、彼女はウォルトン家というハイエナの被害者でもある。
もう十分に苦しんだと思うし、罪を背負い続ける必要はない。だから……私に泣きついてくるのはやめてほしい。
「シャルロット様~! どうしたらいいんですかー! うわあーん! 思っていた展開と違います~」
涙を流すところが違うわよ、まったく。もう……本当に世話が焼ける子だわ。
「許してもらえたんだから、深く考える必要はないのよ。それでも気が晴れないなら、困っている人に手を差し伸べてあげなさい。ルチアみたいに間違った道へ進みそうな子がいれば、助けてあげるのよ。いつまでも後悔し続けるのは、間違っているのだから」
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