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第一章

第23話:ルーナのお見舞い1

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「今日は早いですね、エリスさん。それに、ジルくんも来てくれたの?」

 エリスと一緒にルーナの部屋へ訪れたジルは、いつもと同じように人見知りを発揮。エリスの背後から、ひょっこりと顔を出していた。

「なんで恥ずかしがってるの。自分から行くって言ったくせに」

 まったくもって、その通り。気合を入れてエリスを説得したにもかかわらず、ジルは隠れている。

 でも、ルーナを前にすると、恥ずかしくて隠れずにはいられない。ルーナに会うまでは大丈夫だと思っていても、実際に会うと心の制御ができなくなって、ダメになってしまう。人見知りとは、そういうものである。

「ふふふ、恥ずかしがり屋さんだね。ジ~ルくん、おいでー。話し相手になってくれたら嬉しいなー」

 そのつもりで来ました! とは言えない。一応、本当に一応。エリスの顔色を確認する。

「早く行ってあげて。ルーナちゃんは動けないんだから、待たせちゃダメだよ」

 エリスの許可が下りたことで、トコトコトコッとジルは駆け足で近づいていく。

 それはもう、ルーナお姉ちゃんに会いたかったの~! と言っているようなもので、体から嬉しさが滲み出ている。LEDライトよりもパァァァ! と明るい表情をして、ルーナに好意を表現するほどに。

 当然、子供好きのルーナも嬉しいことには違いない。両手を軽く広げて出迎え、ジルの頭をナデナデして、ご満悦。

「来てくれてありがとう。よしよし、いい子だね~」

 先ほどまで恥ずかしそうにしていたのは、いったい誰だったのか。心の扉をバーンッ! と開け放ち、ポワポワした気持ちでルーナにあやされている。まるで、久しぶりに再会した親子のようだ。

 しかし、ジルはふと違和感に気づいてしまう。アーニャが寂しいと言っていたのに、思っている以上にルーナが元気なことを。

「ルーナお姉ちゃんが寂しいって言ってたって……」

 途中からアーニャの言葉が聞いてなかったジルは、ルーナが寂しくて枕を濡らしているぐらいのレベルで考えていた。僕が行ってあげなきゃ、と使命感を持ってきたのに、実際のルーナは笑顔でナデナデ。役目を果たせてはいるのだが……、白馬の王子様のように颯爽と現れるイメージをしていたジルには、ちょっぴり物足りないのだった。

「えっ? ……あぁ、姉さんがそう言ったのね。確かにジルくんがいてくれた方が嬉しいし、寂しくないかな。エリスさんは毎日来てくれるけど、料理と掃除で忙しくて、なかなか話し相手になってくれないから」

 大人で気遣い上手なルーナは、すぐに状況を把握。子供のジルに嬉しいアピールをして、喜ばせることに成功する。が、その影響で身の回りを世話してくれているエリスに、ジト目で見られてしまう。

「ふーん。昨日は一時間ぐらいルーナちゃんと話してた気がするんだけどなー」

「エリスさんと話すのは楽しいので、時間の流れ方が変わります。私の体感としては、五分程度しか経っていなかったですね」

「長い五分ですねー。今日は私の代わりに、ジルといっぱいお話ください」

「お願いされては仕方ありませんね。今日はジルくんをいっぱいお借りしたいと思います」

 ささやかな小芝居が終わると、二人は顔を合わせて笑い合っていた。何のことかわからないジルは、ポカーンとしていたが。

「じゃあ、今日はジルがいるし、私は他の部屋の掃除をしてくるね。ジルはルーナちゃんと二人きりでも平気?」

「うん、大丈夫。ルーナお姉ちゃん、優しいから」

「やだー、ジルくんったら。嬉しい~」

 そう言いながら、ルーナは上体をジルに近づけ、軽くハグをする。背中をポンポンッと軽く叩くだけの、親しい友人にするちょっとした挨拶のようなもの。

 だが、ジルにとっては大事件である。姉のエリス以外で初めて肌を密着させただけでなく、頬に髪が触れたことで、前回ルーナにプニプニと弄ばれたことを思い出してしまう。

 元々ジルは恋愛耐性がなく、女性の家にあがろうと考えるだけでドキドキしていたのだ。初めてのハグに恋愛感情が追い付かず、頭がパンクするようにボフッと蒸気が上がる。

 血液が沸騰状態で、血圧は急上昇! 体内の血管壁はいま、かつてない衝撃から身を守っていた! ジルは大人の階段を着実に一歩ずつ上っているのだ!

 数秒ほどの軽いハグが終わり、頭を撫でてあげるルーナと、耳まで真っ赤にしたジルの姿を見て、エリスは全てを悟った。

(ルーナちゃんのこと、絶対に好きになってるよね。面倒見が良くて可愛いから、気持ちはわからないでもないけど。ジルは昔から甘えん坊だからなー)

 錬金術よりも恋愛に夢中になってしまったジルに苦笑いを浮かべ、エリスは部屋を後にする。

「家の中にいるから、何かあったら呼びに来て……って、聞いてないね。まあ、別にいいけど」

 すっかりルーナに夢中になってしまう、ジルなのであった。
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