【完結】ちびっこ錬金術師は愛される

あろえ

文字の大きさ
39 / 99
第一章

第39話:アーニャ、ホッとする

しおりを挟む
「あんたに聞きたいことがあるの」

 ジルがCランクの魔石でジェムを作り終えると、アーニャは真剣な顔をして言った。純粋無垢な表情を浮かべるジルは、首を傾げてアーニャを見つめている。

「どうしたの?」

 ゴクリッと喉を鳴らしたアーニャは、マジックポーチから二つの魔石を取り出す。一つは三角錐の炎の魔石で、もう一つは五角錐の風の魔石。違うのは、Cランクよりも上の、Bランクの魔石ということ。

 値段は一つあたり、金貨百枚、日本円で百万円にまで跳ね上がる。

「この魔石を使って、同じ物を作れる?」

 アーニャから手渡されたジルは、先ほどのように二つ返事をすることなく、少し考えていた。

「うーん。やってみないとわからないけど、これは難しそう」

「そう、それなら仕方ないわね。一応、一つだけ渡しておくわ。作れると思ったら、挑戦してみなさい」

「うん、ありがとう」

 そう言ってジルは、三角錐の炎の魔石を受け取った。これにはアーニャも……、ホッとした。

(なによ、もう。できないんじゃないのー、まったく。焦らせるんじゃないわよ。これでできるなんて言われたら、私は一人でやっていけないわ。恥を忍んで弟子入りしようと思ったくらいだもの)

 そう、アーニャにもできないのだ。これでジルが、作れるよー! などと言った際には、ショックで寝込んでしまうかもしれないと、内心はヒヤヒヤしていた。だから、アーニャはちょっと嬉しそう。

(よかったわー! 私よりマナの扱いが上手いけど、まだ私の方が優勢よ。錬金術の知識がある分、確実に私の方が上ね。この差は大きいわよ。例えるなら、そう! オムライスとチャーハンくらいの差があるわ!)

 完全に好みの問題ではあるが、オムライス好きのアーニャにとって、その差は大きい。

(あっ、そうだ。今日はあんかけチャーハンが食べたかったのよ)

 ちょっとばかり、チャーハンが優勢になったかもしれない。

「ねえ、あんた。今日の昼ごはんに、あんかけチャーハンは作れる?」

 前日から楽しみにしていたこともあり、アーニャは今日一番明るい声を出した。どことなく表情も明るい……いや、もう完全に嬉しそうだと言わんばかりに、笑顔を見せている。

「今日はブランクお兄ちゃんにミルクパンをもらったから、フワフワ卵にチーズを乗せて焼こうかと思ってたんだけど」

 しかし、ジルはアッサリと断ってしまう。これには、楽しみにしていたアーニャもご立腹……になるかと思いきや、フワフワ卵というワードに釣られて、悩み始める。

「うーん、それはそれでアリね。じゃあ、明日の昼ごはんはあんかけチャーハンでお願いするわ」

「うん」

「そうと決まれば、もうすぐお昼だし、今日は終わるわ! 早く片付けて、エリスを呼びに行くわよ!」

 部屋へ入ってきた人と同一人物とは思えないようなアーニャに、さすがのジルも少し違和感を……。

 ――アーニャお姉ちゃんって、子供っぽい味が好きなんだよねー。肉あんかけチャーハンにした方がいいかな。

 違和感などなかった! 子供のジルに子供扱いされているが、肉あんかけチャーハンが出てこれば、アーニャは喜ぶだろう。

 これは卑怯よ、こんなの絶対においしいに決まってるじゃない! と、見ただけで言うに違いない。そんなアーニャの姿を想像しただけ、ジルは嬉しくなってしまう。

 そのため、二人はルンルン気分で後片づけをしていく。

「あっ、そうだわ。あんた、明日から時間をかけてでも構わないから、Cランクの魔石でジェムを作りなさい。失敗だけは確実に避けてくれれば、ゆっくりでいいわよ」

「うん、わかったー。どのくらい作ればいいの?」

「そうね。一週間以上作り続けたとして……、百個程度かしら」

「えっ!? そんなに?」

「急いでないから、ゆっくりでいいのよ。実際に私が使うものだし、ジェム作りを任せられるなら、本当に助かるわ。核を傷つけないように集中して削るの、苦手なのよね」

 つい十分前まで、ジルの才能に嫉妬していた人間とは思えない。だが、元々は手伝ってもらう予定で教えていたため、助かるのは本当だった。核を傷つけないように削ってもらおう、程度に思っていたので、任せられるのは嬉しい誤算である。

「アーニャお姉ちゃんも、苦手なものがあったんだぁ。何でもできちゃうから、全然そんな風に見えないのに」

「私は器用なだけで、苦手なものなんて山ほどあるわよ。そもそも、細かい作業が続く錬金術なんて、イライラするから嫌いね。私の性格には全然合わないわ」

 こんなことを言ってはいるが、アーニャの錬金術師として才能はズバ抜けている。

 たった二年勉強しただけで、多くのアイテムを作って依頼をこなしていたし、簡単なものであれば、一目見ただけで作ってしまう。さらに、それと同時にルーナの治療薬を研究しているのである。

 【破壊神】という不名誉な二つ名が付いていなければ、紛れもなく次世代を引っ張ると期待される、優秀な逸材だったのだ。

 そして、その逸材を超える存在が出てきたのだが……、こともあろうか、破壊神の傘下に入っていた。まだ錬金術ギルドはジルの才能に気づいていないけれど、アーニャのお気に入りという烙印は、良くも悪くも消えることはないだろう。

 ましてや、アーニャの助手になれたことを、本人は誇りに思っているのだから。

「えーっ! 錬金術が苦手なのに、そんなに上手なの? アーニャお姉ちゃん、すごーい!」

「それほどでもないわよ。才能があったっていうだけかしら」

 特におだてる気などないのだけれど、ジルはアーニャの機嫌を取るのが日に日にうまくなるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...