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第一章
第43話:すれ違った姉妹3
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アーニャとルーナが落ち着きを取り戻す頃、真っ暗な街並みに部屋の明かりが灯り、静かな夜を迎えていた。
貴族街ということもあり、宿屋や居酒屋の賑やかな声が聞こえてこない。シーンと静寂が包み込む闇夜は寂しさを助長させるようで、心が不安定なアーニャとルーナを残して帰ることができず、ジルとエリスはお泊りをすることになった。
包容力のある姿をルーナに見せたばかりのジルは、必要以上に意識してしまっているが。
――女の人の家に泊まるなんて、どうしよう。僕、結婚するのかなぁ。
話を飛躍させるジルが愛情てんこ盛りのオムライスを作り終えると、エリスとアーニャと一緒にルーナの部屋へ運ぶ。そして、ベッドの周りに椅子だけを持ちより、オムライスの食事会が始まった。
「どこまで石化したのよ、正直に言いなさい」
いつもの調子を取り戻したアーニャは、臆することなくルーナに尋ねる。
「……えっと、太ももの半分くらいまで」
今まで姉に黙っていたこともあって、ルーナの口は重いが。
「右側なの? 左側なの?」
「……両方、かな」
「そう」
怒ってないから普通に話しなさいよ、という雰囲気を出しているアーニャは、石化の状況をアッサリと聞き入れた。それくらいなら予想していたわ、と言わんばかりにオムライスをはむはむと食べ始め……。
(なんで両側の太ももまで石化してんのよー! 今度は膝上まで石化する予定だったじゃない! しかも、両足ってどういうこと!? 左足の侵蝕は遅いって、前は言ってたじゃないの!)
内心はパニック状態であり、オムライスを食べなければやっていけないわ! と、はむはむ食べ始めただけだった。通称、やけ食いである。
やっぱりショックだったんだろうなーと、アーニャの心に気づいたエリスは、重い空気にならないように話題を変える。
「ルーナちゃんがよければ、しばらく私もジルもここに泊まろっか?」
「いえ、それはエリスさんにもジルくんにも悪いですし、今日だけで構いません。本当に、あの、今は私も落ち着いてますから、心配しないでください」
「で、本当は?」
「うぅ……。お願い、します」
「素直でよろしい」
なんだかんだで、ルーナはエリスに弱い。献身的に身の回りの世話をしてくれるエリスを、ルーナは家族の一員だと思っているから。
破壊神という二つ名で誤解されやすい姉を理解して、呪われている自分を嫌な顔一つせずに受け入れてくれる。気兼ねなく話ができる気配り上手のエリスは、姉という言葉がピッタリの大きな存在となっていた。
本当の姉であるアーニャは、オムライスに夢中だが。
「ジルもそれでいいよね?」
「ふえっ!? う……うん」
そして、誰よりも恥ずかしそうにオムライスを食べるのは、ジルだった。
――どうしよう! 僕、アーニャお姉ちゃんとルーナお姉ちゃんの、どっちのお婿さんになればいいの? そんなの選べないよぉ。
ジルの心は、さらに加速して飛躍する。デートをしたことがなければ、キスもしたことがない。それでも、頭の中には結婚の二文字がドーンッ! と刻まれていた。誰も愛の告白をしていないにもかかわらず!
「で、誰と誰が一緒に寝るのよ」
そんなジルの気持ちをまったく理解できていないアーニャは、無駄にリーダーシップを取り、部屋割りの提案を始めた。頭から蒸気がボンッ! と噴出しそうになったジルの飛躍は、さらに加速してしまう!
――あ、アーニャお姉ちゃん、大胆だよぉ。エリスお姉ちゃんがいる前で、そんな……。
ジルの頭の中では、『家族以外で一緒に寝る=夫婦』の図式が成り立っているため、アーニャの言葉の意味を完全に誤解していた。誰と誰が一緒に寝るのかという言葉を、誰と誰が結婚するのか、と解釈している。
体温が急上昇したジルは高速でパパッと首を動し、部屋の男女比を確認。当然のことながら、部屋の中に男はジルしかいない。それはもう、そういうこと!
ジルの妄想という飛躍は留まることを知らないのだ!
「えっ、姉さんも一緒に寝るの?」
姉さんもジルくんと結婚したいの? と、ジルの頭では瞬時に脳内変換される。
「なによ。私は一緒じゃダメなの?」
私も一緒に結婚しちゃダメなの? と、ジルは重婚を迫られたと誤解した! もはや、聞き間違いのプロ!
「ううん、そんなことないよ。最近、姉さんが構ってくれなかったから、ちょっと意外だっただけ」
「好きでそうしてたわけじゃないわよ。私だって、色々……」
「あー、もう。ルーナちゃんは責めてるわけじゃないんですから、拗ねないでください」
「拗ねてないわよ! もう、何でもいいわ。とにかく、今日は……」
「何でもよくないよっ!!」
みんなでルーナの部屋に集まって、仲良く寝ることが決まろうとしていた時だ。様々な脳内変換で、一人だけ何でも良くない重要な話をしていると思ったジルは、声を荒げた。
結婚という重大な案件が、何でもいいとは絶対にならない。仕事や財産といった現実的な問題よりも、子供のジルは一番大事なことを確認したくて仕方がない!
「あ、アーニャお姉ちゃんは、ほ、本当に好きなの?」
愛である! 愛がなければ、結婚はできない! 顔を真っ赤にしたジルは、真実の愛を求めて、アーニャに問いかけたのだ! 本当にアーニャは、自分のことが好きなのかと。
しかし、アーニャはどうだろうか。言葉を濁して話していたため、子供のジルは理解できなかっただけ、と思うにすぎない。アーニャとルーナの関係を心配して、熱心に仲介に入ったのだと。そのため、答えてあげないのは、ちょっと大人げない。
「ま、まあ、それは、そうじゃないの」
「ハッキリ言葉にしてくれなきゃ、ぼ、僕はわからないもん!」
どうしてハッキリ言わせるのよ! というアーニャの気持ちがジルには届かない。ルーナに向けられる愛の言葉を聞いて、ジルは自分の結婚を決めようと思っているのだ! 頭の中がアーニャ色に染まるほどに!!
なぜかジルに追い詰められたアーニャは、羞恥心でいっぱいになり、あわわわっと口が動く。不安でいっぱいの妹が見守るいま、今日だけは大事な妹に誤解をさせるわけにもいかなかった。
恥ずかしい気持ちを我慢して、いや、我慢なんてできないほど恥ずかしいけど、アーニャは頑張って口にする!
「す、好きに、決まってるじゃない。大切だから、一緒にいるんだし」
ただの姉妹愛で、ジルの胸のときめきが止まらない!
「私も大好きだよ。いつも感謝してるの。姉さんと一緒じゃなきゃ、私は何もできないから」
大好きっ! しかも、アーニャと一緒じゃなきゃルーナは結婚しないと、ジルは都合の良すぎる聞き間違いしてしまう!
そんな愛の告白を受けて、ジルは、ジルは……!
「ふああっ!? 二人とも、えっちー!」
興奮に耐えることができず、部屋を飛び出していくのだった。
貴族街ということもあり、宿屋や居酒屋の賑やかな声が聞こえてこない。シーンと静寂が包み込む闇夜は寂しさを助長させるようで、心が不安定なアーニャとルーナを残して帰ることができず、ジルとエリスはお泊りをすることになった。
包容力のある姿をルーナに見せたばかりのジルは、必要以上に意識してしまっているが。
――女の人の家に泊まるなんて、どうしよう。僕、結婚するのかなぁ。
話を飛躍させるジルが愛情てんこ盛りのオムライスを作り終えると、エリスとアーニャと一緒にルーナの部屋へ運ぶ。そして、ベッドの周りに椅子だけを持ちより、オムライスの食事会が始まった。
「どこまで石化したのよ、正直に言いなさい」
いつもの調子を取り戻したアーニャは、臆することなくルーナに尋ねる。
「……えっと、太ももの半分くらいまで」
今まで姉に黙っていたこともあって、ルーナの口は重いが。
「右側なの? 左側なの?」
「……両方、かな」
「そう」
怒ってないから普通に話しなさいよ、という雰囲気を出しているアーニャは、石化の状況をアッサリと聞き入れた。それくらいなら予想していたわ、と言わんばかりにオムライスをはむはむと食べ始め……。
(なんで両側の太ももまで石化してんのよー! 今度は膝上まで石化する予定だったじゃない! しかも、両足ってどういうこと!? 左足の侵蝕は遅いって、前は言ってたじゃないの!)
内心はパニック状態であり、オムライスを食べなければやっていけないわ! と、はむはむ食べ始めただけだった。通称、やけ食いである。
やっぱりショックだったんだろうなーと、アーニャの心に気づいたエリスは、重い空気にならないように話題を変える。
「ルーナちゃんがよければ、しばらく私もジルもここに泊まろっか?」
「いえ、それはエリスさんにもジルくんにも悪いですし、今日だけで構いません。本当に、あの、今は私も落ち着いてますから、心配しないでください」
「で、本当は?」
「うぅ……。お願い、します」
「素直でよろしい」
なんだかんだで、ルーナはエリスに弱い。献身的に身の回りの世話をしてくれるエリスを、ルーナは家族の一員だと思っているから。
破壊神という二つ名で誤解されやすい姉を理解して、呪われている自分を嫌な顔一つせずに受け入れてくれる。気兼ねなく話ができる気配り上手のエリスは、姉という言葉がピッタリの大きな存在となっていた。
本当の姉であるアーニャは、オムライスに夢中だが。
「ジルもそれでいいよね?」
「ふえっ!? う……うん」
そして、誰よりも恥ずかしそうにオムライスを食べるのは、ジルだった。
――どうしよう! 僕、アーニャお姉ちゃんとルーナお姉ちゃんの、どっちのお婿さんになればいいの? そんなの選べないよぉ。
ジルの心は、さらに加速して飛躍する。デートをしたことがなければ、キスもしたことがない。それでも、頭の中には結婚の二文字がドーンッ! と刻まれていた。誰も愛の告白をしていないにもかかわらず!
「で、誰と誰が一緒に寝るのよ」
そんなジルの気持ちをまったく理解できていないアーニャは、無駄にリーダーシップを取り、部屋割りの提案を始めた。頭から蒸気がボンッ! と噴出しそうになったジルの飛躍は、さらに加速してしまう!
――あ、アーニャお姉ちゃん、大胆だよぉ。エリスお姉ちゃんがいる前で、そんな……。
ジルの頭の中では、『家族以外で一緒に寝る=夫婦』の図式が成り立っているため、アーニャの言葉の意味を完全に誤解していた。誰と誰が一緒に寝るのかという言葉を、誰と誰が結婚するのか、と解釈している。
体温が急上昇したジルは高速でパパッと首を動し、部屋の男女比を確認。当然のことながら、部屋の中に男はジルしかいない。それはもう、そういうこと!
ジルの妄想という飛躍は留まることを知らないのだ!
「えっ、姉さんも一緒に寝るの?」
姉さんもジルくんと結婚したいの? と、ジルの頭では瞬時に脳内変換される。
「なによ。私は一緒じゃダメなの?」
私も一緒に結婚しちゃダメなの? と、ジルは重婚を迫られたと誤解した! もはや、聞き間違いのプロ!
「ううん、そんなことないよ。最近、姉さんが構ってくれなかったから、ちょっと意外だっただけ」
「好きでそうしてたわけじゃないわよ。私だって、色々……」
「あー、もう。ルーナちゃんは責めてるわけじゃないんですから、拗ねないでください」
「拗ねてないわよ! もう、何でもいいわ。とにかく、今日は……」
「何でもよくないよっ!!」
みんなでルーナの部屋に集まって、仲良く寝ることが決まろうとしていた時だ。様々な脳内変換で、一人だけ何でも良くない重要な話をしていると思ったジルは、声を荒げた。
結婚という重大な案件が、何でもいいとは絶対にならない。仕事や財産といった現実的な問題よりも、子供のジルは一番大事なことを確認したくて仕方がない!
「あ、アーニャお姉ちゃんは、ほ、本当に好きなの?」
愛である! 愛がなければ、結婚はできない! 顔を真っ赤にしたジルは、真実の愛を求めて、アーニャに問いかけたのだ! 本当にアーニャは、自分のことが好きなのかと。
しかし、アーニャはどうだろうか。言葉を濁して話していたため、子供のジルは理解できなかっただけ、と思うにすぎない。アーニャとルーナの関係を心配して、熱心に仲介に入ったのだと。そのため、答えてあげないのは、ちょっと大人げない。
「ま、まあ、それは、そうじゃないの」
「ハッキリ言葉にしてくれなきゃ、ぼ、僕はわからないもん!」
どうしてハッキリ言わせるのよ! というアーニャの気持ちがジルには届かない。ルーナに向けられる愛の言葉を聞いて、ジルは自分の結婚を決めようと思っているのだ! 頭の中がアーニャ色に染まるほどに!!
なぜかジルに追い詰められたアーニャは、羞恥心でいっぱいになり、あわわわっと口が動く。不安でいっぱいの妹が見守るいま、今日だけは大事な妹に誤解をさせるわけにもいかなかった。
恥ずかしい気持ちを我慢して、いや、我慢なんてできないほど恥ずかしいけど、アーニャは頑張って口にする!
「す、好きに、決まってるじゃない。大切だから、一緒にいるんだし」
ただの姉妹愛で、ジルの胸のときめきが止まらない!
「私も大好きだよ。いつも感謝してるの。姉さんと一緒じゃなきゃ、私は何もできないから」
大好きっ! しかも、アーニャと一緒じゃなきゃルーナは結婚しないと、ジルは都合の良すぎる聞き間違いしてしまう!
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