64 / 99
第二章
第64話:魔力酔い
しおりを挟む
昼ごはんを食べたアーニャとジルは、月光草の採取へ向かうために、再び足を動かした。
静かに歩き進めた甲斐もあって、魔物に出会う回数は少なく、予定よりもジェムの消費を抑えることに成功。日が暮れる頃には、月光草を採取する山の麓に到着……したまではよかったものの、アーニャが足を止めると同時に、力が抜けるようにジルがバランスを崩す。それに気づいたアーニャがジルの体を支えた。
「ごめんなさい。さっきから気持ち悪くって」
「早く言いなさいよ。大丈夫だと思って、普通に歩いてたじゃないの。まあいいわ、今日はここで休む予定だったから、先に横になっていなさい」
「うん……」
ジルを横に寝かせた後、アーニャはマジックポーチから手の平サイズの小さな石を四つ取り出し、自分たちを囲うように置いた。その石にアーニャが一つずつ魔力を流し入れていくと、共鳴するように輝き始める。
「アーニャお姉ちゃん、それは?」
「高ランクの魔石をうまく加工すると、結界を作れるようになるの。長くても半日しか持たないし、コスパは最悪なんだけどね。安全に夜を過ごせるっていう意味では、便利なアイテムになるわ」
Bランク以上の魔石を四つも使用しなければならない結界石は、最低費用が四百万円であり、効果はたったの半日だけ。安全に夜をやり過ごせるとはいえ、使われるケースは稀になる。普通はパーティメンバーと交互に見張りをして、魔物を警戒するから。
「アーニャお姉ちゃんは何でも知ってて、すごいよね。僕なんか、歩いてただけでこうなっちゃったのに」
「別にすごくはないわ、経験の差よ。それに、あんたが気持ち悪くなったのは、先導していた私の不注意でもあるわ。魔力酔いが起こることを忘れていたのよ」
月光草という特殊な薬草が育つこの山は、土地全体が特殊な強い魔力を帯びている。ジルのように魔力やマナに敏感な人間が近づくと、必要以上に身体に干渉してしまい、体調不良を起こすケースが多い。
当然、アーニャはそのことを考え、早朝に出発していた。一晩ここで過ごして体を慣れさせ、翌日に採取をしようと思っていたのだが……、いつも以上に魔物を警戒していたこともあり、それどころではなかった。
「お酒も飲んでないのに、酔っぱらっちゃうの?」
「まあ、そんなとこよ。マナや魔力に敏感な人はね、身体に影響を受けやすいの。この土地の魔力に体が馴染めば、すぐに落ち着いてくるわ。だから、今日はゆっくり寝てなさい」
「うん。アーニャお姉ちゃんは大丈夫なんだね」
「私も魔力酔いしやすい方だけど、体が慣れてたみたいで違和感がないのよね。だから、まだ大丈夫だと思って油断してたの。嫌な思いをさせて悪かったわね」
弱々しく首を横に振るジルを見て、アーニャは胸をキュッと締め付けられた。
嫌な顔一つせずに同行の許可をくれたエリスと、弱体化したことを知っても行動を共にしてくれるジル。二人の信頼を裏切っているような気がして、自分の不甲斐なさを痛感する。
昨日は徹夜して安全対策を強化し、できる限りの準備はしてきたつもりだった。でも、声も出せないくらい気持ち悪そうなジルを見れば、言い訳にもならないと感じてしまう。
「たまに、魔力酔いでめちゃくちゃ気持ち悪くなる人がいるわ。何かやってあげられるわけでもないけど、本当に大丈夫なの?」
自分がそういう人だと、アーニャは言わない。魔力酔いのツラさを知っていたのに、ジルの顔色すら確認せずに歩いていたのだから。
素直に、ごめん、と謝れない自分が情けない。
「呪いで寝込んでたときより、全然楽だよ。あのときは、呼吸も苦しかったもん」
心配そうにジルの顔色を覗き込むアーニャに、ジルは優しく微笑む。
ジルは不謹慎だと思いつつも、アーニャが心配してくれて嬉しい。大切に思ってくれているんだなと、悲しそうな表情から伝わってくる。
「比較対象が重すぎるわ。全然参考にならないじゃないの。まあ、大丈夫ならいいわ。あんたは動けそうにないし、今から私がオムライスを作ろうと思うんだけど、一緒に食べるなら作ってあげるわよ?」
「アーニャお姉ちゃんのオムライスは食べたいけど、今は食べられないかなぁ」
「そう。何かあったら、今度は黙ってないでちゃんと言うのよ。わかったわね?」
「はーい」
朝から歩き続ければ、お腹が空くのも当然のこと。結界石の中であれば、香りや音を出しても周りに気づかれることはないため、普通に過ごせる利点は大きかった。
ジルのことを気にしながらも、マジックポーチから料理セットを一式取り出したアーニャは、野外で調理を始める。
手慣れた動きとは言えないものの、アーニャが手間取る様子はない。月光草の採取に来るときや、夜食で食べるオムライスは自分で作っている。なんとなーくであれば、料理ができるのだ。……おいしいとは限らないが。
必死になってアーニャが料理をした結果、一応、皿の上にはオムライスが出来上がる。
黄色いはずの卵が黒く染まり、上からケチャップをかけても誤魔化しきれない、無惨なオムライス。ジルが食べると言わないでよかったと思うくらいには、見た目がよろしくなかった。
黒焦げオムライスを見せたくないアーニャは、ジルに背を向けて食べ始める。
(なんか、おいしくないわね。こんなに料理が下手だったかしら)
ベチャベチャと水分の多いチキンライスに、焦げた卵の苦味が合わさるだけでなく、ケチャップの量が多くて、味が濃い。中和するために飲む水が一番おいしいと感じるのは、さすがに切なかった。
大好きなオムライスがおいしくなくて、哀愁が漂うアーニャの後ろ姿を見たジルは、嬉しそうに笑い始める。
「アーニャお姉ちゃんは料理ができないんだね。ルーナお姉ちゃんが教えてくれた通りだぁ」
作るところをちゃっかり見てるんじゃないわよ、隠した意味がないわ、と、ちょっぴりアーニャは拗ねる。
「毎日ルーナと仲良く話してると思ったら、何の話をしてるのよ。私は器用な方だけど、完璧な人間じゃないの。できないことなんて山ほどあるわ」
「でも、料理と錬金術は似てるよね?」
「面倒な作業が多くて、作ってる最中にイライラするところは似てるわね。火にかけて放っておくと、黒く焦げるところも似てるわ」
「火力が強いだけだよ。アーニャお姉ちゃんなら、上手に作れるようになると思うよ」
「却下ね。私は食べる専門でいいの。料理はあんたに任せるわよ」
「そっかぁ。ごめんね、今日は作れなくて」
「責めるために言ったんじゃないわ。それより、本当に大丈夫なの? 月光草の採取にはルーナの命もかかってるんだし、痩せ我慢はしなくてもいいのよ。何かあれば、遠慮なく言いなさい」
子供なのにまったく我が儘を言わないジルに、アーニャの心配は加速していた。
(昼ごはんを食べたあたりから、不自然なくらい静かだったわね。俯いて歩いていたし、手を繋ぐ力も弱かった気がする。普通では考えられないけど、随分前から魔力酔いの傾向があったんじゃないかしら)
それでも、嫌な顔を一つせずに歩いてきたなんて……と、感慨深い思いになるアーニャは、ジルの恋心に気づかない! アーニャを恋愛対象と意識したジルは、ピクニックデートをしている気分だったのだ。
恋愛経験が乏しいジルは、幸せすぎて力が抜け落ち、アーニャと目線を合わせられなくなるほど恥ずかしかっただけ。力強く握り締めてくれる手を意識して頭がパンクしていたし、魔物を守ってくれる姿はかっこよかった。しかも、何度大丈夫だと言っても、アーニャは心配してくれる!
年上のお姉さんに優しくされ続けたジルは、もう、恋愛のブレーキが壊れてしまう……。
「えっと、じゃあ、一つだけお願いしてもいい?」
「やっぱり我慢してたんじゃないの。ここまで私に気を遣わせるなんて、あんたくらいしかいないわよ、まったく。それで、どうしたのよ。喉が乾いたの? お腹が空いた? ああ、わかったわ。背中に毛布を引いてほしいのね。仕方ないわね、私の毛布を貸してあげ……」
「傍に、いってもいい?」
「……はぇ?」
アーニャは混乱する!
酷い魔力酔いをした経験があるにもかかわらず、まったくジルの心が読めない。周囲が暗いこともあり、ジルが頬を桜色に染めていることにも、アーニャは気づかなかった!
「だ、だって、周りが暗くて怖いんだもん。アーニャお姉ちゃんが近くにいてくれないと、寂しくって」
恋愛のアクセルをベッターーーッ! と踏み込むジルは、過去一番といっても過言ではないくらい積極的になり、アーニャに甘える!
「……はぇ?」
しかし、アーニャはぜっっっんぜん気づかない! ジル以上に恋愛経験の乏しいアーニャは、鈍感すぎるのだ!
「やっぱり、ダメ?」
「べ、別にそれくらいならいいわよ。ちょっと待っていなさい。片付けだけしたら、そっちに行ってあげるわ」
動揺するアーニャは、ひゃあ!? と小さな小石でつまづき、ガシャンガシャンと鍋やらフライパンを落とし、てんやわんやで後片付けを済ませる。そして、一応、歯を磨く。
これは、やましい気持ちや変な思いはなく、ただのエチケットである。近くにいてほしいと頼んだら、急に口がケチャップ臭い女性が現れるのは可哀想だと、気遣いのできる女、アーニャは思ったのだ。
(わかったわ、エリスが恋しくなってしまったのね。夜は心の弱い部分が出やすくなるもの。魔力酔いをさせた私にも責任はあるし、今だけ私はエリスになるわ)
予想だにしていないジルのお願いに、アーニャは冷静になることができなかった。私はエリス、私はエリス、と謎の呪文を心で呟き、ジルの手を握ってあげる。
「アーニャお姉ちゃんの手、あったかいね」
何とも言えない気持ちに襲われたアーニャは、戦闘もしていないのにちょっぴり鼓動が早くなり、なかなか寝付けなくなるのだった。
静かに歩き進めた甲斐もあって、魔物に出会う回数は少なく、予定よりもジェムの消費を抑えることに成功。日が暮れる頃には、月光草を採取する山の麓に到着……したまではよかったものの、アーニャが足を止めると同時に、力が抜けるようにジルがバランスを崩す。それに気づいたアーニャがジルの体を支えた。
「ごめんなさい。さっきから気持ち悪くって」
「早く言いなさいよ。大丈夫だと思って、普通に歩いてたじゃないの。まあいいわ、今日はここで休む予定だったから、先に横になっていなさい」
「うん……」
ジルを横に寝かせた後、アーニャはマジックポーチから手の平サイズの小さな石を四つ取り出し、自分たちを囲うように置いた。その石にアーニャが一つずつ魔力を流し入れていくと、共鳴するように輝き始める。
「アーニャお姉ちゃん、それは?」
「高ランクの魔石をうまく加工すると、結界を作れるようになるの。長くても半日しか持たないし、コスパは最悪なんだけどね。安全に夜を過ごせるっていう意味では、便利なアイテムになるわ」
Bランク以上の魔石を四つも使用しなければならない結界石は、最低費用が四百万円であり、効果はたったの半日だけ。安全に夜をやり過ごせるとはいえ、使われるケースは稀になる。普通はパーティメンバーと交互に見張りをして、魔物を警戒するから。
「アーニャお姉ちゃんは何でも知ってて、すごいよね。僕なんか、歩いてただけでこうなっちゃったのに」
「別にすごくはないわ、経験の差よ。それに、あんたが気持ち悪くなったのは、先導していた私の不注意でもあるわ。魔力酔いが起こることを忘れていたのよ」
月光草という特殊な薬草が育つこの山は、土地全体が特殊な強い魔力を帯びている。ジルのように魔力やマナに敏感な人間が近づくと、必要以上に身体に干渉してしまい、体調不良を起こすケースが多い。
当然、アーニャはそのことを考え、早朝に出発していた。一晩ここで過ごして体を慣れさせ、翌日に採取をしようと思っていたのだが……、いつも以上に魔物を警戒していたこともあり、それどころではなかった。
「お酒も飲んでないのに、酔っぱらっちゃうの?」
「まあ、そんなとこよ。マナや魔力に敏感な人はね、身体に影響を受けやすいの。この土地の魔力に体が馴染めば、すぐに落ち着いてくるわ。だから、今日はゆっくり寝てなさい」
「うん。アーニャお姉ちゃんは大丈夫なんだね」
「私も魔力酔いしやすい方だけど、体が慣れてたみたいで違和感がないのよね。だから、まだ大丈夫だと思って油断してたの。嫌な思いをさせて悪かったわね」
弱々しく首を横に振るジルを見て、アーニャは胸をキュッと締め付けられた。
嫌な顔一つせずに同行の許可をくれたエリスと、弱体化したことを知っても行動を共にしてくれるジル。二人の信頼を裏切っているような気がして、自分の不甲斐なさを痛感する。
昨日は徹夜して安全対策を強化し、できる限りの準備はしてきたつもりだった。でも、声も出せないくらい気持ち悪そうなジルを見れば、言い訳にもならないと感じてしまう。
「たまに、魔力酔いでめちゃくちゃ気持ち悪くなる人がいるわ。何かやってあげられるわけでもないけど、本当に大丈夫なの?」
自分がそういう人だと、アーニャは言わない。魔力酔いのツラさを知っていたのに、ジルの顔色すら確認せずに歩いていたのだから。
素直に、ごめん、と謝れない自分が情けない。
「呪いで寝込んでたときより、全然楽だよ。あのときは、呼吸も苦しかったもん」
心配そうにジルの顔色を覗き込むアーニャに、ジルは優しく微笑む。
ジルは不謹慎だと思いつつも、アーニャが心配してくれて嬉しい。大切に思ってくれているんだなと、悲しそうな表情から伝わってくる。
「比較対象が重すぎるわ。全然参考にならないじゃないの。まあ、大丈夫ならいいわ。あんたは動けそうにないし、今から私がオムライスを作ろうと思うんだけど、一緒に食べるなら作ってあげるわよ?」
「アーニャお姉ちゃんのオムライスは食べたいけど、今は食べられないかなぁ」
「そう。何かあったら、今度は黙ってないでちゃんと言うのよ。わかったわね?」
「はーい」
朝から歩き続ければ、お腹が空くのも当然のこと。結界石の中であれば、香りや音を出しても周りに気づかれることはないため、普通に過ごせる利点は大きかった。
ジルのことを気にしながらも、マジックポーチから料理セットを一式取り出したアーニャは、野外で調理を始める。
手慣れた動きとは言えないものの、アーニャが手間取る様子はない。月光草の採取に来るときや、夜食で食べるオムライスは自分で作っている。なんとなーくであれば、料理ができるのだ。……おいしいとは限らないが。
必死になってアーニャが料理をした結果、一応、皿の上にはオムライスが出来上がる。
黄色いはずの卵が黒く染まり、上からケチャップをかけても誤魔化しきれない、無惨なオムライス。ジルが食べると言わないでよかったと思うくらいには、見た目がよろしくなかった。
黒焦げオムライスを見せたくないアーニャは、ジルに背を向けて食べ始める。
(なんか、おいしくないわね。こんなに料理が下手だったかしら)
ベチャベチャと水分の多いチキンライスに、焦げた卵の苦味が合わさるだけでなく、ケチャップの量が多くて、味が濃い。中和するために飲む水が一番おいしいと感じるのは、さすがに切なかった。
大好きなオムライスがおいしくなくて、哀愁が漂うアーニャの後ろ姿を見たジルは、嬉しそうに笑い始める。
「アーニャお姉ちゃんは料理ができないんだね。ルーナお姉ちゃんが教えてくれた通りだぁ」
作るところをちゃっかり見てるんじゃないわよ、隠した意味がないわ、と、ちょっぴりアーニャは拗ねる。
「毎日ルーナと仲良く話してると思ったら、何の話をしてるのよ。私は器用な方だけど、完璧な人間じゃないの。できないことなんて山ほどあるわ」
「でも、料理と錬金術は似てるよね?」
「面倒な作業が多くて、作ってる最中にイライラするところは似てるわね。火にかけて放っておくと、黒く焦げるところも似てるわ」
「火力が強いだけだよ。アーニャお姉ちゃんなら、上手に作れるようになると思うよ」
「却下ね。私は食べる専門でいいの。料理はあんたに任せるわよ」
「そっかぁ。ごめんね、今日は作れなくて」
「責めるために言ったんじゃないわ。それより、本当に大丈夫なの? 月光草の採取にはルーナの命もかかってるんだし、痩せ我慢はしなくてもいいのよ。何かあれば、遠慮なく言いなさい」
子供なのにまったく我が儘を言わないジルに、アーニャの心配は加速していた。
(昼ごはんを食べたあたりから、不自然なくらい静かだったわね。俯いて歩いていたし、手を繋ぐ力も弱かった気がする。普通では考えられないけど、随分前から魔力酔いの傾向があったんじゃないかしら)
それでも、嫌な顔を一つせずに歩いてきたなんて……と、感慨深い思いになるアーニャは、ジルの恋心に気づかない! アーニャを恋愛対象と意識したジルは、ピクニックデートをしている気分だったのだ。
恋愛経験が乏しいジルは、幸せすぎて力が抜け落ち、アーニャと目線を合わせられなくなるほど恥ずかしかっただけ。力強く握り締めてくれる手を意識して頭がパンクしていたし、魔物を守ってくれる姿はかっこよかった。しかも、何度大丈夫だと言っても、アーニャは心配してくれる!
年上のお姉さんに優しくされ続けたジルは、もう、恋愛のブレーキが壊れてしまう……。
「えっと、じゃあ、一つだけお願いしてもいい?」
「やっぱり我慢してたんじゃないの。ここまで私に気を遣わせるなんて、あんたくらいしかいないわよ、まったく。それで、どうしたのよ。喉が乾いたの? お腹が空いた? ああ、わかったわ。背中に毛布を引いてほしいのね。仕方ないわね、私の毛布を貸してあげ……」
「傍に、いってもいい?」
「……はぇ?」
アーニャは混乱する!
酷い魔力酔いをした経験があるにもかかわらず、まったくジルの心が読めない。周囲が暗いこともあり、ジルが頬を桜色に染めていることにも、アーニャは気づかなかった!
「だ、だって、周りが暗くて怖いんだもん。アーニャお姉ちゃんが近くにいてくれないと、寂しくって」
恋愛のアクセルをベッターーーッ! と踏み込むジルは、過去一番といっても過言ではないくらい積極的になり、アーニャに甘える!
「……はぇ?」
しかし、アーニャはぜっっっんぜん気づかない! ジル以上に恋愛経験の乏しいアーニャは、鈍感すぎるのだ!
「やっぱり、ダメ?」
「べ、別にそれくらいならいいわよ。ちょっと待っていなさい。片付けだけしたら、そっちに行ってあげるわ」
動揺するアーニャは、ひゃあ!? と小さな小石でつまづき、ガシャンガシャンと鍋やらフライパンを落とし、てんやわんやで後片付けを済ませる。そして、一応、歯を磨く。
これは、やましい気持ちや変な思いはなく、ただのエチケットである。近くにいてほしいと頼んだら、急に口がケチャップ臭い女性が現れるのは可哀想だと、気遣いのできる女、アーニャは思ったのだ。
(わかったわ、エリスが恋しくなってしまったのね。夜は心の弱い部分が出やすくなるもの。魔力酔いをさせた私にも責任はあるし、今だけ私はエリスになるわ)
予想だにしていないジルのお願いに、アーニャは冷静になることができなかった。私はエリス、私はエリス、と謎の呪文を心で呟き、ジルの手を握ってあげる。
「アーニャお姉ちゃんの手、あったかいね」
何とも言えない気持ちに襲われたアーニャは、戦闘もしていないのにちょっぴり鼓動が早くなり、なかなか寝付けなくなるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる