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第二章
第99話:ピクニック
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アーニャとジルでエリクサーを作った、一か月後のこと。キッチンで卵を焼くルーナの姿があった。
「こんな形で大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
以前、料理を教えてもらう約束をしていたルーナは、ジルと一緒に朝ごはんを作っている。半熟卵のオムライスを自分の手で作るという些細な夢を叶えるために、毎日練習を重ねていた。
その姿を机に座って眺める二人の姉は、対照的な表情をしている。
「ルーナが動いてるわ。見て、エリス。ルーナが動いてるの」
「気持ちはわかりますけど、いい加減に慣れてくださいね。普通に料理を作ってるだけですから」
「だって、ルーナが、ルーナが……!」
「あー、はいはい。よしよし、アーニャさんも頑張りましたね。偉いですよー」
二年間もベッド生活をしていたルーナが普通に動く姿を見て、アーニャの感動は止まらない。ルーナがエリクサーで石化の呪いが解けた後、本人よりも大泣きしたアーニャは、変な泣き癖が付いてしまっていた。
「うーん、これが一番上手にできたから、姉さんの分ね」
「ル゛ー゛ー゛ー゛ナ゛!」
今まで世話をしてくれた姉を甘やかすルーナにも、原因はあるだろう。しかし、二年も頑張って治療薬を作り続けてくれた姉には、感謝の思いしかなく、ついつい甘やかしたくなってしまう。
「姉さん、牛乳飲むよね。最近少し寒くなってきたから、ホットミルクにしておいたよ」
「ル゛ー゛ー゛ー゛ナ゛!」
涙で前が見えなくても、焼け食いするかのように、アーニャはオムライスをバクバクと食べ始める。
ぶっちゃけ、味なんて何も感じていない。最愛の妹が作ってくれたオムライスを食べる喜びに、アーニャは胸がいっぱいだった。
一方、同じく呪いで苦しんだことのあるジルとエリスの姉弟は、随分と落ち着いたものとなっていた。
「はい、エリスお姉ちゃんはフレンチトーストね」
「ありがとう、ジル。朝ごはんがパンなだけで落ち着くよ」
当然、毎食オムライスを食べ続けるのはツライため、エリスは違うものを食べるようになった。さすがのオムライス信者も文句を言うことはない。
ジルはルーナと一緒に作ったオムライスを食べるが。
「う゛ぁ゛~~~゛ん゛! オ゛ム゛ラ゛イ゛ス゛~゛!」
一人だけ騒がしく食べるアーニャの叫び声だけが、こだましていた。
***
朝ごはんを食べ終えた四人は、戸締りを確認して、身支度を始める。
「今日はピクニックの日だからね。エリスお姉ちゃんも仕事に行ったらダメだよ!」
ルーナが元気になったら一緒に行こうと言っていた、四人でのピクニック。冒険者であるアーニャとルーナは予定がなくても、錬金術ギルドの職員であるエリスだけは都合があるため、ジルは厳しくチェックしていた。
「大丈夫だって言ったでしょ。ルーナちゃんが元気になったら、なぜか私まで称賛されたんだもん。ずっと仕事をサボってるような状態だったのに、特別休暇までもらえるなんて、いったいどうなってるんだろう」
エリス自身は気づいていないが、ルーナがいない間にアーニャを抑えてくれた功績は大きく評価されている。ルーナの治療が終わった後も、アーニャが錬金術を続けていることもあり、今やエリスは……。
「ちゃんとお手紙も出した? サブマスターのお仕事でしょ?」
錬金術ギルドのサブマスターに就任して、重要人物との懸け橋の役目を担っていた。公爵家のミレイユと文通して、【創造神】アーニャを手懐けるエリスは、今や不動の存在となっている。
「そっちもわからないのよね。どうして私がミレイユ様と文通してるのかな。しかもミレイユ様って、手紙だとすごい女の子っぽいの。なんか手紙でやり取りしてると、調子が狂っちゃうんだよねー」
だが、これまた本人は知らない。実はミレイユが猫を被り続け、ずっとエリスを心配していたことを。実は友達になりたいと思い、お茶会に誘おうとしていることを!
「サブマスターとして付き合いは増えるし、これからはもう少し距離を縮めようかな。本当は貴族っぽくない、ただの女の子みたいだし」
「それで、手紙の返事は書いたの?」
「ピクニックから帰って来たら、書いて返信するの。お土産話も書いた方が仲良くなれる気がするし、まだ何を書いていいかわからないんだもん」
今まで貴族を毛嫌いしていたエリスは、ミレイユと向き合おうとしている。その結果、絶対的な地位を築き上げ、【絶対神】と呼ばれるようになるのは……、もう少し先の話。
その前に今は、ピクニック! なんだかんだで楽しみにしているアーニャが、スキップをしながら呼びに来るほど、ウキウキモードなのだ!
「なにしてるのよ。早くしないと置いてくわよ」
「早くして、エリスお姉ちゃん! 置いてかれちゃうよー!」
「わかったから、焦らせないで。まだマジックポーチの中がどうなってるのかわからなくて、うまく整理できないんだから」
「必要そうなものは突っ込んで、後で整理したらいいわ。何か足りなくなったとしても、ルーナに聞けば何とかなるものよ」
完全に妹任せなアーニャは、エリスの腰をガシッとつかみ、軽々しくひょいっと持ち上げる。急に体が宙に浮いたエリスは、マジックポーチに手を入れたまま、てんやわんやとしていた。
「ええっ!? アーニャさん!? 怪力すぎますよ!」
「相手が悪かったわね、エリス。私を誰だと思ってるのよ。そうよね、ジル?」
「破壊神だもんねー」
ひそかにエリクサーをもう一つ作り、アーニャに施された魔力の封印が解けていることを、これまたエリスは知らない。この世で一番危険な破壊神に運ばれ、玄関に向かうと、そこにはルーナが待っていた。
「姉さん、靴を磨いておいたよ」
「ル゛ー゛ー゛ー゛ナ゛!」
「私を持ち上げながら泣かないでください! 怖いですよ、アーニャさん!」
「ルーナお姉ちゃん、僕の靴も磨いてほしいなー」
この日、グダグダしながらもピクニックへ向かった四人は、西門を経由して、月の洞窟を目指す。月光草が生える綺麗な空間を見るため、仲良く手を繋いで歩いていく。
普通にみんなで出掛けられること、そんな些細なことに幸せを感じながら。
―――FIN―――
「こんな形で大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
以前、料理を教えてもらう約束をしていたルーナは、ジルと一緒に朝ごはんを作っている。半熟卵のオムライスを自分の手で作るという些細な夢を叶えるために、毎日練習を重ねていた。
その姿を机に座って眺める二人の姉は、対照的な表情をしている。
「ルーナが動いてるわ。見て、エリス。ルーナが動いてるの」
「気持ちはわかりますけど、いい加減に慣れてくださいね。普通に料理を作ってるだけですから」
「だって、ルーナが、ルーナが……!」
「あー、はいはい。よしよし、アーニャさんも頑張りましたね。偉いですよー」
二年間もベッド生活をしていたルーナが普通に動く姿を見て、アーニャの感動は止まらない。ルーナがエリクサーで石化の呪いが解けた後、本人よりも大泣きしたアーニャは、変な泣き癖が付いてしまっていた。
「うーん、これが一番上手にできたから、姉さんの分ね」
「ル゛ー゛ー゛ー゛ナ゛!」
今まで世話をしてくれた姉を甘やかすルーナにも、原因はあるだろう。しかし、二年も頑張って治療薬を作り続けてくれた姉には、感謝の思いしかなく、ついつい甘やかしたくなってしまう。
「姉さん、牛乳飲むよね。最近少し寒くなってきたから、ホットミルクにしておいたよ」
「ル゛ー゛ー゛ー゛ナ゛!」
涙で前が見えなくても、焼け食いするかのように、アーニャはオムライスをバクバクと食べ始める。
ぶっちゃけ、味なんて何も感じていない。最愛の妹が作ってくれたオムライスを食べる喜びに、アーニャは胸がいっぱいだった。
一方、同じく呪いで苦しんだことのあるジルとエリスの姉弟は、随分と落ち着いたものとなっていた。
「はい、エリスお姉ちゃんはフレンチトーストね」
「ありがとう、ジル。朝ごはんがパンなだけで落ち着くよ」
当然、毎食オムライスを食べ続けるのはツライため、エリスは違うものを食べるようになった。さすがのオムライス信者も文句を言うことはない。
ジルはルーナと一緒に作ったオムライスを食べるが。
「う゛ぁ゛~~~゛ん゛! オ゛ム゛ラ゛イ゛ス゛~゛!」
一人だけ騒がしく食べるアーニャの叫び声だけが、こだましていた。
***
朝ごはんを食べ終えた四人は、戸締りを確認して、身支度を始める。
「今日はピクニックの日だからね。エリスお姉ちゃんも仕事に行ったらダメだよ!」
ルーナが元気になったら一緒に行こうと言っていた、四人でのピクニック。冒険者であるアーニャとルーナは予定がなくても、錬金術ギルドの職員であるエリスだけは都合があるため、ジルは厳しくチェックしていた。
「大丈夫だって言ったでしょ。ルーナちゃんが元気になったら、なぜか私まで称賛されたんだもん。ずっと仕事をサボってるような状態だったのに、特別休暇までもらえるなんて、いったいどうなってるんだろう」
エリス自身は気づいていないが、ルーナがいない間にアーニャを抑えてくれた功績は大きく評価されている。ルーナの治療が終わった後も、アーニャが錬金術を続けていることもあり、今やエリスは……。
「ちゃんとお手紙も出した? サブマスターのお仕事でしょ?」
錬金術ギルドのサブマスターに就任して、重要人物との懸け橋の役目を担っていた。公爵家のミレイユと文通して、【創造神】アーニャを手懐けるエリスは、今や不動の存在となっている。
「そっちもわからないのよね。どうして私がミレイユ様と文通してるのかな。しかもミレイユ様って、手紙だとすごい女の子っぽいの。なんか手紙でやり取りしてると、調子が狂っちゃうんだよねー」
だが、これまた本人は知らない。実はミレイユが猫を被り続け、ずっとエリスを心配していたことを。実は友達になりたいと思い、お茶会に誘おうとしていることを!
「サブマスターとして付き合いは増えるし、これからはもう少し距離を縮めようかな。本当は貴族っぽくない、ただの女の子みたいだし」
「それで、手紙の返事は書いたの?」
「ピクニックから帰って来たら、書いて返信するの。お土産話も書いた方が仲良くなれる気がするし、まだ何を書いていいかわからないんだもん」
今まで貴族を毛嫌いしていたエリスは、ミレイユと向き合おうとしている。その結果、絶対的な地位を築き上げ、【絶対神】と呼ばれるようになるのは……、もう少し先の話。
その前に今は、ピクニック! なんだかんだで楽しみにしているアーニャが、スキップをしながら呼びに来るほど、ウキウキモードなのだ!
「なにしてるのよ。早くしないと置いてくわよ」
「早くして、エリスお姉ちゃん! 置いてかれちゃうよー!」
「わかったから、焦らせないで。まだマジックポーチの中がどうなってるのかわからなくて、うまく整理できないんだから」
「必要そうなものは突っ込んで、後で整理したらいいわ。何か足りなくなったとしても、ルーナに聞けば何とかなるものよ」
完全に妹任せなアーニャは、エリスの腰をガシッとつかみ、軽々しくひょいっと持ち上げる。急に体が宙に浮いたエリスは、マジックポーチに手を入れたまま、てんやわんやとしていた。
「ええっ!? アーニャさん!? 怪力すぎますよ!」
「相手が悪かったわね、エリス。私を誰だと思ってるのよ。そうよね、ジル?」
「破壊神だもんねー」
ひそかにエリクサーをもう一つ作り、アーニャに施された魔力の封印が解けていることを、これまたエリスは知らない。この世で一番危険な破壊神に運ばれ、玄関に向かうと、そこにはルーナが待っていた。
「姉さん、靴を磨いておいたよ」
「ル゛ー゛ー゛ー゛ナ゛!」
「私を持ち上げながら泣かないでください! 怖いですよ、アーニャさん!」
「ルーナお姉ちゃん、僕の靴も磨いてほしいなー」
この日、グダグダしながらもピクニックへ向かった四人は、西門を経由して、月の洞窟を目指す。月光草が生える綺麗な空間を見るため、仲良く手を繋いで歩いていく。
普通にみんなで出掛けられること、そんな些細なことに幸せを感じながら。
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