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第7話
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「つ、疲れた」
モリスと私は1階に移動して、中庭にある休憩場所に来ていた。
備え付けのベンチに座り込むモリス。
あのあと写真だけでは終わらず、握手やら質問コーナーやらが次々と始まってしまって収拾がつかなくなってしまった。しばらくして騒ぎを聞きつけてきた2年生の学年指導の先生が、その場を収めてくれたのでなんとかここに移動してきたのだった。
「こっちの世界の女の人って積極的だね」
「向こうの世界とやっぱり違う?」
私は、自動販売機でお茶を2本買って1つをモリスに渡す。
モリスは相当喉が渇いていたのか、200mlの小さなペットボトルの蓋を開けて一気にお茶を飲み干した。
「全然違うよ・・・向こうでは必要最低限のことしか女の人に話しかけられたことなかったから」
向こうの世界だとモリス以外にもイケメンがたくさんいるから、女子の目も肥えてたりするんだろうな。それに、ストイックな性格で女の子も気になってても話しかけづらいんだろうなぁ。
でも、ここにはイケメンと言える程のレベルの男子はいない。モリスに比べればみんなジャガイモだ。私の中ではね。
私もお茶を一口飲む。
「お茶、ありがとう。すごく喉渇いてたみたいだ」
「どういたしまして。大きいの買えばよかったね」
私は、モリスがふぅと一息ついているのを見てクスッと笑う。
「よし・・・落ち着いた。残りの場所の案内もよろしく頼む」
「私はいいけど。もう平気?」
「もちろんだ」
モリスはまだ少し重そうな腰をベンチから持ち上げた。
漫画では知れないモリスを知れて私は幸せだった。
普段だったら面倒な学校案内も、2年生のギャルたちに囲まれるちょっと怖いこともモリスとなら楽しいことに早変わりだ。
モリスからしたら災難だろうけど。
中庭から移動しようとした時、どこからかガシャンと大きな音が鳴る。
何かが勢いよく落ちた音だった。
何かあったのかと気になって音がなった場所にモリスと向かった。
音が鳴った場所に行ってみると美術室だった。
部屋を覗くと、女の人が立っていた。
教育実習で先週から来ている人だ。黒の長い髪を一つに束ね、細い縁の丸いメガネをつけ、黒のリクルートスーツを着ている。
立ち尽くす女性の近くには絵の具の筆洗いバケツがたくさん転がっていた。
「大丈夫ですか?」
私は、床に転がっていたバケツを何個か拾い上げる。
教育実習生なのは知ってるけど、2年生を担当しているので3年生の私とは接点は全くない。
私は顔を知っているけど向こうはわからないはずだ。
バケツを拾って話しかけても女性から反応がない。
よく見ると女性はモリスの顔を見て固まっているようだ。
またか・・・。
モリスは女性を虜にする才能があるんじゃないかと思うくらい、出会う女性全員の心を奪っている。
「バケツ、ここに置いておきますね。モリス、行こう」
私は、モリスと学校案内の続きに戻ろうと思い、美術室を出ようとした。
「あ、あの!」
女性が声をかけてくる。
どうせまたモリス目当てでしょ。握手してとか写真撮ってとか。でも、仮にも先生だから生徒には手を出さないか・・・。
どうせ私はお呼びではないので、今度は振り向かずに美術室を出た。
「そのストラップ、マド学のでしょ?」
「え?」
ついその言葉に振り向いてしまった。
確かに私の通学用カバンにはマド学のストラップのモリスがぶら下がっている。
「マド学知ってるんですか?」
陽菜以外とマド学の話をしたことがないので少し新鮮だ。テンションが上がる。
「知ってるも何も・・・・」
女性は何かを言いかけたみたいだが、その言葉の続きは出てこなかった。
「どうかしたんですか?」
私は、言葉に詰まっている女性を心配して声をかけた。
女性は少し思い詰めた顔をしていたが、私の言葉ににっこり微笑んで、
「私、教育実習で先週からこの学校に来ている如月 朱音です。2年生を担当してるの。君たちは3年生・・かな?」
「はい。私は山田 千代って言います。こっちは今日転校してきた斎藤 護澄くんです」
「初めまして」
自己紹介すると朱音は私たち2人をマジマジ見る。
「2人とも誰かに似てるって言われたことない?」
急に朱音が質問してくる。
私とモリスは顔を見合わせて
「特に言われたことないですけど」
と、答えた。
モリスはマド学のモリスそのものだから似てるに入らない・・・よね。
「マド学のモリスとその幼馴染のチヨに似てると思ったんだけど。マド学好きならそう思わない?」
私はその言葉にぎくっとする。
モリスに似てるってバレてる。しかも、モリスの幼馴染ってマド学ファンの私ですらさっきモリスから教わらなかったら知らなかったのになんでこの人知ってるの?しかも私に似てるって・・・。
「私、マド学大好きで何度も漫画読んでるんですけど・・・モリスの幼馴染って登場してましたっけ?」
「え?いたでしょ?モリスが受験で少し病んだ時に元気付けてる女の子」
「それ・・・まだ連載に載ってないですよ。来週のスクワットに載るはずの内容じゃないんですか?・・・なんで先生が知ってるんですか?」
週間スクワットの発売日は毎週月曜日だ。早く並んでいるところでも土曜日とか日曜日のはず・・・。
「え?今日、何曜日!?」
「今日は木曜日ですけど・・・」
「まじか!木曜日だったのか!教育実習が忙しくて日付の感覚が無くなってたわぁ!」
朱音は束ねていたヘアゴムを取り、髪をぐしゃぐしゃにかきあげる。
さっきまでのキャラと全然違う朱音を見て唖然としてしまう。
「くっそー!雑用全部私にやらせやがって!私にもやることいっぱいあるんだっつーの」
モリスもあまりの朱音のキャラの代わりように戸惑っている。
「せ、先生?」
「はっ!すまない!実習中は大人しいキャラを演じるつもりだったのだが、思ったよりも忙しくてな。趣味に時間を当てれないストレスでつい崩壊してしまった!」
「は、はぁ・・・」
朱音の口調がなんだか漫画のキャラクターみたいになってる。これが朱音の素なんだろう。
「そして、君たちに出会って制作意欲が湧いてきたのだがこの忙しさで描けないのがもどかしい!」
「描く?」
「ん?さっきの失言でバレたと思ったのだが、気がついていないのかい?」
さっきの失言で?
まだスクワットが販売されていない今にマド学の続きを知っている人なんてスクワットを出版している集米社の編集部の人か作者くらいしか・・・。しかも描くって・・・え、まさか。
「も、も、も、もしかして一色 楓先生!?」
「はははははっ!バレてしまったか!」
「まさか!そんなっ・・・大学生だったんですね・・・もしかして連載休止のニュースの真相は・・・」
「思ったより教育実習が忙しくてな。描く暇がなくて、集米社の担当さんにお願いして実習が終わる間だけ休載させてほしいって頼んだんだよ」
「そう・・・だったんですね」
「実習の合間に描けると思ったんだけどな。いやー・・・先生って大変だね!」
私は豪快に笑う朱音に近づいて、
「あ、後でサインと握手と写真一緒にお願いします!!!!!!!」
「お、なんだか急に積極的になったね!もちろんいいぞ!マド学ファンに悪い人はいないからね!」
バシバシと私の背中を叩く朱音。
本当はこんなに豪快な人なんだ。
憧れの人にこんなところで会えるなんて今でも信じられない。ネットで調べても一切個人情報が出ていなかった人だし。
今日、私死んじゃうのかな。モリスと現実で会えて、憧れの一色先生に会えて・・・。
一生の運をここで使い果たしてる気がする。
「あの!あなたに聞きたいことがあるんです」
ずっと黙って私と朱音のやりとりを見ていたモリスが話を切り出す。
「ん?どうしたんだい?イケメンボーイ」
「えっと・・・その・・・信じてもらえないかもしれないんですけど。俺、あなたが描いたキャラクターのモリスなんです」
美術室に沈黙が流れる。
いくらマド学の作者とはいえ、こんな突拍子のない急な告白をすぐ信じてくれるだろうか。
私もあの夢と、モリスの話の流れを合わせてやっと信じたくらいだし。
「・・・本当に?」
「はい・・・」
「それは私も保証します。証拠を見せろって言われても彼の記憶しかないんですけど・・・」
「ふーむ・・・」
朱音はモリスの周りを一周回って見ている。
ホクロの位置とか見てるのだろうか。
作者しか分からない何かがあるとか・・・。
私はドキドキしながらその様子を見る。
作者とそのキャラの対面なんてそうそう見れるものではない。
「そっか!お前たちがそう言うなら信じるよ」
また豪快に笑いながら朱音は言った。
意外な反応だった。もっと質問されたり、全然信じてくれないのだと覚悟していた。
私とモリスは顔を見合わせる。
「えっと・・・モリスの身体みて何か確証が?」
「ん?身体見ただけで分かるわけないだろ。たとえこの子が全裸になっても本物かわからんよ」
全裸!私は少し想像してしまい顔を赤らめてしまった。
「じゃ、なぜ・・・?」
モリスが不思議そうに尋ねた。
「そうだな・・・なんていうか、勘かな」
「勘?」
「詳しく説明できないが、なんとなく自分の中で本物だよって言ってるんだ。だから信じるよ」
「それなら話が早いですが・・・俺が元の世界に戻る方法、なにか心当たりないですか?」
「えぇ?!さすがにそれは知らないぞ。私が何かして出てきたわけじゃないからな」
「そ、そうですよね・・・」
モリスは分かりやすく落ち込んで肩を落とした。
「こっちの世界に出てきた理由もわからないですか?来週出るマド学のストーリーの中に何かヒントがあるとか・・・」
「うーーーーーん・・・」
朱音は腕を組んで深く考える。
「あの話は教育実習入る前に怒涛のように描いたからなぁ・・・どういう話の流れにしたかな。モリスが病気してチヨが看病するのは覚えているんだが・・・」
「え?モリスが病気になるんですか?!」
私は慌てて朱音に詰め寄る。
「病気って言っても風邪引いたくらいだったと思うけど・・・。でも、意識朦朧とするくらいの高熱が出たことにしてたかな」
「それじゃないですか?向こうのモリスが意識なくしてるからこっち来たとか?」
「そ、そうなのか?」
「そうかもしれないです!教育実習終わったらまた描くんですよね?モリスの風邪はすぐ治すつもりですか?」
「次の話で治る予定だけど・・・」
「じゃ、それで意識が戻ったらモリスが向こうの世界に戻れるかも」
私はモリスの方を見て言う。
そういえば、夢の中のマド学世界からこっちの世界に目を覚ます前、私がフラついて倒れてモリスが抱きかかえてくれたんだっけ。ただの偶然かもしれないけど。
「教育実習はあと2週間あってそれから描いたりするから早くても3週間・・・いや、4週間は待ってくれ!」
やる気に満ち溢れている朱音を見て、私は少し複雑な気持ちだった。
モリスが元の世界に戻るのはモリス自身の為を考えると喜ばしいことだ。でも、私はずっと一緒の世界にいたいと思ってた。そして今、その願いが叶ってる。でもそれがあと1ヶ月で終わってしまうなんて・・・。
色々考えると気分が沈んでくる。
私は首を思いっきり振った。
先のことを今考えても仕方ない。今はこの瞬間を生きよう。モリスと。どんなに短い時間だろうと。
モリスと私は1階に移動して、中庭にある休憩場所に来ていた。
備え付けのベンチに座り込むモリス。
あのあと写真だけでは終わらず、握手やら質問コーナーやらが次々と始まってしまって収拾がつかなくなってしまった。しばらくして騒ぎを聞きつけてきた2年生の学年指導の先生が、その場を収めてくれたのでなんとかここに移動してきたのだった。
「こっちの世界の女の人って積極的だね」
「向こうの世界とやっぱり違う?」
私は、自動販売機でお茶を2本買って1つをモリスに渡す。
モリスは相当喉が渇いていたのか、200mlの小さなペットボトルの蓋を開けて一気にお茶を飲み干した。
「全然違うよ・・・向こうでは必要最低限のことしか女の人に話しかけられたことなかったから」
向こうの世界だとモリス以外にもイケメンがたくさんいるから、女子の目も肥えてたりするんだろうな。それに、ストイックな性格で女の子も気になってても話しかけづらいんだろうなぁ。
でも、ここにはイケメンと言える程のレベルの男子はいない。モリスに比べればみんなジャガイモだ。私の中ではね。
私もお茶を一口飲む。
「お茶、ありがとう。すごく喉渇いてたみたいだ」
「どういたしまして。大きいの買えばよかったね」
私は、モリスがふぅと一息ついているのを見てクスッと笑う。
「よし・・・落ち着いた。残りの場所の案内もよろしく頼む」
「私はいいけど。もう平気?」
「もちろんだ」
モリスはまだ少し重そうな腰をベンチから持ち上げた。
漫画では知れないモリスを知れて私は幸せだった。
普段だったら面倒な学校案内も、2年生のギャルたちに囲まれるちょっと怖いこともモリスとなら楽しいことに早変わりだ。
モリスからしたら災難だろうけど。
中庭から移動しようとした時、どこからかガシャンと大きな音が鳴る。
何かが勢いよく落ちた音だった。
何かあったのかと気になって音がなった場所にモリスと向かった。
音が鳴った場所に行ってみると美術室だった。
部屋を覗くと、女の人が立っていた。
教育実習で先週から来ている人だ。黒の長い髪を一つに束ね、細い縁の丸いメガネをつけ、黒のリクルートスーツを着ている。
立ち尽くす女性の近くには絵の具の筆洗いバケツがたくさん転がっていた。
「大丈夫ですか?」
私は、床に転がっていたバケツを何個か拾い上げる。
教育実習生なのは知ってるけど、2年生を担当しているので3年生の私とは接点は全くない。
私は顔を知っているけど向こうはわからないはずだ。
バケツを拾って話しかけても女性から反応がない。
よく見ると女性はモリスの顔を見て固まっているようだ。
またか・・・。
モリスは女性を虜にする才能があるんじゃないかと思うくらい、出会う女性全員の心を奪っている。
「バケツ、ここに置いておきますね。モリス、行こう」
私は、モリスと学校案内の続きに戻ろうと思い、美術室を出ようとした。
「あ、あの!」
女性が声をかけてくる。
どうせまたモリス目当てでしょ。握手してとか写真撮ってとか。でも、仮にも先生だから生徒には手を出さないか・・・。
どうせ私はお呼びではないので、今度は振り向かずに美術室を出た。
「そのストラップ、マド学のでしょ?」
「え?」
ついその言葉に振り向いてしまった。
確かに私の通学用カバンにはマド学のストラップのモリスがぶら下がっている。
「マド学知ってるんですか?」
陽菜以外とマド学の話をしたことがないので少し新鮮だ。テンションが上がる。
「知ってるも何も・・・・」
女性は何かを言いかけたみたいだが、その言葉の続きは出てこなかった。
「どうかしたんですか?」
私は、言葉に詰まっている女性を心配して声をかけた。
女性は少し思い詰めた顔をしていたが、私の言葉ににっこり微笑んで、
「私、教育実習で先週からこの学校に来ている如月 朱音です。2年生を担当してるの。君たちは3年生・・かな?」
「はい。私は山田 千代って言います。こっちは今日転校してきた斎藤 護澄くんです」
「初めまして」
自己紹介すると朱音は私たち2人をマジマジ見る。
「2人とも誰かに似てるって言われたことない?」
急に朱音が質問してくる。
私とモリスは顔を見合わせて
「特に言われたことないですけど」
と、答えた。
モリスはマド学のモリスそのものだから似てるに入らない・・・よね。
「マド学のモリスとその幼馴染のチヨに似てると思ったんだけど。マド学好きならそう思わない?」
私はその言葉にぎくっとする。
モリスに似てるってバレてる。しかも、モリスの幼馴染ってマド学ファンの私ですらさっきモリスから教わらなかったら知らなかったのになんでこの人知ってるの?しかも私に似てるって・・・。
「私、マド学大好きで何度も漫画読んでるんですけど・・・モリスの幼馴染って登場してましたっけ?」
「え?いたでしょ?モリスが受験で少し病んだ時に元気付けてる女の子」
「それ・・・まだ連載に載ってないですよ。来週のスクワットに載るはずの内容じゃないんですか?・・・なんで先生が知ってるんですか?」
週間スクワットの発売日は毎週月曜日だ。早く並んでいるところでも土曜日とか日曜日のはず・・・。
「え?今日、何曜日!?」
「今日は木曜日ですけど・・・」
「まじか!木曜日だったのか!教育実習が忙しくて日付の感覚が無くなってたわぁ!」
朱音は束ねていたヘアゴムを取り、髪をぐしゃぐしゃにかきあげる。
さっきまでのキャラと全然違う朱音を見て唖然としてしまう。
「くっそー!雑用全部私にやらせやがって!私にもやることいっぱいあるんだっつーの」
モリスもあまりの朱音のキャラの代わりように戸惑っている。
「せ、先生?」
「はっ!すまない!実習中は大人しいキャラを演じるつもりだったのだが、思ったよりも忙しくてな。趣味に時間を当てれないストレスでつい崩壊してしまった!」
「は、はぁ・・・」
朱音の口調がなんだか漫画のキャラクターみたいになってる。これが朱音の素なんだろう。
「そして、君たちに出会って制作意欲が湧いてきたのだがこの忙しさで描けないのがもどかしい!」
「描く?」
「ん?さっきの失言でバレたと思ったのだが、気がついていないのかい?」
さっきの失言で?
まだスクワットが販売されていない今にマド学の続きを知っている人なんてスクワットを出版している集米社の編集部の人か作者くらいしか・・・。しかも描くって・・・え、まさか。
「も、も、も、もしかして一色 楓先生!?」
「はははははっ!バレてしまったか!」
「まさか!そんなっ・・・大学生だったんですね・・・もしかして連載休止のニュースの真相は・・・」
「思ったより教育実習が忙しくてな。描く暇がなくて、集米社の担当さんにお願いして実習が終わる間だけ休載させてほしいって頼んだんだよ」
「そう・・・だったんですね」
「実習の合間に描けると思ったんだけどな。いやー・・・先生って大変だね!」
私は豪快に笑う朱音に近づいて、
「あ、後でサインと握手と写真一緒にお願いします!!!!!!!」
「お、なんだか急に積極的になったね!もちろんいいぞ!マド学ファンに悪い人はいないからね!」
バシバシと私の背中を叩く朱音。
本当はこんなに豪快な人なんだ。
憧れの人にこんなところで会えるなんて今でも信じられない。ネットで調べても一切個人情報が出ていなかった人だし。
今日、私死んじゃうのかな。モリスと現実で会えて、憧れの一色先生に会えて・・・。
一生の運をここで使い果たしてる気がする。
「あの!あなたに聞きたいことがあるんです」
ずっと黙って私と朱音のやりとりを見ていたモリスが話を切り出す。
「ん?どうしたんだい?イケメンボーイ」
「えっと・・・その・・・信じてもらえないかもしれないんですけど。俺、あなたが描いたキャラクターのモリスなんです」
美術室に沈黙が流れる。
いくらマド学の作者とはいえ、こんな突拍子のない急な告白をすぐ信じてくれるだろうか。
私もあの夢と、モリスの話の流れを合わせてやっと信じたくらいだし。
「・・・本当に?」
「はい・・・」
「それは私も保証します。証拠を見せろって言われても彼の記憶しかないんですけど・・・」
「ふーむ・・・」
朱音はモリスの周りを一周回って見ている。
ホクロの位置とか見てるのだろうか。
作者しか分からない何かがあるとか・・・。
私はドキドキしながらその様子を見る。
作者とそのキャラの対面なんてそうそう見れるものではない。
「そっか!お前たちがそう言うなら信じるよ」
また豪快に笑いながら朱音は言った。
意外な反応だった。もっと質問されたり、全然信じてくれないのだと覚悟していた。
私とモリスは顔を見合わせる。
「えっと・・・モリスの身体みて何か確証が?」
「ん?身体見ただけで分かるわけないだろ。たとえこの子が全裸になっても本物かわからんよ」
全裸!私は少し想像してしまい顔を赤らめてしまった。
「じゃ、なぜ・・・?」
モリスが不思議そうに尋ねた。
「そうだな・・・なんていうか、勘かな」
「勘?」
「詳しく説明できないが、なんとなく自分の中で本物だよって言ってるんだ。だから信じるよ」
「それなら話が早いですが・・・俺が元の世界に戻る方法、なにか心当たりないですか?」
「えぇ?!さすがにそれは知らないぞ。私が何かして出てきたわけじゃないからな」
「そ、そうですよね・・・」
モリスは分かりやすく落ち込んで肩を落とした。
「こっちの世界に出てきた理由もわからないですか?来週出るマド学のストーリーの中に何かヒントがあるとか・・・」
「うーーーーーん・・・」
朱音は腕を組んで深く考える。
「あの話は教育実習入る前に怒涛のように描いたからなぁ・・・どういう話の流れにしたかな。モリスが病気してチヨが看病するのは覚えているんだが・・・」
「え?モリスが病気になるんですか?!」
私は慌てて朱音に詰め寄る。
「病気って言っても風邪引いたくらいだったと思うけど・・・。でも、意識朦朧とするくらいの高熱が出たことにしてたかな」
「それじゃないですか?向こうのモリスが意識なくしてるからこっち来たとか?」
「そ、そうなのか?」
「そうかもしれないです!教育実習終わったらまた描くんですよね?モリスの風邪はすぐ治すつもりですか?」
「次の話で治る予定だけど・・・」
「じゃ、それで意識が戻ったらモリスが向こうの世界に戻れるかも」
私はモリスの方を見て言う。
そういえば、夢の中のマド学世界からこっちの世界に目を覚ます前、私がフラついて倒れてモリスが抱きかかえてくれたんだっけ。ただの偶然かもしれないけど。
「教育実習はあと2週間あってそれから描いたりするから早くても3週間・・・いや、4週間は待ってくれ!」
やる気に満ち溢れている朱音を見て、私は少し複雑な気持ちだった。
モリスが元の世界に戻るのはモリス自身の為を考えると喜ばしいことだ。でも、私はずっと一緒の世界にいたいと思ってた。そして今、その願いが叶ってる。でもそれがあと1ヶ月で終わってしまうなんて・・・。
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