討伐師〜ハンター〜

夏目 涼

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第5話

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この特訓は中々上手くいかなかった。


まず、最初の段階である拳に魔力を込めることが出来ない。



「ふんッ!」




とりあえず力んでみるが・・・・・。
武良久が見せた青い光は出ない。



「力むだけだったら誰でも出来る。まずは自分の魔力を感じろ」




武良久はなぜか竹刀を持って椅子に座りながら言った。



なぜ竹刀なんか持っているんだろうか。
怖いので聞かないでおこう。




それより自分の魔力を感じる・・・?



とりあえず目を閉じて瞑想してみる。
体中が熱くなる。


「馬鹿か!拳に魔力を込めろって言ってるんだ。全身に込めてどうする」
「いだっ!」


竹刀で思いっきり殴られた。
このための竹刀か・・・。まぁ、あの魔力を込めた拳で殴られるよりは何倍もマシに思えてくるから不思議だ。


今のが魔力か。
なんとなく感覚は分かったような気がする。


チラリと他のクラスメイトを見てみると誰もがやはり苦戦しているようだ。


武良久が痺れを切らして一人一人に指導して回っている。



各自特訓を開始して5分ほどたったころ。


ドォン!




いきなり武良久がサンドバッグを叩いた時よりも大きな音がした。

その音は俺の隣から聞こえた。

その音を出した本人はあの無表情の少女だった。
武良久は今まで見たことの無いような笑顔で少女に近づく。


「おぉ!蘭、さすがだな。でも魔力をもっとコントロールして少ない量で出来たらもっといい。頑張れ」


武良久が蘭と呼んだ少女の頭を優しく叩いた。
あの武良久が優しいなんて気持ち悪い。
絶対に声に出しては言えないが。



っていうかあの子・・・・蘭って言うんだ。



俺は蘭の行動をこっそりと見てみた。
一応言っておくが、あくまでも特訓の参考の為にだ。



まず全身に魔力を纏い、それから拳に集めているみたいだ。
なるほどね。
初めから拳に集めようとするから駄目なのか。



俺も見習い、やってみることにした。



まず、魔力を全身で感じる。
そこから拳に集中させるようなイメージをして・・・・
サンドバッグを叩く。


思いっきり拳をサンドバッグを打つとバン!と音を立ててサンドバッグが破裂してしまった。


「え・・・・?」


俺は唖然としてしまった。
目の前にあった巨大な物体が一瞬にしてに消えてしまったのだ。


「こらぁっ!!!!」
「うあぁっ!」

バコっと俺の頭に武良久のパンチが飛んできた。
明らかに魔力の少し篭った。
さっきの竹刀の倍は痛い。

「私の苦労して作ったこのサンドバッグをよくもっ!契約書といい、お前は私に何か恨みでもあるのか!!!」


えぇ・・・・
たくさんありますとも。
まだ入学して2日目ですけどね。
死にそうになったし、こうやって体罰受けてるし・・・。

なーんて、口が裂けてもいえない。






「いや・・・・拳に魔力を込めて殴ったらこんな結果に・・・」
「魔力も限度があるだろうがっ!お前も蘭と一緒で込めすぎだ!」


そしてもう一回武良久の拳を受けた。


















「ほら余所見してねーで、ちゃんと自分の練習に戻れっ!」

呆気に取られているみんなの意識を戻し、特訓の続きに戻るように指示する。

「これ・・・破壊できるものなのか?」


潤はまじまじと自分の前にあるサンドバッグを見て言った。

小倉の意見は正しい。

私の創ったこのサンドバッグが破裂することは100%ない。


・・・・はずだった。

少なくとも、駆け出し討伐師のこいつらには。


このサンドバッグを破壊できる条件、それは作り手の私の魔力よりも強大な魔力で打ち込むこと。


そこらじゃそこそこ名の通った私のサンドバッグを破壊するとは・・・あの小僧。
初っ端から魔力放出が使えるといい・・・・末恐ろしい奴だ。
















ちくしょう。
サンドバッグ破壊した罰として正座10分。
武良久の椅子の横で俺は今座っている。



「座っている間もちゃんと魔力のコントロールはやってろよ」


チラリと向けられる武良久の視線が痛い。

くそう・・・・。
俺だって好きで破壊したんじゃないんだぞ!

心の中でブツブツ思いながら魔力のコントロールの練習に励む。
でも、拳に魔力は集中させることは出来るが大きな光がどうしても小さくならない。
それ以上小さくしようとすると消えてしまう。


「・・・・・・。拳に魔力を包もうとするんじゃない。魔力で拳を包むみたいにイメージしろ」

ボソッと俺にだけ聞こえるような声の大きさで言う。


魔力で拳を包む・・・。


ジッと俺は自分の拳を見つめる。

俺は武良久の言った通りにイメージしてみる。
武良久は乱暴ないい加減な教師だと思うが、信頼は出来る。
きっと俺たちの為にしている特訓なんだろうし、将来的に実践に役立つことなのだと。
まぁ、死にかけたのは恨んでいるが。




考えながら武良久に言われた魔力で拳を包むようにイメージしてみるとさっきよりもスムーズに魔力を拳に込めれた。


「あとはそのまま小さく出来れば・・・」


まだこの大きさの魔力じゃ、サンドバッグが破裂してしまう。

俺は魔力を抑えることに専念した。











最後までこの特訓に苦労したのは俺と瑠衣だった。


武良久によると、元々の魔力が大きい人ほどこの特訓は苦労するみたいだ。


拳に魔力を集中させるのは蘭の次に出来たのだが、その魔力を小さくすることには最後まで苦戦した。
しばらくしてコツを掴んだ潤、美衣奈、蘭は教室に戻っていて部屋には俺と瑠衣と武良久の三人。


さっきよりは魔力を小さく出来ていると思うのだが、中々サンドバッグを叩いてもいいという武良久の許しが出ない。
もう一度挑戦しようと魔力を込めると、フッと身体から力が抜けた。

「っ!!!」

俺はガクッと膝を付く。


「・・・・・よくそれだけの魔力を使ってここまで耐えたよ。お疲れさん、続きは明日だ」


武良久は椅子から立ち上がり、部屋のドアに手をかける。


「まだ・・・・だ」
「あ?」
「戒斗・・・」

チラリと瑠衣を見る。
あいつも疲れてはいるがまだいけそうだな。

俺は身体から無限に出てくる汗をタオルで拭いて武良久を見た。

「俺も瑠衣・・・・甲斐田も、まだやれます。もう少し練習させてもらっていいですか?」

武良久をジッと見る。

ここで視線を逸らしたら負けだ。

無言で立っている武良久。
その表情からは感情は読み取れない。

「ぼ、僕からもお願いします!もう少しだけ・・・」

瑠衣も俺の横に立って一緒に頼み込んでくれた。

武良久はその姿を見て、ハァとため息をついた。

「あと1時間だけだ」
「え?」
「私も仕事がある。1時間したら迎えに来るからそれまでここで練習してな。くれぐれもサンドバッグは破壊しないように!」

武良久は苦笑して部屋のドアから出て行った。
俺と瑠衣は顔を合わせてガッツポーズをして喜んだ。














さ、どうなっていることやら。

サンドバックの練習ごときをこんなに粘ってやるやつも珍しいが、まぁやる気があっていいことだ。


「お前らぁ!約束の時間だ!帰る・・・・ぞ・・・・」



私は討伐隊の仕事を一つ終わらせ、増田と甲斐田が練習している部屋に二人を迎えにいった。
部屋に入ると、サンドバッグが6個(私の分含め)あるものが全部部屋の反対側に移動していた。

二人の練習ために全部こっち側に寄せて行ったはずだが・・・まさか全部成功させたのか?

「すぅ・・・・すぅ」
「・・・」

床を見ると、増田と甲斐田が仲良く横に並んで寝ていた。

「さっきまであんだけヘロヘロだったのに・・・・よくやったな」

フッとつい笑顔が漏れてしまった。
しかし、ハッと気がつきいつもの顔に戻す。

駄目だ。
私は決めたのだ。
自分の目標を達成するまでは心から笑ってはいけない。
他人にも自分にも厳しく。

パンっと自分の顔を叩き気合を入れなおす。


「こぉら!お前ら、何寝てんだ!」


私は増田、甲斐田に向かって大声で叫んだ。

















僕は夢を見ていた。

あの魔物実践特訓の場面だ。


潤が腹を斬られた。
僕はその光景を目の前で見てしまった。

その時、死の恐怖が僕の中を支配した。

怖い・・・僕もこんな風になってしまうのか・・・

そう思った時、僕は自分の夢を思い出した。


僕には夢がある。
裏世界に行って困っている人を助ける。
僕の本当にしたい夢。
だから僧侶になりたいと思った。
僧侶になれる人は限られているが、魔物によって怪我をする人は確実に増えている。
裏世界に行った兄からそう聞かされてから僧侶になりたいと決意した。どんなに訓練がキツくてもやる!どんな努力も惜しまない。
兄には、努力でなれる職業じゃないから止めておけと言われた。
それでも僕の気持ちは変わらなかった。


僕は、ハッと気がつき恐怖なんて忘れて潤の元に駆け寄っていた。


目の前の人を助けたい。
ただそれだけだ。


でも治療する道具も、ましてや魔法も使えない。
助けたいのに助けれない。

どうする?どうするっ!

色々な考えが頭をぐるぐると回っていると頭の中にふと言葉が浮かんできた。聞いたこともない言葉だが、身体もなんだか熱い。

パッと潤を見る。
潤の顔から血の気が引いていっている。

とりあえず、何の言葉か分からないが潤の傷の方に手を当て呟いてみる。

治ってくれと願いながら。

すると、僕の手から光が出て潤の傷はふさがった。

「良かった・・・」

ホッとしたのもつかの間、魔物が僕に襲いかかろうと飛んでくる。

駄目だ。

そう思い、目を瞑った時だった。

全然魔物からの攻撃が来ないのを不思議に思い、そっと目を開けると、さっきまでいた魔物が消えていた。

僕だけでなく他のクラスメイト、武良久先生までもが何が起こったのか理解出来ずに唖然としている。

あれ・・・戒斗は?

そう思って周りを見渡すと戒斗が横で倒れていた。

「戒斗?!」


僕は慌てて駆け寄る。

意識は無いみたいだが息はある。
よかった。

潤を助けたときと同じように魔法をかけようとしたら、先生がいつの間にか近くにいて、止めるように手を掴まれた。


「え?先生?」
「私にいい考えがある」









そこで夢が醒めた。

僕はゆっくりと身体を起こし、横で静かに寝ている戒斗を見た。

「戒斗・・・」

俺はポツリと名前を呼ぶ。
ソッと戒斗に近づき、契約の紋章が入っている手を見る。

「しばらくの辛抱だから」

そう言って僕は戒斗の手に触れようとした時、バンっと勢い良く部屋のドアが開いた。

僕は驚いて反射的に寝た振りをしてしまった。


いつか本当の事を話すよ。
今は知らない方がいい。
それまでは一緒に頑張ろう。


ジッと戒斗を見て、僕は再び目をゆっくり閉じた。

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