討伐師〜ハンター〜

夏目 涼

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第53話

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一度、俺が3歳くらいの時に公園デビューをした時だった。
家から少し離れた集合住宅内にある小さな公園だった。
俺は、佐藤さんと一緒に公園に来てボール遊びをしたり砂遊びをしたりしていた。
周りには集合住宅の住人らしき親子が何組かいた。
ボールがポーンと飛んでいき、ベビーカーを近くに置いてベンチに座っている若い女性ところで止まった。
佐藤さんがボールを取りに向かうと、その女性がボールを手に持ち佐藤さんに渡していた。

何やら少し話をして佐藤さんは戻ってきた。
すると、女性もベビーカーを引いて俺の方に向かってきた。

「こんにちは」

女性がにこやかに挨拶してくる。

「こんにちは」

とりあえず俺は挨拶を返す。
香水の匂いがキツく香る。この女性のものだろう。
金髪のロングヘアーで、露出の多いワンピースを着ていた。

「お子さん可愛いですね。何歳なんですか?」

女性は佐藤さんに問いかける。
外で遊んだりしている時は、俺と佐藤さんは親子ということにしている。
その方が周りへの説明もしなくて済むし、両親が警察関係と会社経営者というのがわかると目を輝かせるものが少なからずいるからだ。

「3歳です」

佐藤さんは爽やかな笑顔で女性に答える。
女性はチラリと俺を見て、また佐藤さんへ顔をむける。

「今日は暑いですね。よかったら家でお茶でも飲んでいきませんか?」
「いや、大丈夫です。今日はこの子と遊ぶ予定ですので」
「そう言わずに・・・少し休憩しましょうよ」

女性は、佐藤さんの腕に自分の両手を絡める。

「ここの集合住宅の人じゃないですよね?こんないい服着てる子ども、ここにはいないですもの。なんの仕事しているんですか?私、あなたのこともっと知りたいわ」

佐藤さんの耳元でそっと囁く女性。

俺は、初対面であろう人にベタベタしている女性を見て嫌悪感を隠せなかった。
女性に絡め取られている反対の佐藤さんの手をグイッと引っ張る。

「お父さん・・・もう帰ろう」
「そうだね。もうお家に帰ろうか」
「あ!ちょっと!!!」

佐藤さんは何事もなかったかのように女性の手を振り払い、俺の手を取って公園の出口へ向かった。
何が起きたのかわかっていない女性は、しばらく立ち尽くしていた。
佐藤さんは転がっていたボールを拾い、女性の方をむき軽く会釈をして去った。
遠くの方で女性の舌打ちが鳴っているのような気がした。




その公園デビューの後、佐藤さんと俺は両親に呼ばれてリビングのテーブルを4人で囲んで座っていた。
両親が俺が起きている時間に揃っていることが珍しいため俺は幼いながらタダごとじゃないと察していた。

「お、お茶をお出しします・・・」

このタダならぬ雰囲気に耐えられないのか、佐藤さんは席を立とうとする。

「いいから座っていてくれ」

そう言って、父さんは佐藤さんが席を立つのを止める。
この雰囲気の脱出を諦めて佐藤さんは再び椅子に座った。

「・・・この前、公園に遊びに行ったそうだな」
「は、はい。ご自宅の近くは避けて少し離れた公園にいきました」
「その時に、女性に絡まれたんだな?」
「はい。お伝えした通り、小さい子どもを連れた若い女性に声をかけられました」

あの時のことか。
と、俺はあの匂いのキツい女性を思い出す。
佐藤さんはあの時のことを父さんに報告していたのだ。

「あの集合住宅周辺で詐欺被害の報告が多くてな。犯人は分からなくてなかなか調査が進まなかったのだが・・・」
「ちょっと・・・あなた。その話は後でいいでしょう」
「あ、あぁ」

話が長くなりそうな父さんの言葉を母さんは静かに制した。
コホンと咳払いし、父さんは改めて話し始めた。

「その女性を調べたら、美人局の類だった」
「つつもたせ???」
「戒斗には少し早いかもしれないわね・・・」
「うむ・・・例えば、母さんに言い寄ってくる男が父さんの他にいた場合、父さんがその男に怒ってお金を要求する・・・みたいなものだ」
「ふーん・・・」

俺はチラリと佐藤さんを見る。
いつも落ち着いている佐藤さんは少し驚いた顔をしていた。

「そうだったんですか。しつこく言ってくるので怪しいとは思っていましたが、小さいお子さんを連れているので犯罪的なことはないと思っていましたが・・・」
「それも狙いだったみたいだ。子どもはその女の妹の子どもだったらしい。面倒を頻繁に頼まれていたので、面倒を見ながら犯行を行なっていたみたいだ」
「・・・まさか、そんなことって」

佐藤さんは椅子から立ち上がり、両親に向かって深々と頭を下げた。

「申し訳ございません。坊っちゃんを危険な目にあわせてしまうところでした」
「佐藤くん、そんなに謝らないでくれ。幸い被害にはあっていないし、私は佐藤くんを信じているからね。それにその女性を調べたおかげで詐欺の犯人を捕まえることが出来た訳だしな」

父さんは深々と頭を下げている佐藤さんの肩にポンっと手をのせた。

「これからもよろしく頼むよ」
「はい・・・」

そうだ。俺の両親は、俺が話の内容が分からないであろうことにも必ず参加させていた。
そんな両親が俺になんの報告もなくそんなことをするとは考えにくい。それに、もし本当にその友達との付き合いを止めさせたいのならこんな回りくどいやり方をせずに、直接俺に言ってくるはずだ。

「ごめんなさい。・・・僕、父さんと母さんを疑っちゃった」

俺は、横で座る母さんの顔を見て謝った。
母さんは微笑みながら俺を抱き寄せて背中をポンポンと優しく叩いた。

「いいのよ。あなたが信じたいと思うことを信じるのならね。世の中には色々な人がいるの。戒斗には、自分の考えと相手の考えをしっかりと考えられる子に育ってほしい。今回のこと、しっかり考えた上で何を信じるか見極めなさい。相手も理由があって嘘を言ってるのかもしれないから。・・・でも、今回のことは放って置けない。私たちのせいにしてあなたを傷つけたから・・・それが誰の差金かは分からないけれどはっきりさせるわ。でも、それは私の感情。あなたは自分が信じれる人を信じたらいいのよ」

俺はぎゅっと母さんを抱き返す。

「僕も明日、礼央くんたちともう1度話してみるよ」
「うん、いい子ね」

母さんが頭を撫でてくれ、体を離した。

「さ、明日起きれなくなるからもう寝ないとね」
「うん。母さんも明日また早んでしょう?」
「そうね・・・戒斗が起きる時間には家を出ないといけないから・・・朝顔を見れるかな」
「・・・そっか。仕事頑張ってね」

俺は、少し寂しい気持ちが込み上げてきたがグッとそれを抑え込む。
仕事で疲れて帰ってきているのは知っているし、これから少し家で仕事をすることも知っている。

「僕、もう寝るよ。おやすみなさい」

久々に顔を見て話す母さんと離れるのは寂しいが、もう深夜12時を回っている。
俺は、ソファーから立ち上がり自分の部屋に続く階段へと向かう。
すると、母さんもソファーから立ち上がって俺の後をついてきた。

「え?どうしたの?」
「うーん・・・今日は戒斗と一緒に寝ようかな。仕事もひと段落してるし、たまには一緒に寝よう」

俺は思わぬ提案に驚いた。
いつも俺が寝た頃に帰ってきて、まだ俺が起きる前に仕事に出ることが多い母さん。顔を見て話したのも久しぶりなのに、一緒に夜を過ごすなんて俺の記憶にはほとんどなかった。

「いいの?」
「うん。さ、もうこんな時間だ!良い子が寝る時間はとっくに過ぎてるわよ~」

そう言って母さんは俺を抱き上げる。
大きくなったわねと言いながら、キッチンにいた佐々木さんに一言声をかけて母さんに抱き抱えられながら、俺の部屋へと行く。
俺の部屋は最低限のものしか置いてない。おもちゃもほとんどない。勉強机と5歳の俺には広すぎるダブルベッド、本棚くらいだ。ベッドに俺と母さんは横並びで寝転ぶ。
こんな普通のことが凄く幸せだった。







翌朝。
目を覚ますと、隣には母さんの姿はなかった。

リビングに降りると、佐々木さんが朝ご飯の準備をしていた。

「おはようございます。よく眠れましたか?」
「おはようございます」

俺はまだ半分起きてない頭でぼーっとしていた。

「佐々木さん・・・母さんは?」
「あぁ・・・あの後深夜2時くらいに会社から呼び出されて仕事に向かいましたよ」
「そうなんだ・・・」

ほとんど寝てない母さんがとても心配だったがまだ子供の俺に出来ることはほとんどない。
が、まずは自分の問題を解決しなくては。
俺は洗面台で顔を洗う。
半分寝ていた頭はスッキリした。

朝ごはんを食べ終え、幼稚園へ佐々木さんと向かった。

母さんと昨夜話したことを思い出す。
自分の信じられるものを信じる・・・。

俺は自分の手をぎゅっと握りしめた。

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