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綾音は緊張した面持ちで、柚樹の隣に並んでショッピングモールの中を歩いていた。
バスに乗るときに離した手は、ショッピングモールに着いてもそのままだった。
近場の遊びスポットとして顔見知りに遭遇する確率も高いこの場所で、堂々と手を繋ぐのは気恥ずかしいので実は少しだけほっとしている。
どこを見るのでもなく賑わう店内の通路をゆっくり歩きながら、綾音はちら、と柚樹の表情を窺った。待ち合わせのときからドキドキしっぱなしの綾音と違って、彼の様子は普段と変わらないように見える。綾音にとっては文字通り人生初のデートだが、二つ年上の彼にとってはそんなことはないのかもしれない。
貰い物の前売り券があるから映画に行かないかという誘いを受けて、日曜日が来るのを心待ちにしていたはずなのに、いざ彼と会ってデートだということを意識するとどうしても緊張してしまう。学校ではもう少し気軽に話せていたのに、今日はほとんど口を開けずにいた。
「さて、時間あるけどどうしようか……」
柚樹がふいに思案するように呟いた。
映画館で前売り券とチケットを引き換えたが、近い上映時間の回は座席がほとんど埋まっていたのだ。二人並んで座れる席は前方しか空いていなかったため次の回を予約したのだが、三時間近く時間が空いてしまった。
「綾音ちゃん、どこか見たい店とかある?」
「い、いえ、とくには……先輩が行きたいところあれば、どうぞ」
「俺もどうしてもってところはないかな。とりあえず、ぶらぶら見てようか」
「そうですね」
柚樹に従って広いショッピングモールの中を歩き、気になった店に入っては商品を見ていく。何度も来たことがあるショッピングモールでも、彼といるとなんだが新鮮に感じた。
店内を見て回っているうちに、いつの間にか緊張もほぐれていく。とくに何を買うわけでもないが、柚樹と話をしながら雑貨や洋服を見るのは楽しかった。彼の好みもさりげなくリサーチしたので、今後誕生日プレゼントなどを選ぶときには参考にできそうだ。
レストラン街が見えてきて、柚樹はふと腕時計に視線を移した。
「少し早いけど、そろそろお昼食べようか?」
「そうですねっ」
彼の提案に、反対することなく頷く。まだ十一時半を過ぎたばかりだが、お腹はほどよく空いている。正午を過ぎると混むだろうから、いまのうちに店に入ればちょうどいいかもしれない。
「綾音ちゃん、食べたいものある?」
「なんでも、先輩が食べたいもので大丈夫です」
何の気なしに応えると、柚樹は微かに苦笑したように見えた。
「……洋食と和食だったらどっちが好き?」
「えっと、洋食、です」
「俺も。じゃあ、ここにしようか」
レストラン街を歩きながら、彼が選んだのは雰囲気がおしゃれなわりにリーズナブルなレストランだった。綾音も家族や友達と何度か入ったことがあるので、変に気負う必要はない。
「ここでいい?」
「はいっ」
店内に入ると休日ということもあるのか、すでにかなり混んでいるように見えたが、すぐに空いているテーブルに案内された。
メニューを開いて、綾音は熟考した。以前に来たときとランチセットの内容が変わっていて、どれにするか悩んでしまう。なんとか選択肢を二つまで絞ったが、どちらにするべきか。
「決まった?」
「ええと、ローストポークかハンバーグで迷ってて」
「どっちもおいしそうだから迷うよな。俺はローストポーク頼むつもりだったから、一口交換しようか?」
柚樹の提案に、綾音はぱっと顔を輝かせた。
「いいんですか?」
「もちろん」
「じゃあ、ハンバーグにします!」
店員を呼んで注文を伝える。セットのサラダとライスはすぐにきたが、メインの料理が運ばれてくるのには少し時間がかかるみたいだった。けれど、サラダをつつきながらとりとめのない話をしていると待ち時間はあっという間だった。
焼き立てのハンバーグは湯気を立てていて、口に入れると肉汁とデミグラスソースの味が広がった。食感も柔らかい。
「おいしい……」
「こっちもおいしいよ。食べる?」
「ありがとうございます。先輩もどうぞ」
一切れ食べさせてもらったローストポークも肉が柔らかく、ハニーマスタードソースがさっぱりしていておいしい。
食事は和やかに進み、食後に出てきた紅茶を綾音は何も考えずに飲み干してしまった。
バスに乗るときに離した手は、ショッピングモールに着いてもそのままだった。
近場の遊びスポットとして顔見知りに遭遇する確率も高いこの場所で、堂々と手を繋ぐのは気恥ずかしいので実は少しだけほっとしている。
どこを見るのでもなく賑わう店内の通路をゆっくり歩きながら、綾音はちら、と柚樹の表情を窺った。待ち合わせのときからドキドキしっぱなしの綾音と違って、彼の様子は普段と変わらないように見える。綾音にとっては文字通り人生初のデートだが、二つ年上の彼にとってはそんなことはないのかもしれない。
貰い物の前売り券があるから映画に行かないかという誘いを受けて、日曜日が来るのを心待ちにしていたはずなのに、いざ彼と会ってデートだということを意識するとどうしても緊張してしまう。学校ではもう少し気軽に話せていたのに、今日はほとんど口を開けずにいた。
「さて、時間あるけどどうしようか……」
柚樹がふいに思案するように呟いた。
映画館で前売り券とチケットを引き換えたが、近い上映時間の回は座席がほとんど埋まっていたのだ。二人並んで座れる席は前方しか空いていなかったため次の回を予約したのだが、三時間近く時間が空いてしまった。
「綾音ちゃん、どこか見たい店とかある?」
「い、いえ、とくには……先輩が行きたいところあれば、どうぞ」
「俺もどうしてもってところはないかな。とりあえず、ぶらぶら見てようか」
「そうですね」
柚樹に従って広いショッピングモールの中を歩き、気になった店に入っては商品を見ていく。何度も来たことがあるショッピングモールでも、彼といるとなんだが新鮮に感じた。
店内を見て回っているうちに、いつの間にか緊張もほぐれていく。とくに何を買うわけでもないが、柚樹と話をしながら雑貨や洋服を見るのは楽しかった。彼の好みもさりげなくリサーチしたので、今後誕生日プレゼントなどを選ぶときには参考にできそうだ。
レストラン街が見えてきて、柚樹はふと腕時計に視線を移した。
「少し早いけど、そろそろお昼食べようか?」
「そうですねっ」
彼の提案に、反対することなく頷く。まだ十一時半を過ぎたばかりだが、お腹はほどよく空いている。正午を過ぎると混むだろうから、いまのうちに店に入ればちょうどいいかもしれない。
「綾音ちゃん、食べたいものある?」
「なんでも、先輩が食べたいもので大丈夫です」
何の気なしに応えると、柚樹は微かに苦笑したように見えた。
「……洋食と和食だったらどっちが好き?」
「えっと、洋食、です」
「俺も。じゃあ、ここにしようか」
レストラン街を歩きながら、彼が選んだのは雰囲気がおしゃれなわりにリーズナブルなレストランだった。綾音も家族や友達と何度か入ったことがあるので、変に気負う必要はない。
「ここでいい?」
「はいっ」
店内に入ると休日ということもあるのか、すでにかなり混んでいるように見えたが、すぐに空いているテーブルに案内された。
メニューを開いて、綾音は熟考した。以前に来たときとランチセットの内容が変わっていて、どれにするか悩んでしまう。なんとか選択肢を二つまで絞ったが、どちらにするべきか。
「決まった?」
「ええと、ローストポークかハンバーグで迷ってて」
「どっちもおいしそうだから迷うよな。俺はローストポーク頼むつもりだったから、一口交換しようか?」
柚樹の提案に、綾音はぱっと顔を輝かせた。
「いいんですか?」
「もちろん」
「じゃあ、ハンバーグにします!」
店員を呼んで注文を伝える。セットのサラダとライスはすぐにきたが、メインの料理が運ばれてくるのには少し時間がかかるみたいだった。けれど、サラダをつつきながらとりとめのない話をしていると待ち時間はあっという間だった。
焼き立てのハンバーグは湯気を立てていて、口に入れると肉汁とデミグラスソースの味が広がった。食感も柔らかい。
「おいしい……」
「こっちもおいしいよ。食べる?」
「ありがとうございます。先輩もどうぞ」
一切れ食べさせてもらったローストポークも肉が柔らかく、ハニーマスタードソースがさっぱりしていておいしい。
食事は和やかに進み、食後に出てきた紅茶を綾音は何も考えずに飲み干してしまった。
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