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第1章 憂鬱な男
目の前のソレ
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田上は徐々に思い出してきた。
そうだ。自分は眠りについたのだった。そして目の前に悪魔が現れた。
つまり、これは夢の中という訳か。
目の前の悪魔はとてもチープな雰囲気であった。子供が使うトランプのジョーカーのようなイメージだ。
両の耳がとんがった帽子を被って、暗いメイクをしたピエロのようである。
「ところで田上君。あなたは今日のコンパで、ある一人の女性を助けたいと願いましたね。その願いを私がかなえてさしあげましょう」
「……」
田上には、何のことだかさっぱり分からない。
「俺が、ある一人の女性を助けたいと願った?何のことだ?」
夢の中で自分を悪魔と言う者なんぞと真剣に会話をしている自分を馬鹿馬鹿しいと思いつつも田上は尋ねた。
「石原翔子さんですよ。田上君」
「石原?」
「そう、石原翔子。あなたは石原翔子があなたを好きな事を知っている」
「……」
田上は否定も肯定もしない。
「しかし、あなたにその気は無い。あなたは彼女の恋心を可哀相に思い、彼女に他の男性を好きになって欲しいと願った。違いますか?」
悪魔は言う。田上は早く夢が覚めないだろうかと願う。
現実主義者の田上としては、まさか自分が本当に悪魔と話をしているとは思ってはいない。
しかし言葉の丁寧さとは裏腹にこの悪魔から凶々しいものを感じずにはいられなかった。
もし本当に悪魔なら、その邪悪さを隠す為の慇懃な話し口調なのだろう。
しかしその丁寧さと、口調の中に秘められている微かな悪意とのギャップに田上はわずかに吐き気をもよおし始めていた。
「言っている意味が分からない。確かに俺は石原が俺では無く他の誰かを好きになれば彼女を苦しめなくて済むのにと言った」
「ええ」
「その願いをかなえてくれるということか?石原が俺では無い違う誰かのことを好きになるようにしてくれると言うことか?」
「そのとおりですよ。田上君」
悪魔は丁寧に田上の質問に答える。
「しかし、そうすることによってお前にいったいなんの得があるというんだ?よく聞くところの3つの願いをかなえて俺の魂を頂くというやつか?」
「ハハハッ、まさか!?違いますよ。昔の悪魔のお話ではそういうのもあったかもしれませんが……私は違います」
「……」
「まあ言うなれば、ボランティアみたいなものですよ」
「ボランティア?悪魔がボランティア?」
田上の言葉に、悪魔はムッとしたのか言った。
「……いけませんか?」
「何か俺を騙そうとしているんじゃないだろうな?」
「あなたも疑り深い人ですね。よく考えてごらんなさい。あなたを騙そうとしているのなら、最初から自分が悪魔だとはばらしませんよ」
「……」
「クックックッ、私は嘘が大嫌いなんです」
悪魔は楽しそうに言う。
「……お前の言いたい事はだいたい分かった。じゃあ、なんの見返りも無しに無料で俺の願いをかなえてくれるという訳だな!」
その言葉を聞くと悪魔は嬉しそうに目を細めて言った。
「その通り。これは私の嫌いな言葉の一つなのですが『信じる者は救われる』と言うやつですよ。田上君」
田上は悪魔のいやらしい喋り方にどうにも限界を感じ始めていた。
しかし悪魔の話はそれで終わりはしない。
「ところで、さっきも申し上げましたようにこれはボランティアです」
「ああ」
「悪魔の力を持ってすれば人間の心を操るのは造作も無い事なのですが、それだけではおもしろくありません」
悪魔は回りくどく言う。
「……」
「彼女の心を変えるのはあなた自身です。いや、別に難しい事ではございません。特別な道具をあなたに差し上げますよ。田上君」
「道具?」
「そう、道具です。正確には華の蜜です。明日の朝一番にあなたの通う大学の、あなたのいつも行くテニスサークルの部屋に行って下さい」
「行ったらどうなるんだ?」
「その裏手の花壇に私が小さな華を咲かせます。紅い華と蒼い華です」
悪魔のどうにも歯がゆい話し振りに田上は我慢できなくなり言った。
「華を咲かせてどうすると言うんだ!?その華が咲いたら石原の気持ちが変わると言うのか?」
そうだ。自分は眠りについたのだった。そして目の前に悪魔が現れた。
つまり、これは夢の中という訳か。
目の前の悪魔はとてもチープな雰囲気であった。子供が使うトランプのジョーカーのようなイメージだ。
両の耳がとんがった帽子を被って、暗いメイクをしたピエロのようである。
「ところで田上君。あなたは今日のコンパで、ある一人の女性を助けたいと願いましたね。その願いを私がかなえてさしあげましょう」
「……」
田上には、何のことだかさっぱり分からない。
「俺が、ある一人の女性を助けたいと願った?何のことだ?」
夢の中で自分を悪魔と言う者なんぞと真剣に会話をしている自分を馬鹿馬鹿しいと思いつつも田上は尋ねた。
「石原翔子さんですよ。田上君」
「石原?」
「そう、石原翔子。あなたは石原翔子があなたを好きな事を知っている」
「……」
田上は否定も肯定もしない。
「しかし、あなたにその気は無い。あなたは彼女の恋心を可哀相に思い、彼女に他の男性を好きになって欲しいと願った。違いますか?」
悪魔は言う。田上は早く夢が覚めないだろうかと願う。
現実主義者の田上としては、まさか自分が本当に悪魔と話をしているとは思ってはいない。
しかし言葉の丁寧さとは裏腹にこの悪魔から凶々しいものを感じずにはいられなかった。
もし本当に悪魔なら、その邪悪さを隠す為の慇懃な話し口調なのだろう。
しかしその丁寧さと、口調の中に秘められている微かな悪意とのギャップに田上はわずかに吐き気をもよおし始めていた。
「言っている意味が分からない。確かに俺は石原が俺では無く他の誰かを好きになれば彼女を苦しめなくて済むのにと言った」
「ええ」
「その願いをかなえてくれるということか?石原が俺では無い違う誰かのことを好きになるようにしてくれると言うことか?」
「そのとおりですよ。田上君」
悪魔は丁寧に田上の質問に答える。
「しかし、そうすることによってお前にいったいなんの得があるというんだ?よく聞くところの3つの願いをかなえて俺の魂を頂くというやつか?」
「ハハハッ、まさか!?違いますよ。昔の悪魔のお話ではそういうのもあったかもしれませんが……私は違います」
「……」
「まあ言うなれば、ボランティアみたいなものですよ」
「ボランティア?悪魔がボランティア?」
田上の言葉に、悪魔はムッとしたのか言った。
「……いけませんか?」
「何か俺を騙そうとしているんじゃないだろうな?」
「あなたも疑り深い人ですね。よく考えてごらんなさい。あなたを騙そうとしているのなら、最初から自分が悪魔だとはばらしませんよ」
「……」
「クックックッ、私は嘘が大嫌いなんです」
悪魔は楽しそうに言う。
「……お前の言いたい事はだいたい分かった。じゃあ、なんの見返りも無しに無料で俺の願いをかなえてくれるという訳だな!」
その言葉を聞くと悪魔は嬉しそうに目を細めて言った。
「その通り。これは私の嫌いな言葉の一つなのですが『信じる者は救われる』と言うやつですよ。田上君」
田上は悪魔のいやらしい喋り方にどうにも限界を感じ始めていた。
しかし悪魔の話はそれで終わりはしない。
「ところで、さっきも申し上げましたようにこれはボランティアです」
「ああ」
「悪魔の力を持ってすれば人間の心を操るのは造作も無い事なのですが、それだけではおもしろくありません」
悪魔は回りくどく言う。
「……」
「彼女の心を変えるのはあなた自身です。いや、別に難しい事ではございません。特別な道具をあなたに差し上げますよ。田上君」
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「そう、道具です。正確には華の蜜です。明日の朝一番にあなたの通う大学の、あなたのいつも行くテニスサークルの部屋に行って下さい」
「行ったらどうなるんだ?」
「その裏手の花壇に私が小さな華を咲かせます。紅い華と蒼い華です」
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