ミルクチョコほど甘くない

るー

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4智

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どうやって謝ろう……。


二限目が始まって暫く経ってもその事しか頭になかった。机の中の物を取るふりをしてさり気なく隣に目をやると、橘は身を小さく縮めて俺とは反対の窓の方に身体を向けていた。そのため表情は全く伺えない。何度かそれを繰り返し、橘が俺を避けるため外を向きっぱなしだとやっと気づいた。


それからは遠慮なく覗き込むようにして橘がこっちを向くのを待った。だが一向にその気配は見られず、俺は痺れを切らして自分から動いた。


机をノックして橘を呼んだ。ギョッとしたように驚いた橘の瞳には俺に対する怯えが見えた。その瞳を知った瞬間俺の中で何かが生まれた気がした。


「ごめん」


声には出さなかったが橘は理解したようで、やはり怯えながらコク、と頷いた。取り敢えず謝る事は出来た。だが俺は何かをやり残したようなそんな気持ちがつきまとい、その後もずっとサラサラな橘の黒髪を眺めた。


何だろう。何故か胸がモヤモヤしてスッキリしない。気づいたら橘に話しかけていた。


「なあ」


ビクリと細身の身体を震わせて橘がこちらを向いた。怯えきったその姿を見ると、自分が怒鳴ったのが余程怖かったのだろうとわかる。ふと机のノートに気を取られた。そういえば橘はどんな字を書くんだ?
奪い取るようにノートを手にすると今日の分は書かれていない。ペラペラと捲ると丁寧で綺麗な字質が飛び込んできた。


あのメッセージカードの字とは真逆と言っていいほど違う。


「俺の見る?」


自分のノートを橘の机に広げ、すぐに書き写せるようにした。もうこれは口実だ。

間近で橘の様子が見たい。

椅子を移動させ橘の顔がよく見える位置に身を構えた。


「結構です!」と橘が出した高い声で教室内は静まり返った後、騒ついた。誰かに邪魔されたくないので先手を打つことにする。


「こっち見ないで」


煩そうな女子に牽制するように笑い、周りを黙らせた。


「今日はここからだけど、読めない字とかあったら言って」


一切目を逸らさずに橘を見ていると、動揺しながらもノートを写し始めた。橘の怯えた視線が時々俺の存在を確認する。


ーーー凄く、そそる。


黒目の部分が多い橘の瞳は怯えているせいか少し涙目になって俺を捉えた。


「……終わりました」


すぐに伏せた睫毛や下がった眉尻、強く結んだ口元はまるで小動物がプルプル震えているようで、俺はたに興味が湧いた。


ノートは所々大事なポイントだけ拾って綺麗に纏めてあった。そういえば他のページも同じように見やすかった。ノートが見やすい人は成績がいいと聞いたことがある。橘はきっと成績がいい方だろうと感じた。それと同時にもう終わってしまったのかという思いが湧いた。



「二限のも見る?」

「いえ、もう十分です……」


言葉は丁寧だが態度が露骨に否定を示していた。今にも泣き出しそうな橘に俺は興奮すら覚えた。



こいつを可愛がりたい。




始業チャイムが鳴ったこともあり、俺は一旦自分の席に戻った。まだ窓の外に視線を置く橘に、俺は何度かまた机をノックした。怯えを見せながら意味がわからないと首を傾げる橘は最高に可愛かった。思わず顔が緩んでしまった。


昼になると橘は逃げるように机を離れた。机の横には通学カバンの他にポーチが一つ掛けてあり、上から覗くとどうやらお弁当のようだった。

俺はそれと自分の弁当を手に持つと、教室の後ろの扉に隠れるように立った。橘はこちらの扉からどこかへ行った。きっと戻って来る時もこちら側の扉をくぐる筈だ。

「一ノ瀬何してんだ?」

「内緒」

近くにいたクラスメイトが怪訝な顔で訊ねてきたが笑ってやり過ごした。女子の何人かもずっと俺の事を見ているがそんなの気に留めずに、早く橘が戻ってこないかワクワクした。
暫くすると橘がコソッと戻ってきた。、俺に気づかず教室に入った所を後ろから捕まえた。


「橘、こっち」


手首を掴んでグイグイ引っ張って行くと後ろから「えっ、えっ?」と戸惑った可愛いらしい声が聞こえた。どこに連れ込もうか迷った結果、校舎一階にある家庭科調理室にした。鍵は常に空いてるし、覗いてみたが誰も使っていなかった。



「一ノ瀬くん?な、何?」


調理室の一番奥の椅子にたちを無理矢理座らせた。当然教室と同じ怯えた目が俺に向けられる、俺は迷わず橘のすぐ真横の椅子に座った。


「これ、弁当だろ?ここで一緒に食べよう」

「た、食べ……?」


もっぱら混乱中という具合に橘の顔が歪んだ。俺は上機嫌で彼女の弁当を勝手に広げてから自分のも出した。


「……っ、く」


急に調理室に嗚咽が響いた。橘は大粒の涙を流しながら下を向いて泣いていた。

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