ミルクチョコほど甘くない

るー

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8 智

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最初ただ怯えていた深雪は徐々に俺の顔色を伺うようになった。俺は深雪の怯える顔見たさにわざと意味深に笑いかけたりした。


ーーまた深雪の泣いた顔が見たい。


隣をついて歩く深雪を見下ろしながら、昨日の涙で濡れた瞳を思い出す。


バレンタインには一日早いが深雪にチョコをねだった。どうせこの後一緒に食べるのだからと思い、深雪の好みで選んだ。そんな事を夢にも思ってないであろう彼女は「本当にこれでいいの?」と小さく聞いてきた。

いいんだよ。そのチョコはオマケみたいなモンだから。


俺の家に着いた時の深雪の驚きと怯える顔が見たくて騙すようにして深雪を部屋に連れ込んだ。しかし深雪は怯えるどころかマンションの内装や家の中のインテリアに気を取られ、自分がどれだけ危ない場所に足を踏み入れたのかなんてこれっぽっちも感じてない。男の部屋に入ったらどうなるかなんて想像した事もないんだろう。ウブすぎる彼女の様子に、これなら正当に連れてきても反応は一緒だったと思った。


深雪に近寄って座るといつもの怯えた顔に戻った。髪も染めてないしメイクもしてない。地味なだけで顔の造りはいい方だと思う。女子の友達ばかりで仲のいい男子はいない。俺に対する怯えとは違った部分、男慣れしていないという戸惑った態度から考えると好きな男もいなさそうだ。この真っさらな彼女を俺一色に染めていくのがとても楽しみでたまらない。


「さっきのチョコ食べたい」

「あ、はい……どうぞ」

箱を受け取り包みを開けてチョコを選ぶ。無難に一番甘いチョコにした。あまりチョコを食べない俺でもわかる。ビターなものより甘い方が口溶けがいい。

「深雪こっち向いて」

肩を竦めた後、眉尻が下がった顔がこちらを見上げた。そんな上目遣いされると気の早いヤツならもう襲ってるだろうな。

「はい、口開けて」

まだ閉じていた彼女の唇にチョコを押し当てた。目をパチパチさせながらも僅かに開いた口に無理矢理押し込んだ。

「噛んだらダメだよ」

これからしようとしている事を想像したらとても胸が高鳴った。俺の笑った姿に深雪は何かを感じたらしくすぐに顔が青ざめた。

「おいしい?」

深雪はチョコを入れられてから口が動いてない。舌の上にただ置いてあるだけの状態なのだろう。そんなんじゃあせっかくのチョコも美味しくないだろうな。

さて、ここからが本番だ。


縫い付けられたように俺の目を見ている困惑した瞳に顔を寄せると声を落として言った。


「深雪、それちょうだい」

深雪は何を言われているか理解できず眉を寄せて瞬いた。

「深雪の口の中にあるチョコを俺に食べさせて。もちろん手は使うなよ」

やっと意味がわかったようで目が見開かれた。口の中に溜まった唾をごくんと飲み込むと泣きそうな表情でゆるゆると首を横に振った。

できない

そう言いたいのだろうが喋れないためひたすら首を振っている。

「早くしないとチョコ溶けちゃうだろ」

ちょっと強めな口調に深雪は口に手を当て、とうとう涙を流した。いい眺めだ。ゾクゾクする。

「深雪」

顔をさらに近づけ低い声で名前を呼ぶと深雪は何かを考えるように瞳をぎゅっと閉じた。その拍子に大粒の涙が頬を伝った。そして伏せ目がちに目を開けると俺に顔を寄せてきた。

ふわりと暖かいものが唇に僅かに触れ、直後にチョコの甘い香りが鼻腔をくすぐった。僅かに触れた深雪の唇は緊張のためか震えていた。そしてつるりとしたものが俺の唇に当たった。唇に隙間を作りそれを迎えると彼女はすぐに身体を離した。

「甘いな」

「……っう、うう」

声を出して泣き出したが俺はさらに酷い言葉を投げかけた。もっと怯えてもっと泣けばいい。

「チョコ半分溶けてたな。次、これにしようか」

「そ、そんな……。っ、もうできなっ」

さっきのより色の濃いチョコを深雪の口に放り込んだ。逃げるように顔を背け、後ずさった彼女の両腕を捕まえた。グイッと引き寄せ今までにないくらい身体を密着させた。
俺の懐に凭れるようになった深雪は全身を硬直させた。

「さっきと同じ事をするだけだよ」

言い聞かせるように耳元で囁き顎を指先で掬った。これ以上ないくらいに彼女の目の奥が俺を拒否していた。

「終われないと帰れないよ?」

深雪の顔がそんな!と歪んだ後、諦めたようにポロポロと涙を流しながらまた顔を寄せてきた。先程と同じように僅かに触れた唇越しにチョコを渡されたが唇が離れる前に俺は深雪の後頭部を押さえつけ唇を深く重ねた。

「んー!!」

俺の口にあったチョコを再び深雪の口内へ戻した。けっこう溶けていたからきっとすぐに溶けてなくなる。抗議の声が鼻から漏れて聞こえた。深雪は俺の胸を強く押し返してくるがそんなの全く効かないとわからせるため、もう片方の手で彼女の腰をしっかり固定した。

舌を入れるとビクッと細身の身体が震えた。さっきまで反発させていた手はその動きを止め、俺の舌に集中しているかのように大人しくなった。きっと未知の体験に困惑と混乱している部分もあるんだろう。深雪の反応が良すぎて俺は体温が一気に上がった。

深雪の舌を探り当てると舌先で呼びかけるように撫でた。甘ったるい唾液がお互い口の中に溜まってぬるぬるとしたなんとも言えない感覚が生まれた。

「……深雪、チョコありがとう。美味いよ」

そう優しく言ってもう一度キスした。唾液で濡れた唇を啄んでまた甘い舌を探った。執拗に舌を絡めていると無反応だった深雪の舌がほんのり応えた。俺は思う存分口内を弄りながら、目を閉じてそれを受ける深雪の頭を撫でた。唾液でふやけてるんじゃないかと思うくらい長くくっついていた唇をゆっくりと離した。深雪の顔を覗き込むと怯えもなく苦痛でもないぼんやりした表情で俺を見た。

ああ、泣いた顔もいいが、こういう無防備の表情も唆る。

「俺の深雪は可愛いな」

力が抜けた身体を抱き締め、耳に熱い息とともに囁きながらこの先に進むか迷う。こんな無理矢理キスされても今は泣く様子もなく大人しくなった深雪の様子から難無く最後までできてしまうだろう。だがそれだと楽しみが一気に終わってしまい勿体無い。
彼女は俺から逃げられないし、逃さない。これからじっくり味わうとすることにした。



でも今日はもう少しだけ齧っておこう。


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