刈り上げの先に、あなたがいた。

S.H.L

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第5章:告白と選択のとき

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秋風が吹きはじめ、カフェの前に並ぶ街路樹の葉が少しずつ色づいてきた頃。

薫は毎朝のルーティンであるスキンヘッドのメンテナンスを終え、鏡の前でタオルを巻いた自分と向き合っていた。地肌はしっとりとしていて、剃りたて特有の光沢がある。眉のない顔も、今ではすっかり「自分」として馴染んでいた。

「もう、違和感すらないんだな……」

そうつぶやいたとき、背後から彼の手が伸び、静かに頭を撫でた。

「今日も完璧。ほんと、ツルツル。最高」

「……ありがと。あなたの手、ほんとに慣れてきたね。剃るの、プロ並みだよ」

「そりゃ、毎日やってるからね。俺にとっても、これが朝の儀式みたいなもんだよ」

ふたりは軽く笑い合った。

だがその笑顔の裏で、薫の胸の奥には、別の感情がじわじわと広がっていた。

(ずっと、このままでいられるんだろうか……)



ある日。カフェの休憩中、同期の美帆がそっと隣に座ってきた。

「ねえ、薫……ちょっと聞いてもいい?」

「ん?なに?」

「最近さ……なんか、変わったよね。髪型だけじゃなくて、雰囲気も。前より堂々としてるっていうか、でも、ちょっと遠くなったような……」

その言葉に、薫は一瞬返答に詰まった。

「……そっか、やっぱり変わったように見える?」

「うん。もちろん、悪い意味じゃないよ。だけど……あまりにも急にスキンヘッドにしたから、びっくりしてて。悩んでたとか、何かあったのかなって……」

薫は深く息を吸い、紙カップのコーヒーに目を落とした。

「実はね……好きな人がいるの。お客さんだった大学生なんだけど……私、その人と関係を持っちゃって……それで……髪も、眉毛も、全部剃られて……」

美帆は絶句した。

「……え、それって……その人に無理矢理……?」

「ううん。最初は戸惑ったけど、今は……自分でこのスタイルを選んでる。私、なんていうか……彼といると、すごく“自由”でいられるの。髪も、考え方も」

「……本気、なんだね」

「うん。でもね、このままでいいのか、時々不安になるの」



数日後。

薫は久しぶりに実家に帰ることを決意した。理由は、母親の誕生日を祝うためだったが、それ以上に——今の自分を隠していられなくなったからだった。

実家の玄関前。帽子を被ったままインターホンを押すと、懐かしい母の声が響く。

「薫?久しぶりねぇ!」

扉が開き、明るく笑う母が顔を出す。

「ちょっとやせた?でも元気そうじゃない。入って入って」

薫は黙って中に入り、リビングのソファに腰を下ろした。母がケーキを運んできたタイミングで、静かに口を開いた。

「……お母さん。ちょっと、驚かないで聞いてね」

そう言って、帽子を脱いだ。

一瞬、時間が止まったように感じた。

「……えっ……」

母の手が止まり、ケーキ皿の揺れる音だけが響いた。

「どうしたの、それ……病気とか……じゃないよね?」

「ううん。私が、選んで……剃ったの。眉毛も」

「……なんで?あなた、髪の手入れ、昔から好きだったじゃない……ロングヘアもよく似合ってたし……」

「でも、今の方が……私らしい気がするの。誰かの期待じゃなくて、自分で選んだ私、って感じがして」

母はしばらく黙っていた。そして、震える声でこう言った。

「……幸せなの?」

その言葉に、薫はしっかりと目を合わせてうなずいた。

「うん、幸せ。今までで、一番かも」



その夜。実家を出た薫は、アパートへ戻る途中で彼と電話を繋いだ。

「どうだった?」

「……お母さん、最初は驚いてたけど、ちゃんと話したよ。“幸せならそれでいい”って言ってくれた」

「……そっか。それ、よかった」

「ねえ、私、これからどうしたらいいかな。あなたとの関係も、職場での立場も、全部……いずれ表に出てくると思うの」

「だったら……一緒に住まない?」

「え?」

「隠すより、ちゃんと“見せていく”生き方の方が、薫さんには合ってる気がする。俺、ずっと剃ってあげたい。毎日、一緒にいたい」

「……私も、一緒にいたい」

電話越しの沈黙が、温かさに変わった。

(選ばなきゃいけない。どこかで、必ず)

薫の中に、揺るぎない決意が芽生え始めていた。
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