髪に刻まれた記憶

S.H.L

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第2章

隠された儀式

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第2章 隠された儀式



 その夜、七瀬は布団の中でじっと天井を見つめていた。

 隙間風が障子を揺らし、外では風が木々を打ち付けている。
 七瀬は枕元で震える手を静かに握り締めた。

 ――髪を剃る儀式。

 悠真の言葉が耳に残っている。

 「少女の髪が剃られていた」

 儀式だったのか。
 それとも――

 七瀬はゆっくりと目を閉じた。



 七瀬が再び目を覚ましたのは、午前2時を過ぎたころだった。
 背筋をざわりと冷たいものが這う感覚に、目が覚めたのだ。

 「……何?」

 部屋の空気が変わっている。
 壁にかかった鏡に、自分の姿が映っていた。

 そして――

 鏡の後ろに誰かがいる。

 「……!」

 七瀬は身を起こした。

 ギィ……

 障子がわずかに開いた。

 「誰?」

 障子の隙間から、黒い髪が見えた。
 七瀬は唾を飲み込み、障子をゆっくり開けた。

 そこには――誰もいなかった。

 七瀬は廊下に出て、手を震わせながら歩いた。
 宿の廊下はひっそりと静まり返っている。

 「……気のせい?」

 そう思った瞬間――

 カラカラカラ……

 奥の扉が、ひとりでに開いた。

「……誰?」

 七瀬は恐る恐る扉を開けた。

 そこには誰かの髪が落ちていた。
 長い黒髪。
 そして、その隣に刃物が置かれている。

 「……どういうこと……?」

 七瀬は刃物を拾い上げた。
 その瞬間――

 耳元で声がした。

「……髪を切って……」

「誰……?」

 背後に人の気配を感じて振り返った。
 そこには――何もなかった。



「どうかしたのか?」

 七瀬が廊下に立ち尽くしていると、後ろから声がかかった。
 振り向くと、橘晶哉が立っていた。

「……何か、いたのかもしれません」

「何か?」

「廊下に……髪が落ちていたんです」

「……髪?」

 橘は眉を寄せた。

「これです」

 七瀬が拾った髪の束を見せると、橘は一瞬目を見開いた。

「……これは……」

「知っているんですね?」

 橘はわずかに口を開いたが、すぐに視線を逸らした。

「……気のせいだろう」

「でも……」

「余所者がこの村のことに深入りすると、ろくなことにならない」

 そう言って橘は立ち去った。



 翌朝、七瀬は宿の前にいた。
 空には分厚い雲がかかり、山々が灰色の霧に包まれている。

 「ここが……事件があった神社」

 七瀬は悠真に言われた通り、神社の裏へと向かった。

 雪を踏みしめながら歩いていくと、木立の向こうに社殿が見えた。
 社殿の裏には、古びた井戸があった。

 「これが……」

 その時だった。

 ギィィィ……

 社殿の扉が開いた。

 「……?」

 中に誰かいるのか――

 七瀬はそっと扉を押し開けた。

 ――社殿の中には、無数の黒髪が散乱していた。

 「……なに、これ……?」

 髪は床一面に散らばり、刃物が中央に置かれている。
 まるで「儀式」の跡のようだった。

「……七瀬さん」

 七瀬は振り返った。

 社殿の入口に悠真が立っていた。

「これが……50年前の儀式の跡です」

「髪を……剃る儀式?」

「そう」

 悠真は社殿の中に足を踏み入れた。

「この村には、昔から神への供物として『髪を剃る儀式』があった」

「それが、50年前に起きた事件と関係しているんですか?」

「……あの日、少女は生贄にされたんです」

 七瀬は息を呑んだ。

「神への供物として……髪を剃られた」

 悠真は刃物を拾い上げた。

「50年前の事件は、村が隠した『儀式の失敗』だった」

「失敗……?」

「儀式を途中で止めたんです」

「それで……少女は……?」

「だから殺された」

 七瀬は背筋が冷たくなるのを感じた。

「誰が……?」

「成宮家の人間が……」

 悠真がそう言った瞬間――

 社殿の扉が閉まった。

 「!」

「逃げろ!」

 悠真が叫んだ。

 七瀬は刃物を落とし、必死で扉に駆け寄った。
 しかし扉は開かない。

 「誰かが……外から閉じてる!?」

 その時、背後で声が聞こえた。

「……髪を……切って……」

 七瀬は振り返った。

 社殿の奥に、人影があった。
 白い着物を着た少女が、七瀬をじっと見ている。

 「……誰?」

 少女はゆっくりと顔を上げた。

 「……姉さん……?」

 少女は微笑んだ。

 ざくっ

 七瀬は髪が一本落ちる音を聞いた。



「七瀬!」

 扉が勢いよく開いた。
 橘が立っていた。

「七瀬!」

 橘が七瀬を抱きかかえた。
 七瀬は震える声で言った。

「……今……姉さんがいたの……」

「……見間違いだ」

 橘は七瀬を抱きしめた。
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