6 / 8
第6章
しおりを挟む
第六章 大学、迷いの季節
大学に入ると、練習の質はさらに上がり、同時に世界の広さが目に入ってきた。化粧、ファッション、アルバイト、サークル、恋愛。
髪を伸ばせば似合うだろう、と言ってくれる友人もいた。
「一回くらい、伸ばしてみない?」
「うーん……試してもいいけど、試しているあいだに0.1秒、遅くなるかもしれない。私には、0.1秒が重いんだ」
「ストイックだね」
「うん。髪が短いと、朝の迷いが減るから。迷いの分だけ、走ることに回したい」
それでも、迷いはゼロにはならなかった。就職活動。企業説明会。
鏡の前でスーツを合わせ、ネクタイで整えた男子学生の群れに混じって、自分のスポーツ刈りがどんな風に見えるのか、ふと心が弱くなる夜があった。
床屋の椅子で、その弱さを正直に吐き出した。
「就活で、髪……不利かな」
「不利で言えば、色んな要素が不利さ。けれどね、“君自身が選んだ髪型”は武器になる。『なぜその髪型なのか』を語れるかどうか。理由のある短髪は、説得力がある」
理容師の言葉を、結衣は胸のポケットにしまうように受け取った。
そして実際、面接で訊かれた。
「女性にしては短いですね」
結衣は笑って答えた。
「私は陸上を通して、毎朝のルーティンを厳密にし、迷いを削ぎ、集中を高めることを学びました。スポーツ刈りはその象徴で、私にとっては“今日も走る”という宣言です。組織の中でも、私は自分で決めたことを継続し、成果で語ります」
面接官は目を細めた。
「いいね。続けることは難しい。続けている人の言葉は、強い」
⸻
大学に入ると、練習の質はさらに上がり、同時に世界の広さが目に入ってきた。化粧、ファッション、アルバイト、サークル、恋愛。
髪を伸ばせば似合うだろう、と言ってくれる友人もいた。
「一回くらい、伸ばしてみない?」
「うーん……試してもいいけど、試しているあいだに0.1秒、遅くなるかもしれない。私には、0.1秒が重いんだ」
「ストイックだね」
「うん。髪が短いと、朝の迷いが減るから。迷いの分だけ、走ることに回したい」
それでも、迷いはゼロにはならなかった。就職活動。企業説明会。
鏡の前でスーツを合わせ、ネクタイで整えた男子学生の群れに混じって、自分のスポーツ刈りがどんな風に見えるのか、ふと心が弱くなる夜があった。
床屋の椅子で、その弱さを正直に吐き出した。
「就活で、髪……不利かな」
「不利で言えば、色んな要素が不利さ。けれどね、“君自身が選んだ髪型”は武器になる。『なぜその髪型なのか』を語れるかどうか。理由のある短髪は、説得力がある」
理容師の言葉を、結衣は胸のポケットにしまうように受け取った。
そして実際、面接で訊かれた。
「女性にしては短いですね」
結衣は笑って答えた。
「私は陸上を通して、毎朝のルーティンを厳密にし、迷いを削ぎ、集中を高めることを学びました。スポーツ刈りはその象徴で、私にとっては“今日も走る”という宣言です。組織の中でも、私は自分で決めたことを継続し、成果で語ります」
面接官は目を細めた。
「いいね。続けることは難しい。続けている人の言葉は、強い」
⸻
1
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる