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第7章
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第七章 社会へ、そして床屋は続く
社会人一年目。朝の通勤電車は、トラックよりも混み合っていた。
だが、朝の支度は驚くほど短く済んだ。
シャワー。タオルで頭を押さえ、前髪を手で軽く上げる。鏡の前に立つ時間は三十秒。学生時代に理容師が言った通りだ。
ランニング用のシューズは玄関に置きっぱなし。帰宅したらすぐに走れるように。
部署で最初に声をかけてくれた先輩は、同じ陸上経験者だった。
「髪、現役みたいだな」
「現役、続けてます」
土曜の早朝、河川敷で練習する市民クラブに入った。年齢も職業も違う仲間と走る。スパイクの音ではなく、ロードの足音。けれど、競うことの本質は変わらない。
季節ごとに床屋へ行く。いや、季節ごとどころか三週間ごと。
「今回は、横3ミリ、後ろ3ミリ、前短めで」
「お、攻めるねえ。夏だからね」
刃が皮膚に近づくほど、輪郭は厳しくなる。顔つきも、覚悟も。
「最近、後輩の女の子が、私の髪を見て“かっこいい”って言ってくれて」
「うん」
「でも同時に、『女らしさがないって言われないですか』って訊かれて、少し考えちゃった」
理容師は手を止めない。バリカンがこめかみの上を一定の速度で走る。
「“女らしさ”って言葉は、誰かが置いたピンの位置だ。自分でピンを打ち直せばいい。走るラインを決めるのは、君だよ」
「……はい」
⸻
社会人一年目。朝の通勤電車は、トラックよりも混み合っていた。
だが、朝の支度は驚くほど短く済んだ。
シャワー。タオルで頭を押さえ、前髪を手で軽く上げる。鏡の前に立つ時間は三十秒。学生時代に理容師が言った通りだ。
ランニング用のシューズは玄関に置きっぱなし。帰宅したらすぐに走れるように。
部署で最初に声をかけてくれた先輩は、同じ陸上経験者だった。
「髪、現役みたいだな」
「現役、続けてます」
土曜の早朝、河川敷で練習する市民クラブに入った。年齢も職業も違う仲間と走る。スパイクの音ではなく、ロードの足音。けれど、競うことの本質は変わらない。
季節ごとに床屋へ行く。いや、季節ごとどころか三週間ごと。
「今回は、横3ミリ、後ろ3ミリ、前短めで」
「お、攻めるねえ。夏だからね」
刃が皮膚に近づくほど、輪郭は厳しくなる。顔つきも、覚悟も。
「最近、後輩の女の子が、私の髪を見て“かっこいい”って言ってくれて」
「うん」
「でも同時に、『女らしさがないって言われないですか』って訊かれて、少し考えちゃった」
理容師は手を止めない。バリカンがこめかみの上を一定の速度で走る。
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「……はい」
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