刃先に触れる恋 —君が短くなるたび、僕は惹かれていく—

S.H.L

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第1部

第13章:まっすぐ立つ頭と、折れない視線

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第13章:まっすぐ立つ頭と、折れない視線

1|1mm坊主で出勤する朝、駅前が静まり返った

 翌朝。
 澪は1mm坊主のまま出社した。

 駅の自動ドアのガラスに映る自分は――
 もう、誰の影にも隠れない女だった。

 地肌が少し透けて見えるほどの短さ。
 どこから風が吹いても揺れようがない強さ。
 自分でも驚くほど、凛として見える。

 (大丈夫。行ける)

 電車に乗った瞬間、
 乗客たちの視線を少し感じたが、
 もう気にならない。

 むしろ、
 視線のほうが引き下がっていった。



2|職場が“止まった”後、静かに認める空気が生まれた

 営業三課のフロアに入る。

 「……え?」
 「澪さん……?」
 「うそ……1ミリ……?」

 一瞬で空気がざわついた。

 だが、
 前回のスキンヘッドほど“騒ぎ”にならなかった。

 理由は――
 澪の顔つき が変わったことで、
 周囲が“からかう隙”を見失ったからだ。

 市村部長が、遠くから歩いてきて言った。

 「三枝。いいじゃないか、その髪。
  堂々としていて、むしろ清々しい」

 (部長が……褒めてる?)

 「変に隠したり迷ったりしてるより、ずっといい。
  今日の会議、任せるからな」

 澪は深く頷いた。

 堂々と。
 まっすぐと。
 “坊主”にふさわしい姿勢で。



3|再び訪れた――あの取引先との“リベンジ”

 午後。
 先週、厳しい言葉を受けた取引先企業との再提案の場。

 今回は、
 澪ひとりではなく、課長も同席してくれていた。

 だが――
 交渉の主導権は澪に預けられた。

 「三枝、行け。
  お前の言葉で話せ」

 課長がそう言ってくれた瞬間から、
 澪の胸は静かに熱くなった。

 (この頭で、この気持ちで……必ず通す)

 会議室に入る。
 担当者は前と同じ厳しい表情をしていたが、
 澪の姿を見るなり、目を瞬かせた。

 1mm坊主の彼女は、
 以前よりはるかに強く見えたはずだ。

 「本日は、再度ご提案のお時間をいただきありがとうございます。
  前回のご指摘を受け、根本から見直しました」

 澪は、
 原稿に頼らず、自分の言葉で話し始めた。



4|“折れない声”が、空気を変える

 澪の説明は簡潔で、
 前回指摘された点を一つずつ修正していた。

 担当者の眉が、徐々に緩む。

 やがて――

 「……よくここまで短期間で立て直しましたね」

 その言葉を聞いた瞬間、
 胸の奥が震えた。

 (通った……)

 「今回の案で、進めましょう」

 横で課長が小さく拳を握った。

 澪は丁寧に頭を下げた。

 頭を下げたとき、
 1mm坊主の頭皮が光を受けて
 わずかに反射した。

 担当者は、一瞬だけ視線を止めた。

 (“覚悟”を感じてもらえた……?)

 そんな気がした。



5|帰り道、胸がふるえて止まらなかった

 会社へ戻る電車の中で、
 澪は頭を触った。

 ざら……ざら……

 1mmの手触りが、
 “やりきった”自分を肯定してくれる。

 (この髪でよかった……)

 胸がいっぱいになり、
 涙がこぼれそうになる。



6|仕事帰りに、自然と圭介に連絡していた

 改札を抜けたところで、
 澪は立ち止まった。

 (……圭介さんに、報告したい)

 自然にスマホを開いていた。

 澪:
  今日、交渉通りました。
  全部……やりきれました。

 送信。

 少しして返信が返ってくる。

 圭介:
  だろうな。
  1mmにした顔で、しくじるやつはいない。

 その言葉を読んだ瞬間――
 涙が滲んだ。

 (なんで……こんなに嬉しいんだろう)

 心が熱くなる。
 短い髪が、風に揺れる。



7|その夜、圭介からの“追いメッセージ”

 帰宅して着替えていると、
 スマホが震えた。

 圭介からのメッセージ。

 圭介:
  澪。
  強くなったのは髪のせいじゃない。
  髪を変えるって決めた“澪自身”のせいだよ。
  おめでとう。

 澪はしばらく画面を見つめた。

 (……好きだ、この人の言葉)

 そして、
 頭を撫でた。

 ざらり。

 今日の仕事のすべてが、
 その感触に宿っている気がした。
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