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第4章 風を受けて
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月曜の朝。正門前に立った葵は、ゆっくりと深呼吸をした。
肌寒い風が、剃ったばかりの頭皮に直接吹きつける。数日前までは感じることのなかった感触。それは確かに異質で、そして――少しだけ誇らしかった。
「よし……行こう」
制服の襟元を直しながら登校する彼女の周囲には、ざわめきが起こっていた。
「え、あれ……坊主?」
「マジで? あの子、新入生でしょ?」
「あんな可愛い顔して、坊主って……なにかやらかした?」
好奇の視線が突き刺さる。だけど、葵は足を止めなかった。
その視界の先に――すでに登校していた梨沙がいた。スポーツ刈りになった頭にキャップをかぶっていたが、教室の前ではそれをそっと外していた。
「……おはよう、梨沙」
「お、葵……」
梨沙はその姿に一瞬、目を見開いた。
「まじで、坊主……すご……似合ってるじゃん……」
「梨沙だって、カッコいいよ」
「どこがだよ……昨日の夜なんか、家で母さんにギャン泣きされたんだから」
「そっか……」
二人は互いの頭を見て、笑った。
その後ろから、美鈴、真央、千夏も合流してきた。美鈴は風に前髪をなびかせながら、「さっぱりしたから、ジャンプ力上がった気がする」なんて言っていた。
真央はまだ鏡を見ては「前髪足りない……」とぼやいていたけれど、それでもどこか誇らしげにしていた。
そして千夏は、登校中にクラスメイトから「後ろ、どうなってるの!?」と驚かれながらも、小さく頷いていた。
「……これが、私たちの始まりなんだよね」
葵がぽつりと呟いた。
「そうね」と美鈴が頷く。「髪を切ったことで変わったけど……」
「でも一番変わったのは、心かもね」と真央が続けた。
「覚悟、ってやつだね」梨沙が小さく笑った。
「私も……強くなりたい」千夏が最後に言った。
昼休み。バレー部のグラウンドに5人が並んだとき、主将の詩織は感慨深げに彼女たちを見渡した。
「どの髪型も、みんなよく似合ってる。でもそれ以上に――」
詩織は全員の顔をひとりひとり見てから、言った。
「目が変わったね。戦う目になった」
その言葉に、誰もが無意識に姿勢を正した。
この日から、瑞穂女子高校バレー部の新たな伝説が始まった。
坊主のエース・葵
スポーツ刈りのリベロ・梨沙
ベリーショートのセッター・美鈴
ショートカットのウイングスパイカー・真央
おかっぱ刈り上げのレシーバー・千夏
5人はそれぞれの髪型とともに、仲間と、己の弱さと、真剣に向き合っていくことになる。
肌寒い風が、剃ったばかりの頭皮に直接吹きつける。数日前までは感じることのなかった感触。それは確かに異質で、そして――少しだけ誇らしかった。
「よし……行こう」
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「マジで? あの子、新入生でしょ?」
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好奇の視線が突き刺さる。だけど、葵は足を止めなかった。
その視界の先に――すでに登校していた梨沙がいた。スポーツ刈りになった頭にキャップをかぶっていたが、教室の前ではそれをそっと外していた。
「……おはよう、梨沙」
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梨沙はその姿に一瞬、目を見開いた。
「まじで、坊主……すご……似合ってるじゃん……」
「梨沙だって、カッコいいよ」
「どこがだよ……昨日の夜なんか、家で母さんにギャン泣きされたんだから」
「そっか……」
二人は互いの頭を見て、笑った。
その後ろから、美鈴、真央、千夏も合流してきた。美鈴は風に前髪をなびかせながら、「さっぱりしたから、ジャンプ力上がった気がする」なんて言っていた。
真央はまだ鏡を見ては「前髪足りない……」とぼやいていたけれど、それでもどこか誇らしげにしていた。
そして千夏は、登校中にクラスメイトから「後ろ、どうなってるの!?」と驚かれながらも、小さく頷いていた。
「……これが、私たちの始まりなんだよね」
葵がぽつりと呟いた。
「そうね」と美鈴が頷く。「髪を切ったことで変わったけど……」
「でも一番変わったのは、心かもね」と真央が続けた。
「覚悟、ってやつだね」梨沙が小さく笑った。
「私も……強くなりたい」千夏が最後に言った。
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