花散る男女

トリヤマケイ

文字の大きさ
5 / 81
第1部 奈美編

🎵4 仔猫3匹と奈美とアイスティをザッハトルテで

しおりを挟む
   奈美がやってきた。気を利かせて近所にできて美味しいと評判らしいお店から カヌレを買ってきてくれた。

   冷やしておいた紅茶で、カヌレを一緒に食べた。部屋にはコルコバードというボサノヴァが静かに流れている。京の大好きな曲だった。

   仔猫たちはまだ眠っている。

「京くんちは、やっぱり猫飼ってたの?」

「うん。シロとチビがいた。仔猫の独特な匂いってわかる?   その匂いをね、きょう久しぶりに思い出したよ」

「どんな匂い?   ミルクみたいな?」

「んー。なんとも言えないな。シロがね、6匹くらいだったか、仔猫を産んだんだよ。そしたら、父さんが小箱の中に仔猫たちを入れて、どこかに行こうとしてて一緒にバイクに乗って行ったんだよね、わけもわからずに」

「誰かにあげるみたいな?」

「そうならまだよかったかな。で、そこは奥深い山間にある山村で、川も急流でね滝もあるし遠くからでもゴーゴー川の流れる音が聞こえるほどで、 バイクはどんどんその川の音の方へと近づいていくんだよ。で、ある場所でバイクを止めた父さんは、荷台に括り付けた小箱をバンドから外して、おもむろにそこからは見えない川へと放ったんだ」

「京くんは、その時どう思ったの?」

「憶えてない。でも一生忘れられない。家に帰ったら急にいなくなってしまった仔猫たちを見つけようとしてシロは、鳴きながらそこらじゅうを探してた」

「そうなんだ。悲しいね」

「まあ、もうどうしようもないんだけどね。で、その後、父と母は離婚することになるんだよね、関係ないけどさ」

「え?」

「今までこんな事は考えたこともないし、馬鹿らしいこじつけに過ぎないとは思うんだけど」

「まさか、シロと仔猫ちゃんたちの呪いとか、言わないでよね」

「やっぱりそう思った?」

「いえいえ、そんな馬鹿な。ただ、京くんはそう考えてるのかなって」

「さすがだな。そうなんだよ、その線もありなのかと思ったり思わなかったり。この子たちのお陰で、あの日の事をまざまざと思い出しちゃったんだけど、父も猫が嫌いなわけもないし、勝手にあんな事はしないと思うんだよ。その時の父と母のやりとりの中で、たぶん、そういうことになった、そんな気がする」

「処分するしかないって?」

「そうだね。それで、呪いの線もたしかにあるかもしれないとは思う。それは、その後に家族が離散することになるわけだから、シロと仔猫たちと同じ境遇になっているわけじゃん。なのでその線もなきにしもあらずかな」

「猫の呪いのために離婚?」

「誰にもその因果関係を証明できないけどね」

「京くんは、なんていうの?   神秘主義者だからね」

「そうなの?   自分じゃわからない。とにかく呪いなわけないとしても、一家離散する暗示があの日にあったということなのかもしれないとは思ってる」

「あー!   じゃあさ、今日こうして仔猫ちゃんたちもまた一緒になれたということは、何かを暗示してるってこと?」

「何が言いたいの?」

「へへへ。わかってるくせに」

「はい?」

「京くんが捨て猫ちゃんたちを拾ってきました。そして、その日に私も一緒にいます。ということは、つまり、離散した家族がまた一緒になるっていうことでしょ?   即ち、京くんと私は結婚するという暗示です」

「なるほど。たしかに一理あるかも。そうなればいいけどね、茨の道だからなぁ」

「そんなこと言わないでよ。明るい未来が見えてるでしょ。京くんは勉強さえすれば医院長先生なのよ?」

「それな!   良くても悪くてもそれな!   だよ。俺、先生って柄かな」









   奈美は、その晩は京のところに泊まらずに帰った。

   暫くしたら起き出してきた仔猫たちと遊んでいた奈美は、童心に帰ったように目を輝かせ、うれしそうだった。

   実は、冷蔵庫にザッハトルテの買い置きがあったのだが、せっかくの奈美の好意を無にしてしまうようで、京は結局最後まで奈美には言いそびれてしまった。

   京は、奈美を駅まで送ってから帰りの道すがら、自分でもあれはおかしいのではないかと思った。何もザッハトルテあるんだよと言っても、気立てのいい奈美は嫌な顔をしなかったはずなのだ。恋人同士であるのに、何か他人行儀な遠慮をしてしまうのはなぜなのだろう。

   思いやりと気づかいは似て非なるものなのではないか、と京は思った。相手を思いやることと、気をつかうこと。同じことなのだけれど、自然体で相手を思いやってさらりとできた言動と、相手に気をつかってとった言動は、同じ言葉や行為でも、むろん同じではないだろう。

   ぶっちゃけ、奈美としても父の意向に逆らえない自分がいるので、京に対して強く言えないということは確かにあるし、また、独立心の強い京が、逆玉に甘んじるとも思っていないのではないかと京は思っている。

   奈美としても、希望は捨てたくはないし、まだまだ時間はあるのだから長いスパンで考えてほしいということなのだろう。優しい子だから、無理強いをしない。そんな奈美を京は、愛おしいと思った。

  果たして、仔猫3匹と暮らす未来の京の横には奈美がいるのだろうか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ピンクローズ - Pink Rose -

瑞原唯子
恋愛
家庭教師と教え子として再会した二人は、急速にその距離を縮めていく。だが、彼女には生まれながらに定められた婚約者がいた。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

25cmのシンデレラ

野守
恋愛
デパートに靴を買いに来た梨代は、自分の足に合う25センチのサイズが無くて落ち込んでいた。そこで偶然起こった暴漢騒ぎ。とっさに靴を投げて助けた男性は、まさに梨代が買おうとしていたブランドのメーカー「篠塚製靴」に勤める篠塚だった。しかも篠塚グループと呼ばれる現代財閥の御曹司だとか。 後日お礼として非売品の靴を届けに来た篠塚は、梨代にとある仕事の依頼を持ちかけて……。 御曹司が庶民を体験⁉ 王子様の「逆」シンデレラスト―リーが始まった! と思いきや、事態はあらぬ方向に。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

処理中です...