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第1部 奈美編
♫5 赤い糸で結ばれているほんとうの恋人を見極める事など誰にもできはしないけれど...
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その日京は、W大の知人のグループ展に行った。バイト先が一緒だった女子、ケイちゃんは写真をやっていて、学祭での写真サークルの催し物のひとつとして、写真を展示するので見にきてほしいと招待状をもらっていたのだった。
京は音楽のほかに写真もやっていて、ケイちゃんとはよく写真の話をして盛り上がった。彼女は、アラーキーも好きだけれども、いちばん好きなのは桑原甲子雄だと言っていた。
京も桑原甲子雄のフォト・ミュゼから出ている『東京-1934~1993』が大好きだったので、結構感激した。その写真集は分厚いのだけれど、ペーパーバックでハードカバーでないところも京は好きなのだった。
さて。ケイちゃんたちのグループ展には、バイト仲間の岡田と行ったのだけれど、ちょっと時間が遅かったのか、あるいは、遅い昼食にでも行ったのだろうか、みんな出払っていて受付の人はおろか誰もいなかった。
かなりスペースのある広々とした会場には、そこかしこに写真が掲げられてあった。
これまでもポートフォリオを何回か彼女に見せてもらっていたが、実際に会場まで足を運んだのはこれが、はじめてで彼女にはバンドのライブの写真も撮ってもらった事があった。
彼女の写真を広い会場の中から見つけ出すまでには、結構時間がかかったが、それでもケイちゃんは戻って来なかったので、もうきょうは帰ったのかもしれないと思い、名前だけ記帳して帰ることにした。
キャンパスは、とてつもなく広く部外者にはさらにわけがわからず、アウェイ感がハンパないので、岡田とふたり早々に退散することにした。
その岡田の、というか自分以外の、つまり他人の恋愛観など知る由もないが、岡田の彼女との別れ方が凄まじいものだった。とは言っても別段暴力を振るったわけでもなく、ただ待ち合わせの時間に現れなかっただけなのだが、その不誠実さというのが京にはちょっと理解できなかった。
岡田は、実際には早めに待ち合わせ場所に到着していて、遠くから彼女が苦しむ様をざまあーみろとほくそ笑みながら、彼女からのLINEや電話も一切無視して、ひたすら眺め続けていたらしい。
いったい岡田と彼女のあいだに何が起こったのか、わからないが、京が訊いたわけでもないのに、岡田は事の顛末というか、彼女への復讐の一部始終を自分の手柄のように得々として語るのを京は、黙って聞いていた。
愛は裏返してしまえば容易に憎しみへと変わる。岡田と元カノの恋のいきさつを全く知らないし、たとえおおよその内容を知り得たとしても、当事者であるふたりにしかわからないし、見えないものがあるだろう。
なので、京はあまりにも酷い恋人への仕打ちに対して、半ば呆れ辟易しながら岡田の話を聞いていたが、それに対して何も言わなかった。言わなかったというか、返す言葉がなかった。たぶん、岡田も彼女にデートをすっぽかされたことがあり、その仕返しだったのかもしれない。
そう考えると、どっちもどっちなのであり痴話喧嘩は犬も食わないというやつなのかもしれない。もしかしたらくっついたり離れたりを繰り返しながら、結局はゴールインして尻に敷かれるとか、そんなパターンも結構ありそうだ。
岡田もその線が濃厚な気がする。別れたと本人は言っているが、どうせまたコロッと気がかわり引っ付いたりするのだろう。ぶっちゃけ、岡田の恋愛観など京にはまったくわからないし、自分を基準にして考えるのだから、アドバイスもできない。
そういえば京自身も待ち合わせ場所に現われない恋人を6時間ほど待ったことがあった。
もう憶えてはいないけれど、その時には何かちょっとした事で喧嘩していて、敢えて待ち合わせ場所に現われない恋人を意固地になって待っていたのだった。
京はその元カノと必ずや結婚するつもりでいたけれど、世の中にはダメなものは絶対にダメという目には見えない厳しい掟がある。そんなケースでは、たとえ強引に結婚したとしても長くは続かない。京にはそういうところがあった。未来が見えるわけもないが、ある程度予想がついてしまう。
だから、元カノとの最後は両想いのまま、なし崩し的に別れたのだった。つまり、別れようとはふたりとも一度も言ってないのであり、蛇の生殺しのような状況が2年3年と続いた。
結局、赤い糸で結ばれているほんとうの恋人を見極める事は誰にもできはしないが、紆余曲折あっての出会いこそが恋の醍醐味なのかもしれない。なんて余裕をかましていられるのも若いうちだろうか。
◇
後日、わかった事だけれど、ケイちゃんはあの時、サークルの先輩がライブをやるとかで、まったく客が入らないので全員で応援に駆けつけていたらしい。
「京さんにすごく似てるんです、その先輩。まだ学祭やってるので、是非見に来てください」
ケイちゃん曰く、そういうことらしいのだけれど、京にはケイちゃんがその先輩に恋しているんですと言っているように思えて仕方なかった。
京は音楽のほかに写真もやっていて、ケイちゃんとはよく写真の話をして盛り上がった。彼女は、アラーキーも好きだけれども、いちばん好きなのは桑原甲子雄だと言っていた。
京も桑原甲子雄のフォト・ミュゼから出ている『東京-1934~1993』が大好きだったので、結構感激した。その写真集は分厚いのだけれど、ペーパーバックでハードカバーでないところも京は好きなのだった。
さて。ケイちゃんたちのグループ展には、バイト仲間の岡田と行ったのだけれど、ちょっと時間が遅かったのか、あるいは、遅い昼食にでも行ったのだろうか、みんな出払っていて受付の人はおろか誰もいなかった。
かなりスペースのある広々とした会場には、そこかしこに写真が掲げられてあった。
これまでもポートフォリオを何回か彼女に見せてもらっていたが、実際に会場まで足を運んだのはこれが、はじめてで彼女にはバンドのライブの写真も撮ってもらった事があった。
彼女の写真を広い会場の中から見つけ出すまでには、結構時間がかかったが、それでもケイちゃんは戻って来なかったので、もうきょうは帰ったのかもしれないと思い、名前だけ記帳して帰ることにした。
キャンパスは、とてつもなく広く部外者にはさらにわけがわからず、アウェイ感がハンパないので、岡田とふたり早々に退散することにした。
その岡田の、というか自分以外の、つまり他人の恋愛観など知る由もないが、岡田の彼女との別れ方が凄まじいものだった。とは言っても別段暴力を振るったわけでもなく、ただ待ち合わせの時間に現れなかっただけなのだが、その不誠実さというのが京にはちょっと理解できなかった。
岡田は、実際には早めに待ち合わせ場所に到着していて、遠くから彼女が苦しむ様をざまあーみろとほくそ笑みながら、彼女からのLINEや電話も一切無視して、ひたすら眺め続けていたらしい。
いったい岡田と彼女のあいだに何が起こったのか、わからないが、京が訊いたわけでもないのに、岡田は事の顛末というか、彼女への復讐の一部始終を自分の手柄のように得々として語るのを京は、黙って聞いていた。
愛は裏返してしまえば容易に憎しみへと変わる。岡田と元カノの恋のいきさつを全く知らないし、たとえおおよその内容を知り得たとしても、当事者であるふたりにしかわからないし、見えないものがあるだろう。
なので、京はあまりにも酷い恋人への仕打ちに対して、半ば呆れ辟易しながら岡田の話を聞いていたが、それに対して何も言わなかった。言わなかったというか、返す言葉がなかった。たぶん、岡田も彼女にデートをすっぽかされたことがあり、その仕返しだったのかもしれない。
そう考えると、どっちもどっちなのであり痴話喧嘩は犬も食わないというやつなのかもしれない。もしかしたらくっついたり離れたりを繰り返しながら、結局はゴールインして尻に敷かれるとか、そんなパターンも結構ありそうだ。
岡田もその線が濃厚な気がする。別れたと本人は言っているが、どうせまたコロッと気がかわり引っ付いたりするのだろう。ぶっちゃけ、岡田の恋愛観など京にはまったくわからないし、自分を基準にして考えるのだから、アドバイスもできない。
そういえば京自身も待ち合わせ場所に現われない恋人を6時間ほど待ったことがあった。
もう憶えてはいないけれど、その時には何かちょっとした事で喧嘩していて、敢えて待ち合わせ場所に現われない恋人を意固地になって待っていたのだった。
京はその元カノと必ずや結婚するつもりでいたけれど、世の中にはダメなものは絶対にダメという目には見えない厳しい掟がある。そんなケースでは、たとえ強引に結婚したとしても長くは続かない。京にはそういうところがあった。未来が見えるわけもないが、ある程度予想がついてしまう。
だから、元カノとの最後は両想いのまま、なし崩し的に別れたのだった。つまり、別れようとはふたりとも一度も言ってないのであり、蛇の生殺しのような状況が2年3年と続いた。
結局、赤い糸で結ばれているほんとうの恋人を見極める事は誰にもできはしないが、紆余曲折あっての出会いこそが恋の醍醐味なのかもしれない。なんて余裕をかましていられるのも若いうちだろうか。
◇
後日、わかった事だけれど、ケイちゃんはあの時、サークルの先輩がライブをやるとかで、まったく客が入らないので全員で応援に駆けつけていたらしい。
「京さんにすごく似てるんです、その先輩。まだ学祭やってるので、是非見に来てください」
ケイちゃん曰く、そういうことらしいのだけれど、京にはケイちゃんがその先輩に恋しているんですと言っているように思えて仕方なかった。
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