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第1部 奈美編
♬ 18 ブレークスルー
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実は京は、変な噂を聞いたことがある。奈美が見知らぬ若い男とショッピングモールを歩いていたのを見たというのだ。
まあ、この手の話しはよくあるが、奈美に限ってそんなことをするなんてありえないとしか言えない。なので京は、他人の空似というやつだろうと思った。
もしそれが事実ならば、明日地球は自転を止めてしまうか、一瞬にして凍結後、氷の塊となって爆発し粉々に砕け散るだろう。そのくらいありえないことなのだ。
しかし、青天の霹靂なんて言葉があること自体、ありえないことがあり得たということの証なのだから、「絶対」という言葉の方がありえないのかもしれない。
奈美も人間なのだし、間違いということもあるだろう。まだ結婚しているわけでもないのだし、奈美にも気のおけない男友だちもいるだろうから、そういう仲のいい友達と会うなというのも、おかしな話だ。
京は、そんな風に恋人を束縛したことはないし、これからも束縛するつもりなどない。いちばん信頼してほしい相手に信頼されずに疑われることほど悲しいこともない。
それでも、確かに信頼している相手も猜疑の目で見てしまうのもまた人間というものなのかも知れず、京にもむろん猜疑心はあるが、そんな目で奈美のことを見てしまったり、考えたりするのは恥ずかしく浅ましい行為ではないかと思った。
嫉妬というものは、するつもりもないのに誰しもが経験する好きの裏返しのネガティブな感情で、いつのまにかそんな感情に人は雁字搦めにされてしまう。
京も、もし奈美が他の男と手を繋いでいたり、キスしている様を想像すると、居ても立っても居られないような落ち着かない気分になるが、ほんとうにそんな事態にまで発展してしまっているならば、どうぞご勝手にというのが京の性格だった。
性格というのもおかしいかもしれないが、一気に冷めてしまう。もちろん、それが事実とわかったならば高層ビル30階相当100メートルバンジージャンプをやるような恐怖に打ち震えるだろうし、身も世もなく悲嘆に暮れるだろうけれど、その後はもう苦痛を感じなくなってしまう無感覚で無機質なゾーンに突入してしまう。
半狂乱になって事実確認し、泣きわめきながら力づくで復縁を迫るなんて修羅場は想像しただけでも、ゲンナリする。それが、京という人間だった。
愁嘆場を演じるというのも人間らしくていいと思うし、暴力を振るうなどという馬鹿なまねをしなければ、悲しい場面では、しっかり泣いておかなければ逆にいつまでも引きずることにもなる。
ただ、京の場合は泣いて気持ちを整理したならば、もうそこからはすべてが馬鹿らしくなってしまうのだった。物事にあまり拘泥しないのは、子どもの頃からだった。
しかし、ここに来て京は、何やらモヤモヤしている自分の心うちが、少し不安だった。奈美のことを考えてということではなく、京の自分自身の心持ちが穏やかではないのだった。
それもこれも、すべてはあの超絶美少女のせいだった。むろん、京が勝手にモヤモヤしているだけにすぎないのだけれど、ソックリさんなのか本人なのか皆目わからないが、地下鉄の構内ですれ違ったという、シチュエーションがヤバかった。
よく対向車の助手席に乗っている女性や、或いは女性ドライバーは、すれ違いざまに数秒垣間見るだけなので美人に見えてしまうという都市伝説があるかどうかは知らないが、確かに『すれ違いざま』というのは一瞬なだけに盛れて見えてしまうという不思議な魔力があるのかもしれない。
なので、京がすれ違いざま見た飛鳥ちゃんも、かなり京自身が飛鳥ちゃん本人に寄せて見てしまったのかもしれず、そんな風に考えてみると納得はできるのだがモヤモヤは一向に消えないのだった。
むろんのこと、そのモヤモヤの正体は、『恋』なのかも知れず、京は内心ヒヤヒヤしているのだった。飛鳥ちゃんをひとめ見た時からヤバイという予感があったから、その未だ名のつかない心の蠢きの芽を努めて育たないようにしてきたはずなのだけれど、見て見ないふりする自家撞着は、京の中に一層飛鳥ちゃんの面影を色濃く映し出すことになってしまったのかもしれない。
ちなみに制動というのはブレーキをかけることだが、危険が差し迫っているからと咄嗟に急ブレーキを踏み込むと、スピードがあまり出ていない場合の停止時の衝撃はさほどでもないけれど、ハンパないスピードのケースでは自動車が宙に舞い大惨事になることもある。
だから、京は急ブレーキをかけてタイヤが横滑りなどしないように、何回かに分けて小刻みに制動しているつもりにもかかわらず、飛鳥ちゃんへの思慕は本人の思惑に反比例して膨らんでいくようなのだった。
だが、京としては今カノである奈美のことを裏切るつもりはない。自分が勝手に恋の予感めいたものを感じてモヤモヤし舞い上がっているだけなのであり、奈美を泣かすなんてまねは金輪際できない。
男として断じて奈美に涙を流させない。そう考えている。だから、もう飛鳥ちゃんと会うつもりはなかった。
まあ、この手の話しはよくあるが、奈美に限ってそんなことをするなんてありえないとしか言えない。なので京は、他人の空似というやつだろうと思った。
もしそれが事実ならば、明日地球は自転を止めてしまうか、一瞬にして凍結後、氷の塊となって爆発し粉々に砕け散るだろう。そのくらいありえないことなのだ。
しかし、青天の霹靂なんて言葉があること自体、ありえないことがあり得たということの証なのだから、「絶対」という言葉の方がありえないのかもしれない。
奈美も人間なのだし、間違いということもあるだろう。まだ結婚しているわけでもないのだし、奈美にも気のおけない男友だちもいるだろうから、そういう仲のいい友達と会うなというのも、おかしな話だ。
京は、そんな風に恋人を束縛したことはないし、これからも束縛するつもりなどない。いちばん信頼してほしい相手に信頼されずに疑われることほど悲しいこともない。
それでも、確かに信頼している相手も猜疑の目で見てしまうのもまた人間というものなのかも知れず、京にもむろん猜疑心はあるが、そんな目で奈美のことを見てしまったり、考えたりするのは恥ずかしく浅ましい行為ではないかと思った。
嫉妬というものは、するつもりもないのに誰しもが経験する好きの裏返しのネガティブな感情で、いつのまにかそんな感情に人は雁字搦めにされてしまう。
京も、もし奈美が他の男と手を繋いでいたり、キスしている様を想像すると、居ても立っても居られないような落ち着かない気分になるが、ほんとうにそんな事態にまで発展してしまっているならば、どうぞご勝手にというのが京の性格だった。
性格というのもおかしいかもしれないが、一気に冷めてしまう。もちろん、それが事実とわかったならば高層ビル30階相当100メートルバンジージャンプをやるような恐怖に打ち震えるだろうし、身も世もなく悲嘆に暮れるだろうけれど、その後はもう苦痛を感じなくなってしまう無感覚で無機質なゾーンに突入してしまう。
半狂乱になって事実確認し、泣きわめきながら力づくで復縁を迫るなんて修羅場は想像しただけでも、ゲンナリする。それが、京という人間だった。
愁嘆場を演じるというのも人間らしくていいと思うし、暴力を振るうなどという馬鹿なまねをしなければ、悲しい場面では、しっかり泣いておかなければ逆にいつまでも引きずることにもなる。
ただ、京の場合は泣いて気持ちを整理したならば、もうそこからはすべてが馬鹿らしくなってしまうのだった。物事にあまり拘泥しないのは、子どもの頃からだった。
しかし、ここに来て京は、何やらモヤモヤしている自分の心うちが、少し不安だった。奈美のことを考えてということではなく、京の自分自身の心持ちが穏やかではないのだった。
それもこれも、すべてはあの超絶美少女のせいだった。むろん、京が勝手にモヤモヤしているだけにすぎないのだけれど、ソックリさんなのか本人なのか皆目わからないが、地下鉄の構内ですれ違ったという、シチュエーションがヤバかった。
よく対向車の助手席に乗っている女性や、或いは女性ドライバーは、すれ違いざまに数秒垣間見るだけなので美人に見えてしまうという都市伝説があるかどうかは知らないが、確かに『すれ違いざま』というのは一瞬なだけに盛れて見えてしまうという不思議な魔力があるのかもしれない。
なので、京がすれ違いざま見た飛鳥ちゃんも、かなり京自身が飛鳥ちゃん本人に寄せて見てしまったのかもしれず、そんな風に考えてみると納得はできるのだがモヤモヤは一向に消えないのだった。
むろんのこと、そのモヤモヤの正体は、『恋』なのかも知れず、京は内心ヒヤヒヤしているのだった。飛鳥ちゃんをひとめ見た時からヤバイという予感があったから、その未だ名のつかない心の蠢きの芽を努めて育たないようにしてきたはずなのだけれど、見て見ないふりする自家撞着は、京の中に一層飛鳥ちゃんの面影を色濃く映し出すことになってしまったのかもしれない。
ちなみに制動というのはブレーキをかけることだが、危険が差し迫っているからと咄嗟に急ブレーキを踏み込むと、スピードがあまり出ていない場合の停止時の衝撃はさほどでもないけれど、ハンパないスピードのケースでは自動車が宙に舞い大惨事になることもある。
だから、京は急ブレーキをかけてタイヤが横滑りなどしないように、何回かに分けて小刻みに制動しているつもりにもかかわらず、飛鳥ちゃんへの思慕は本人の思惑に反比例して膨らんでいくようなのだった。
だが、京としては今カノである奈美のことを裏切るつもりはない。自分が勝手に恋の予感めいたものを感じてモヤモヤし舞い上がっているだけなのであり、奈美を泣かすなんてまねは金輪際できない。
男として断じて奈美に涙を流させない。そう考えている。だから、もう飛鳥ちゃんと会うつもりはなかった。
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